お知らせ・(講義に関連する)ニュース 2015

2016年のニュース / 2014年のニュース

   
2015.12.31.

ルワンダ国際刑事裁判所閉鎖

安全保障理事会決議955 (1994)により設立されたルワンダ国際刑事裁判所は当初より一時的なものと想定されており、決議1503 (2003)1534 (2004)によりその活動の終了に向けて準備することが定められ、決議1966 (2010)により、旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所と併せて事後処理を担当するメカニズム(Mechanism for International Criminal Tribunals)に活動を引き継ぐこととされましたが、遅れに遅れてこの日となりました。旧ユーゴの方はまだ活動を続けています。

2015.12.22
-23 .

2nd Kyoto-Seoul Joint Student Seminar in International Law

昨年9月(ソウル)に続き、今回は京都で開催しました。昨年5月には北京大学国際法学院と同じ形式でのセミナーを実施しており、この3月には香港中文大学との開催を予定しています。

2015.12.17.

国連総会、投資条約仲裁の廃棄を求める独立専門家報告書に「留意する」決議

決議70/149自体は12月17日に採択されていたようですが、国連文書として公表されたのは3月2日ですので、気がつくのが遅くなりました(この記事を掲載したのは2016年3月8日です)

この「独立専門家報告書」とは、Report of the Independent Expert on the promotion of a democratic and equitable international order (U.N. Doc. A/70/285) のことで、2015年8月に事務総長を介して国連総会に提出されたものです。同報告書では、投資条約仲裁への明確な反対が示され、その廃棄が主張されています。なお、この「独立専門家」はde Zayas氏で、2015年6月2日付の記事に示した文書を作成した人でもあります。

決議の関連部分は、

3. Takes note of the report of the Independent Expert of the Human Rights Council on the promotion of a democratic and equitable international order, and notes in this regard its focus on the adverse human rights impact of international investment agreements, bilateral investment treaties and multilateral free trade agreements on the international order;

となっており、上記報告書が引用されています。総会はtakes note ofあるいはnotesしただけなので、報告書を支持したというわけではないのですが、報告書を批判しているわけでもありません。ちなみに、この総会決議はコンセンサス採択されており、ということは日本もこれに対して(コンセンサスでの採択を阻止するほどの)明示的な反対はしていません。

*     *     *

【追記(2016年3月9日)

関連資料を挙げておきます。

  • 国連総会第3委員会(上記報告書を審議)に提出された決議案 後に決議70/149になったもの。
  • その決議案の審議(パラ39-43) 実質的議論はありません。
  • 第3委員会での表決(121-53-5で採択) 第3委員会では反対票がたくさんありました。全体会合では、上記の通りなぜかコンセンサス採択ですが。
2015.12.17.

Philip Morris対オーストラリア、管轄権否定の仲裁判断

いろいろと話題を呼んだこの事件ですが、管轄権否定の判断が出たとのことです。報道にあるように、仲裁判断文が公表されるまでにはもう少し時間がかかるようです。ちなみに、EFTA裁判所ではすでにPhilip Morrisが実質敗訴と言っていい判断がずいぶん前に示されています。現在、類似の事案としては、投資仲裁ではPhilip Morris対ウルグアイが、WTOではウクライナホンデュラスドミニカ共和国キューバインドネシアがそれぞれオーストラリアを相手に申し立てたものが、いずれも係属中です。

2015.12.10.

EU裁判所下級審、EU・モロッコ農産品・水産品貿易協定の締結に関するEU理事会決定につき、同協定が西サハラに適用される限りにおいて無効と判断

Front Polisario c. Conseil et Commission (T-512/12, ECLI:EU:T:2015:953) です。EU法に関心のある人にとってはポリサリオ戦線に原告適格を認めた(パラ105-114)点において、国際法に関心のある人にとってはモロッコと西サハラとの関係を扱っている点において、興味深い判断です。もっとも、後者の点についても、たとえば自決権が強行規範でありそれに反する条約だから無効だという主張は退けており(パラ200, 205, 211)、結局のところEU諸機関の裁量権の濫用という観点から議論をしています(パラ223, 225, 244, 247)ので、国際法の議論が直接結論に結びついているわけではありません。

いずれにせよ、これは第一審であり、上級審でどう判断されるか要注目です(とりわけ原告適格につき、参照:2013年10月3日の記事。なお、上記判決は現時点ではフランス語版のみ公表されています。講義でも説明しているとおり、EU裁判所の作業言語はフランス語ですので、裁判官が作成する判決文はフランス語版のみで、他の公用語版はすべて翻訳です。

2015.12.02.

EU-ヴェトナムFTA 上訴を含む常設投資裁判所を設置

EUの発表によれば、交渉は終了し、条約文の細かい整理とEU全公用語およびヴェトナム語への翻訳の後、EU内での承認手続に入るとのことです。どの段階で条文が公開されるのか現時点では不明ですが、要注目です。この条約が発効すれば、上訴制度を有すること、常設であることの二つにおいて、史上初の投資紛争処理制度が誕生することになります。これまでTTIPとの関連でのみ議論されてきました2015年11月12日9月16日の記事)が、ヴェトナムとの交渉が先行することになりました。

2015.11.30.

新南極海鯨類科学調査計画(NEWREP-A)のための調査船団出港発表

水産庁のプレスリリースで、「本調査は、国際司法裁判所の判決を踏まえ策定された、新調査計画『新南極海鯨類科学調査計画(NEWREP-A)』に基づく調査で、国際捕鯨取締条約第8条に基づき、実施します。」と発表されています。

オーストラリア環境大臣ニュージーランド外務副大臣は、それぞれの政府を代表して批判的見解を既に発表しています。

2015.11.17.

ロシア、シリア空爆を自衛権で正当化

大統領の声明によれば、シナイ半島上空でのロシア航空機爆破との関連での武力行使を国連憲章51条で正当化するようです。「さらなる武力攻撃を防止するために」と主張するのか、あるいは他の論理があるのか、現時点では定かでありません。

参照:2015年9月27日2014年9月25日2014年9月23日の記事。

2015.11.16.

フランス、EU条約42条7項を援用

フランス議会上下院合同会議における大統領演説において述べられています。リスボン条約により導入されたEU条約42条7項は、国連憲章51条に言及しており、集団的自衛の(権利ではなく)義務を定めたとも読める規定ですが、その規定内容は必ずしも明確ではありません。今回、フランスによりこの条項が初めて援用されることになりましたが、フランスもこれにより具体的に何を要請するのかについて確たることはまだ述べていないようです。

【追記(11月18日)

17日のEU理事会において、構成国の国防相が一致してEU条約42条7項の要請に応じることを決定したそうです。まだ公式文書の形では公表されていないようですが、理事会後の記者会見において、モゲリーニEU上級代表が以下のように述べています。

Many ministers today have already announced offers of support through material assistance as well as through announced support in other theatres, thus enabling to free up additional French capabilities. France will be in contact bilaterally with Member States in the coming hours and days to specify the support it requires. And the European Union will ensure the greatest effectiveness in our common response.

なお、この理事会は「国防相も出席した外務理事会」です。EU理事会は「防衛理事会」として国防相によってのみ開催されることはありません。理事会の種別についてはこちら

2015.11.12.

EU、TTIP交渉において上訴を含む常設投資裁判所を米に提案

9月16日の記事に記したEU内部での提案が、EUの中で理事会および議会との協議を経て、米に正式に提案されました(多少の変更はあるようです)。条文案はこちら

2015.11.09.

WADA独立調査委員会、ロシアによる組織的ドーピング(隠蔽行為)を指摘

報告書はこちらWADA Codeの違反が問題となります。報告書中には「WADA Codeの2.8条および2.9条違反」との指摘がたびたび出てきますが、WADA Codeはその時点での版が適用されるため、2003年の第3版あるいは2009年版が適用される場合は2.8条の違反となります(2.9条は2015年版で2.8条から独立)。もっとも、今回の(報告書が事実を正確に示しているのであれば)凄まじい違反の前には、版の違いなど些末な問題と言えそうです。

これは国際法の問題ではないと思われる方は、2005年UNESCOアンチドーピング条約および1989年ヨーロッパ評議会アンチドーピング条約をご覧ください。

2015.11.05.

TPPテキスト公開

寄託先のニュージーランド政府サイトで公開されています。

2015.10.29.

フィリピン対中国仲裁管轄権判断

管轄権ありとのことです。フィリピンの請求の一部につき管轄権を認め、その他についての管轄権の有無は本案と併せて検討する、と述べています。一部につき管轄権を認めるという結論自体は、大方の予想に沿ったところではないでしょうか。内容については精査しなければなりませんが。

2015.10.13.

日本政府、UNESCOへの分担金拠出停止を検討

拠出停止の可能性を検討していると官房長官が述べています13日午前記者会見。動画の12分前後および17分前後)UNESCO憲章9条2項によれば、"The General Conference shall approve and give final effect to the budget and to the apportionment of financial responsibility among the States Members of the Organization"ですので、UNESCO憲章違反になることを承知の上で(その場合の帰結は4条8項(b))、それでも検討するということなのでしょう。

国際機構への分担金拠出拒否はときどき問題になります。最も著名なのが1962年の国連経費勧告的意見を生んだ事例で、とりわけ勧告的意見後の国連での問題処理は法的観点から極めて興味深いものです。この事例を扱った日本語文献には、田所昌幸『国連財政』(有斐閣、1996年)があります。

2015.10.09.

安全保障理事会、リビア沖で移民を不法に輸送する船舶を臨検・拿捕する権限を付与

決議2240 (2015)です。国連憲章39条の「平和に対する脅威」を明示的には認定しておらず、「平和に対する脅威」を認定している他の決議に言及するわけでもなく、「国連憲章第7章下での行動」として、リビア沖で移民を不法に輸送する船舶あるいは人身売買に従事する船舶の公海上での臨検・拿捕を授権しています(前文最終段、7項、8項、10項)。国連憲章第7章の使い方については様々な実行や議論の蓄積がありますが、今回の決議については、いかなる根拠で国連憲章第7章が援用されたと考えるべきか、また、このような臨検・拿捕が国連憲章第7章のどの条文に根拠を置くのか(あるいは具体的条文ではない何らかのものに根拠があるのか)、さらに議論を呼ぶことになるでしょう。

2015.10.07.

任期付外務省職員の臨時募集(日EU・EPA関連分野)

学生のみなさんには今すぐには関係しませんが、弁護士になったら将来こういう道もあるということは知っておいて下さい。

2015.10.06.

米国防省、アフガニスタン・クンドゥーズでの病院空爆は誤爆との認識

上院Armed Service Committeeにおける答弁など、国防省サイトに記事があります。

病院等の保護については、1949年ジュネーヴ第一条約19条、第四条約18条に規定があります。1977年第一追加議定書12条にさらに具体的な規定がありますが、アメリカ合衆国は同議定書の当事国ではありません。

国際刑事裁判所規程8条2項(b)(ix)は病院への故意の攻撃を戦争犯罪としていますが、国防省の主張によれば故意はないとのことです。アメリカ合衆国は国際刑事裁判所規程当事国ではありませんが、アフガニスタンは当事国です。なお、米・アフガニスタンは、いわゆる98条協定を締結しています。

2015.09.29.

フランス大統領、大規模残虐行為がある場合に安保理で拒否権を行使しないことを「約束」

国連総会で、"Je m’engage ici à ce que la France n’utilise jamais son droit de veto lorsqu’il y a des atrocités de masse."(「大規模残虐行為が生じた場合にフランスは決して拒否権を行使しないことを、私はここに約束いたします。」)と述べています。以前からフランスはこのような場合にはいずれの常任理事国も拒否権を行使しないようにすべきことを主張していましたが、今回、このような行動に出ました。さて、国際司法裁判所核実験事件判決(1974年)(オーストラリア提訴ニュージーランド提訴)を前提にすると、これはフランスを法的に拘束する約束でしょうか。拘束するのであれば、その法的効果はどういうものになるでしょうか。いろいろ考えさせられる「約束」です。

2015.09.27.

フランス、シリア空爆

大統領府声明によれば、« contre la menace terroriste que constitue Daesh »(「『イスラーム国フランス語ではDaeshないしDaechと呼ぶのが一般的です』がもたらすテロの脅威に対して」空爆したとのことです。« Nous frapperons à chaque fois que notre sécurité nationale sera en jeu. »(「我々の国の安全が危うくなる場合には常に攻撃するであろう」)とも述べていますので、自衛権の主張と思われます。

すでに9月15日に、フランス憲法35条に基づいて軍事行動の際に求められる議会報告を首相が国民議会において行った際、国連憲章51条に基づく自衛権行使が明言されていました。また、いずれは国連憲章51条に基づく安保理への報告が公表されるはずです。このような場合における武力行使が合法であるという見解は有力ですが、それを自衛権概念を用いて説明するのか、そうだとしてどういう理論構成を行うかについては論争の絶えないところであり、今回の実行も注目に値します。

【追記(9月27日)

2014年9月23日の記事に記したアメリカ合衆国による空爆の際、フランス外務大臣は既にフランスによるシリア領内空爆も国連憲章51条による正当化が可能だと述べていました。2014年9月22日付の外相記者会見記録を検索してみて下さい

【追記(11月19日)

フランスが安保理に提出した報告(S/2015/745)によれば、

Dans leur lettre datée du 20 septembre 2014 adressée à la présidence du Conseil de sécurité des Nations Unies (S/2014/691), les autorités iraquiennes ont demandé l’assistance de la communauté internationale dans la lutte contre les attaques perpétrées par Daech.

Conformément aux dispositions de l’Article 51 de la Charte des Nations Unies, la France a engagé des actions impliquant la participation de moyens militaires aériens face aux attaques perpétrées par Daech à partir du territoire de la République arabe syrienne.

すなわち、イラクが国際社会に援助を求め、フランスは憲章51条に基づき行動する、ということですので、イラクの要請による集団的自衛権という論法をとっているようです。11月13日のパリでのテロ行為の後になされたフランスによる攻撃については別の主張をしているかもしれず、注視する必要があります。

2015.09.24.

EU委員会、フォルクスワーゲン問題について声明

声明文からリンクが貼られているEuro 5/6 Regulation 715/2007/ECの5条2項に、"defeat devices"の使用を禁じる規定があります。

2015.09.16.

EU委員会、常設投資裁判所の設置を正式に提案

こういう話は前から出ていましたが(参照、2015年5月28日の記事、ついに正式の提案に至ったようです。常設裁判所(二審制)については、提案の9条と10条を見てみてください。Annex IIも注目に値します。仮にこの提案がTTIPないし日EU EPAに採用されるとして、ECJがどのように判断するか、見ものです(参照、2014年12月18日の記事。なお、提案の概要はこちら

【追記(9月29日)
「正式の」と書きましたが、リンク先の提案を読めば判るように、委員会が理事会と構成国と議会とに向けてなした提案ですので、EU内部では「正式の」提案ですが、対外的には「正式」にはまだ何も提案されていません。誤解を招く表現でしたので注記しておきます。

2015.09.03.

中国軍艦、米国領海を無害通航

一次資料はまだ見つけていませんが、報道によれば、米政府は「無害通航なので合法だ」との立場のようです。軍艦に無害通航が認められるかは従来から議論のあるところで、国際法の試験でも一時期好んで出題された問題ですが、さしあたり、中国の領海・接続水域法(1992年)の6条を見ておくと良いでしょう。

2015.08.24.

国際海洋法裁判所、Enrica Lexie事件暫定措置命令

海賊対策のためにイタリア船舶に乗船していた海軍兵士2名が、インド沖20海里付近においてインド漁船を誤射してインド人船員2名を死亡させたことについて、インドがイタリア海軍兵士2名の身柄を拘束している(うち1名は健康上の理由によりイタリアへの帰国が認められた)ところ、イタリアは本件管轄権は当該兵士が乗船していた船舶の船籍国であるイタリアにあると主張して国連海洋法条約第7部に基づく仲裁を申し立て、同条約290条に基づいて暫定措置を国際海洋法裁判所に求めました。本件事実関係については、イタリアの仲裁申立書と、インドの暫定措置に関する主張書面とを参照して下さい。

国際海洋法裁判所は、暫定措置命令において、本事件についてインド・イタリア両国とも国内司法手続を停止すべきことを命じる(主文パラ1)一方、イタリア海軍兵士の身柄については本案で判断すべきこととして暫定措置命令では扱わないとしました(パラ132)。身柄の解放を命じなかった点では国際司法裁判所のテヘラン人質事件仮保全措置命令と異なりますが、これは本件暫定措置命令パラ129-130に示されたインドの態度によるものでしょう。

本命令では、暫定措置命令の要件としての回復不能性・緊急性について少なくとも明示的には検討はなされておらず、紛争の悪化防止のみが暫定措置命令発出の根拠とされているようです(パラ131)。ただし、これも上記のインドの態度と合わせて考慮すべきことではあります。

なお、この命令を受けて、インド最高裁は当該兵士に対する司法手続の停止を命じたと報じられています。なお、リンク先の新聞記事には明白な誤りがあります。気がつきますでしょうか。

2015.08.14.  

法科大学院生および法曹を目指す学部学生へ

夏休みにゆっくりと将来に考えをめぐらせるために、"Too many lawyers: future-proof your degree"という新聞記事を読んでみてください。一部を抜き書きしてみましょう。

  • Computers are replacing many functions once performed by lawyers, especially young lawyers who have traditionally done the case grunt work.
  • [The lawyer's profession is] going to be a world where you still really need to concentrate on your core skills and then be prepared for a whole new range of possibilities – internationally, globally, the walls are breaking down. You've got to be competitive internationally.
  • It is not the case any more that you go into a top-tier firm, sit in your chair for 20 years and become a partner. It does not work like that any more and it's probably not what you want any more.

つまり、too many lawyersといっても、弁護士が増えすぎているので司法試験合格者数を減らせ、とかいうレヴェルの低い話ではありません。「日本語の壁」で頑丈に守られた井の中では弁護士が増えすぎているのかもしれませんが、そこから一歩でも出れば仕事は山ほどあります(参照、「特集2 弁護士の国際業務の広がりと今後の展望」自由と正義2015年7月号、山本晋平「国際領域における法律家の職域」法律時報86巻9号(2014年8月)46頁)

ちなみに、国連だけ見てもたくさん仕事があります。UN Careersのトップページの下の方にある"Search Job Openings"で、"Job Network"のところを"Legal"にして検索してみてください。現在募集中のものだけで相当数の仕事があります。

とはいえ、パラリーガルは近い将来コンピューターないしロボットに置き換えられると言われているように、"many functions once performed by lawyers, especially young lawyers"も同じ運命にありそうです。では、future-proof your degreeのためにみなさんが今しておくべきことはどういうことでしょうか?

【8月18日追記】

日経に、「UBIC、国際訴訟の裏方」という8月18日付の記事が出ていました。リンク先は有料会員限定ですが、まさに、"many functions once performed by lawyers, especially young lawyers"が上のような運命にあることが説明されています。

2015.08.06.

南シナ海と沖ノ鳥島

「クアラルンプールで6日開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議で、中国の王毅外相が、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島での岩礁埋め立てを批判する日本代表に対し、日本最南端の沖ノ鳥島で日本政府が進める港湾施設整備を取り上げて反論していたことが分かった。」と報じられています

中国外務省のウェブサイトには、その外相発言の英訳が掲載されています。関連部分は以下の通り。

Just now, the delegate of Japan also mentioned the South China Sea issue and claimed that all artificial land features cannot generate any legal rights. But let's first have a look at what Japan has done. Over the past years, Japan spent 10 billion yen building the Rock of Okinotori, turning this tiny rock on the sea into a man-made island with steel bars and cement. And on that basis, Japan submitted its claim to the United Nations over the continental shelf beyond the 200-nautical-mile exclusive economic zone. The majority members of the international community found Japan's claim inconceivable and did not accept it. So before making comments on others, Japan had better first reflect on what itself has said or done. China is different from Japan. Our claim over rights in the South China Sea has long been in existence. We don't need to strengthen our position through land reclamation.

日本のメディアでは、中国外相が「日本が沖ノ鳥島で『鉄筋コンクリートを使って人工島をつくり、排他的経済水域(EEZ)を主張している』と指摘」等とも言われていますが、中国外相はそういう言い方はしていないことは上を読めば判ります。このページでもしばしば指摘するように、メディアの報道は常に正確とは限りませんので、可能な限り原典(中国外相発言は中国語でしょうが、中国外交部による英訳なので「原典」と言っていいでしょう)に当たる癖を付けましょう。

以下、簡単に解説しますが、その前に沖ノ鳥島の現状について東京都のウェブサイトにある動画での説明を見ておくといいでしょう。

中国外相発言中の"the delegate of Japan"の発言とは、日本外相の「暗礁・低潮高地,またはそれらを埋め立てた人工島は,国際法上,排他的経済水域や大陸棚どころか領海・領空を有しない」という発言のことと思われます。これは、国連海洋法条約13条2項・60条8項を指摘しているのでしょう。中国外相は、形の上ではそれへの反論として議論を展開していますが、実質的には反論ではなく別の議論を展開しています。

まず、中国外相は、沖ノ鳥島(中国によれば"the Rock of Okinotori")は「暗礁・低潮高地、またはそれらを埋め立てた人工島」であるとは言っていません。中国は、遅くとも2009年から、沖ノ鳥島は国連海洋法条約121条3項にいう"[r]ocks which cannot sustain human habitation or economic life of their own"であるという立場を採っています(ちなみに、韓国も中国とほぼ同じタイミングで同じ見解を表明しています。すなわち、沖ノ鳥島は「暗礁」でも「低潮高地」でも「人工島」でもなく、少なくとも領海を有する、ということは争っていません。今回の中国外相発言もその線を維持していますので、その限りでは日本外相発言への反論になっていません。

別の議論とは、もちろん、沖ノ鳥島は"[r]ocks which cannot sustain human habitation or economic life of their own"なのだから排他的経済水域・大陸棚を持たないのだ、というものです。この主張は上記2009年書簡で示されており、2011年にも繰り返されています韓国もやはりほぼ同時に同旨を繰り返しています。上記の中国外相発言は、日本が行った大陸棚延長(国連海洋法条約76条4項〜8項)の申請につき、"[t]he majority members... did not accept it"と述べていますが、この"majority"の中に中国・韓国以外のどのような諸国が含まれるのかは、例も典拠も示されていないので不明です。

ちなみに、日本による大陸棚延長申請については、日本が申請した7海域のうち6海域について大陸棚限界委員会(海洋法条約76条8項)により2012年に認められており、そこには沖ノ鳥島を起点とする四国海盆海域が含まれています外務省サイト)。同委員会が判断を先送りした1海域は九州・パラオ海嶺南部海域で、これも「沖ノ鳥島を起点とする大陸棚延長」です。大陸棚限界委員会の判断についての日本の理解は、2012年5月25日外務報道官記者会見、2014年3月27日参議院国土交通委員会(同会議録3頁)、2015年3月10日衆議院予算委員会第一分科会(同会議録46頁)で示されています。そこにも出てきますが、大陸棚限界委員会は、国連海洋法条約121条を解釈することは同委員会の役割ではない、と述べています(U.N. Doc. CLCS/62, para. 59)。

*   *   *

なお、「『島』なら排他的経済水域・大陸棚を有し、『岩』なら有さない」、という説明がしばしばなされますが、これは誤りです。教科書218頁を参照してください。したがって、「沖ノ鳥島は『島』か『岩』か」という議論は、問題の立て方が間違っています。ただ、「『島』か『岩』か」と単純化して議論した方が一般には判りやすいでしょうから、今後も不正確な形で議論が続けられることになると思われます。そのこと自体はやむを得ませんが、厳密に言えば問題は「『島』か『岩』か」ではない、ということは押さえておいて下さい。

2015.07.29.

「戦争」概念について

参議院「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」で、やや気にかかる「戦争」という語の用いられ方が見られます。まだ会議録は公表されていません数日中に公表されると思います)ので、比較的忠実に再現していると思われるメディアを参照してみます。7月29日の議論です。

西田実仁(公明党)「戦争という言葉には、侵略戦争とか、違法な武力の行使といったニュアンスがある。わが国が直接攻撃を受けて対応する、個別的自衛権の措置の際、戦争に参加するとは言わない。そこで、今回の平和安全法制における憲法9条の下で許される自衛の措置は、わが国に対する攻撃がある時はもちろんだが、まだわが国に対する攻撃がなくても、密接に関係する他国に対する攻撃がきっかけとなって、わが国に甚大な影響を及ぼす明らかな客観的な危険がある、こういうときに対応するものであって、これを戦争への参加と呼ぶにはかなり違和感を覚える。」

安倍晋三内閣総理大臣「国連憲章の下では戦争は違法化されている。国連憲章の下で違法でない武力の行使は、個別的自衛権と集団的自衛権によるもの、国連安保理決議に基づく集団安全保障措置の三つのみだ。 憲法第9条の下で許容される自衛の措置わが国が新3要件の満たされた場合に行う武力の行使は、あくまでも、わが国の自衛のための措置であり、国際法上も正当な行為だ。にもかかわらず、戦争する、戦争に参加するという表現を用いることは、あたかも違法な行為をわが国が率先して行っていると誤解されかねない、極めて不適切な表現だと思う。わが国の自衛のための措置、わが国の防衛のための実力の行使という表現を用いることが適切であると考える。」

日常用語としての「戦争」の意味について議論されているのであればともかく、国際法上の用語として議論されているようであるところが気になります。そこで、国際法上、どういう意味で「戦争」が用いられているか、標準的なものとして、辞書類を見てみましょう。

  • 藤田久一「戦争」国際法学会(編)『国際関係法辞典(第2版)』(三省堂、2005年)
     [戦争とは]実質的意義では、一般に国家間における紛争処理のため、ないし自国の意思に相手国を従わせるために、その軍事組織(軍隊)間で相当の規模で行われる武力行使を中心とする闘争の状態を指す。[中略]第1次大戦後の国際連盟規約、不戦条約、国連憲章と続く戦争の制限、さらに違法化の流れの中で、一般に戦争または国際関係における武力行使、さらに武力による威嚇さえも違法な侵略ないし国際犯罪として禁止されることとなった。したがって、違法な侵略戦争は、国際社会(現実には国連)による制裁の対象とされることになる。

ここから、「武力行使」も禁止の対象になっていること、制裁の対象とされるのはただの「戦争」ではなく「違法な侵略戦争」とされていることが判ります。「いや、『戦争の違法化』と言うし、上の辞書でもそれらしいことが書かれている。」という反論があるかもしれません。さらに他の辞書を見てみましょう。

  • "Guerre", Jean Salmon (sous la direction de), Dictionnaire de droit international public, Bruxelles, Bruylant, 2001.
    Sens juridique : état ou situation déclanchée par une confrontation armée entre deux ou plusieurs États ou par une simple déclaration à cet effet, et auxquels s'applique un corps de règles de droit international distinct de celui applicable en temps de paix (droit de la guerre, droit de neutralité).
    [M本訳]法的意味:二つまたは三つ以上の国家間における武力による衝突により、あるいはその旨の宣言のみにより生じ、平時に適用されるのとは異なる一連の国際法規則(戦争法、中立法)が適用される状態または状況。

ここには、戦争は一般に違法だという記述はありません。この辞書には、単なる「戦争(guerre)」とは別に「侵略戦争(guerre d'agression)」という項目が立てられており、その語は

Guerre déclanchée par un Etat agissant le premier en violation de ses obligations internationales.
[M本訳]国際法上の義務に違反して最初に行動する国家により引き起こされる戦争。

と説明されています。違法なのは「戦争」ではなく「侵略戦争」なわけです。

もう一つ辞書を見てみましょう。

  • "war", John P. Grant & J. Craig Barker, Parry & Grant Encyclopædic Dictionary of International Law, 3rd ed., Oxford, Oxford University Press, 2009.
    U.N. Charter outlawed the use and threat of force, making war (armed conflict between States) illegal save in self-defence (art. 52 [sic: 51]) or as ordered or authorized by the U.N. Security Council under Chap. VII of the Charter.

ここでも、「自衛の場合と安保理が憲章7章に基づき許可する場合とを除き、戦争は違法」と書かれています。つまり、「自衛」であり合法なものであっても「戦争」ですし、安保理が憲章7章に基づき許可する合法なものであっても「戦争」なわけです。

参議院における議論では、「自衛の措置」について、「これを戦争への参加と呼ぶにはかなり違和感を覚える」という意見が示されていますが、たとえば2001年9月11日のテロを受けての米(および英)によるアフガニスタン攻撃がなされた際、ブッシュ米大統領は"Our war on terror begins with al Qaeda"と表現しました(Digest of United States Practice in International Law 2001, p. 857)。米国がこの攻撃を自衛権で正当化したのはよく知られています(U.N. Doc. S/2001/946)。また、フランスは、安全保障理事会が憲章7章下で採択した決議1386 (2001)および1510 (2003)により「あらゆる必要な手段 (all necessary measures)」をとることを許可された国際治安支援部隊(International Security Assitance Force)に参加していたところ、オランド仏大統領はアフガニスタンの状況を"guerre"と表現しています。

さらに付け加えるならば、国際刑事裁判所規程8条2項で「戦争犯罪 (war crimes)」は、

(a) Grave breaches of the Geneva Conventions of 12 August 1949...

(b) Other serious violations of the laws and customs applicable in international armed conflict, within the established framework of international law...

とされています。この場合、その「戦争」そのものが合法なものかどうかに関係なく「戦争犯罪」が生じ得ることは、武力紛争法・国際人道法の基本です。

総理大臣も、「アメリカの戦争に巻き込まれるようなことは絶対にありません」という表現をよく用いています(例、衆議院本会議2015(平成27)年5月26日。国会会議録参照)。これは、「アメリカの違法な戦争には巻き込まれることは絶対にないが、アメリカの合法な武力行使に巻き込まれることはあるかもしれない」という趣旨ではなさそうですので、この場合は「戦争」という語は合法・違法に関係なく用いられているようです。

*      *      *

今日、国際法の議論で「戦争」という概念を用いることはあまりありません。国連憲章2条4項の起草にあたり、「戦争」という語を避けてあえて「武力行使」という表現が用いられたことは、ほぼすべての国際法教科書に書かれているところです。日常会話でならともかく、国際法の議論として「戦争」という語が用いられる場合、どういう意味で用いられているのか注意する必要があります。

2015.07.23.

クロアチア・スロヴェニア仲裁、スロヴェニア代理人とスロヴェニア指名仲裁人が辞任

常設仲裁裁判所で手続が進んでいるクロアチア・スロヴェニア仲裁において、代理人と仲裁人との間で舞台裏での情報のやりとりがあったとの疑いが生じ、両者が辞任するという事態に至りました。クロアチアは仲裁手続の中止も視野においているようです。上記リンク以外にも、検索するといろいろニュースが出ていますので、見てみてください。

2015.07.19.

「公海の生物保全で新条約策定へ」

「内外の関係者が19日、明らかにした。」と7月19日付の記事で報道されています(ということで、このページでも7月19日として挙げておきます)。これは、国連総会決議69/292で決まったことについて述べているのだと思われますが、同決議は6月19日に採択されており、「内外の関係者が」7月19日になって明らかにするまでもなく、1ヵ月前から公知の情報になっています6月19日付国連プレスリリース。なお、国連総会決議のページにはまだ上記決議文は掲載されていませんが、国連海洋法サイトの総会決議ページに決議案(そのままコンセンサス採択)が代わりに掲載されています。

決議は、(主語はthe General Assembly)

  1. Decides to develop an international legally-binding instrument under the Convention on the conservation and sustainable use of marine biological diversity of areas beyond national jurisdiction [...]

と述べています。

この問題については、その他aoを参照してください。

2015.07.17.

日本漁船、「北方領土周辺のロシア排他的経済水域内」で拿捕される

「北方領土周辺のロシア排他的経済水域内」という表現は日本の立場とは相容れないのではないか、と思われるかもしれません。岸田文雄外務大臣も、「北方四島周辺での我が国漁船の拿捕については受け入れられるものではな」い、と述べています。ロシア排他的経済水域内での日本漁船による漁業は、日ソ地先沖合漁業協定(1984年)(UNTS, No. 23449)、日ソ漁業協力協定(1985年)(UNTS, No. 23450)に基づき実施されています。注目すべきは、1984年協定の7条、1985年協定の8条です。見てみてください。

条約締結時の国会審議では、たとえば、

この協定[1984年協定]は、[……]北方領土問題とは切り離して締結されたものであります。したがって、今後の我が国の北方領土返還の要求についてもいささかも障害を来すものじゃない、こういうふうに思っております。[安倍晋太郎外務大臣、衆議院外務委員会1984(昭和59)年12月12日]

と言われています。

2015.07.14.

アフリカ特別裁判部、Habré元チャド大統領に対する刑事手続を20日に開始

14日付のプレスリリースで発表されています。もちろん、「訴追または引渡」事件国際司法裁判所判決(2012年7月20日)主文6項を受けた裁判です。アフリカに設置された裁判所においてアフリカの元首が裁かれるのは史上初です。

2015.07.08.

安保理、スレブレニツァのジェノサイドに関する決議を採択できず

イギリス等の提案による決議案(S/2015/508)には、以下のようなパラグラフがありました。主語はもちろんthe Security Councilです。

3. Agrees that acceptance of the tragic events at Srebrenica as genocide is a prerequisite for reconciliation, calls upon political leaders on all sides to acknowledge and accept the fact of proven crimes as established by the courts, and in this context, condemns denial of this genocide as hindering efforts towards reconciliation, and recognises also that continued denial is deeply distressing for the victims;

投票の結果、賛成票を10票集めましたが、ロシアの反対票により否決されました国連憲章27条3項)。ロシアによれば、

The draft resolution (S/2015/508) submitted by the United Kingdom turned out to be unhelpful, confrontational and politically motivated. It contains distortions as a result of which the blame for the past is basically placed on one people.[...]

In addition, the authors of the draft resolution used the anniversary of the tragic events at Srebrenica to introduce certain concepts that have not been agreed at the international level, including intrusive approaches to human rights that could lead to interference in the internal affairs of States.

とのことです(S/PV. 7481, p. 6)。

2015.07.06.

強制労働について

「強制労働」という用語がここ数日頻繁にメディアで用いられています。国際法の観点からは、ILO29号条約(「強制労働条約」)が関連します。日本は1932年から当事国になっています。この条約は、私企業による強制労働を禁じることも当事国に要求しています(4条1項)

注目すべきは、2条です。ILO条約はフランス語で読んだ方がわかりやすいのですが、英文が見たければこちらを参照してください(太字・斜体での強調は原文、黄色強調はM本)

Article 2

  1. Aux fins de la présente convention, le terme travail forcé ou obligatoire désignera tout travail ou service exigé d'un individu sous la menace d'une peine quelconque et pour lequel ledit individu ne s'est pas offert de plein gré.
  2. Toutefois, le terme travail forcé ou obligatoire ne comprendra pas, aux fins de la présente convention:
    [...]
    (d) tout travail ou service exigé dans les cas de force majeure, c'est-à-dire dans les cas de guerre, de sinistres ou menaces de sinistres tels qu'incendies, inondations, famines, tremblements de terre, épidémies et épizooties violentes, invasions d'animaux, d'insectes ou de parasites végétaux nuisibles, et en général toutes circonstances mettant en danger ou risquant de mettre en danger la vie ou les conditions normales d'existence de l'ensemble ou d'une partie de la population; [...]
2015.07.01.

「後方支援活動」に携わる自衛官は捕虜になれない?

8月24日の東京新聞の記事を偶然目にしてようやく気がついたのですが、7月1日に衆議院平和安全法制特別委員会で岸田外務大臣が以下のような答弁をしています国会会議録で検索してください)

 ジュネーブ諸条約上の捕虜は、紛争当事国の軍隊の構成員等で敵の権力内に陥ったものをいう、このようにされております。
 この点、御質問がいかなる場合を想定しているか必ずしも定かではありませんが、いわゆる後方支援と言われる支援活動それ自体は武力行使に当たらない範囲で行われるものであります。我が国がこうした活動を非紛争当事国として行っている場合について申し上げれば、そのこと自体によって我が国が紛争当事国となることはなく、そのような場合に自衛隊員がジュネーブ諸条約上の捕虜となることは想定されないと考えます。

「後方支援活動」については、周辺事態法を改正する「重要影響事態法」(「重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」)案に定めがあります。官邸サイトにある新旧対照表を見るのが簡便ですが、それによれば同法案の2条1項(PDFの57頁)に、

政府は、重要影響事態に際して、適切かつ迅速に、後方支援活動、……を実施し、我が国の平和及び安全の確保に努めるものとする。

との規定が置かれ、「後方支援活動」の定義は3条1項2号にあります。

後方支援活動 合衆国軍隊等に対する物品及び役務の提供、便宜の供与その他の支援措置であって、我が国が実施するものをいう。

さらに、「後方支援活動の具体的内容は別表第一・別表第二に列挙されており(参照、3条2項・3項)、別表第一には、

施設の利用 土地または建物の一時的な利用並びにこれらに類する物品及び役務の提供

訓練業務 訓練に必要な指導員の派遣、訓練用機材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

などが掲げられ、

備考 物品の提供には、武器の提供を含まないものとする。

とも書かれています。この備考は、現行法と比較すると、「弾薬」の提供を否定するものではなく、「戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備」が排除されていないことが判ります。

このような「後方支援活動」に携わる自衛官に捕虜資格が与えられないのは、外務大臣の上記答弁によれば、ある武力紛争において日本が「後方支援活動」を行う場合、日本は当該武力紛争の当事者にはならないからです。

ジュネーヴ第三条約(捕虜条約)4条は、以下のように定めています(ジュネーヴ条約・議定書は、フランス語で読むことを勧めます。英語版はこちら。)(強調M本)

A. Sont prisonniers de guerre, au sens de la présente Convention, les personnes qui, appartenant à l'une des catégories suivantes, sont tombées au pouvoir de l'ennemi :

1) les membres des forces armées d'une Partie au conflit, de même que les membres des milices et des corps de volontaires faisant partie de ces forces armées ; [...]

いや、同条A.(4)によれば「後方支援活動」に携わる自衛官にも捕虜資格があるのでは、と考える人もいるかと思いますが、

4) les personnes qui suivent les forces armées sans en faire directement partie, telles que les membres civils d'équipages d'avions militaires, correspondants de guerre, fournisseurs, membres d'unités de travail ou de services chargés du bien-être des forces armées,

この規定は次のように続きますので、

à condition qu'elles en aient reçu l'autorisation des forces armées qu'elles accompagnent, celles-ci étant tenues de leur délivrer à cet effet une carte d'identité semblable au modèle annexé ;

日本が当該武力紛争の当事者にならないのであれば、やはり捕虜資格はないのが通常だろうと思われます。

捕虜資格がないと、「合衆国軍隊等」と武力紛争を行っている国に身柄を確保された自衛官は、当該国の刑事法に基づいて犯罪人として扱われる場合に、当然ながら捕虜条約による保護を得られません(参照、捕虜条約85条)。「後方支援活動」がどのような犯罪とされ、どのような刑罰を科されるかは、当該国の法律次第ですが、たとえば日本の刑法82条(外患援助)は、

日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは二年以上の懲役に処する。

と定めており、この犯罪は同2条3号により「すべての者の国外犯」とされています。

参照:ロシア、自国「兵士」の戦闘員資格を否定?(5月19日)

2015.07.01.

報道の自由について

報道の自由についていろいろ議論がなされています。国際法の観点からは、まずは自由権規約19条、特に2項が問題となります。そこで、自由権規約人権委員会の見解を見てみましょう。自由権規約人権委員会などの人権条約機関の見解にはそれそのものとして法的拘束力はありません(参照、一般的意見33(2009年))。しかし、だからといってこれを無視していると大変なことになりかねないことは、教科書第4編第1章第4節2(3)で述べたとおりです。

まず、19条に関する自由権規約人権委員会の一般的意見34(2011年)から関連箇所を抜粋してみましょう。

[para. 13] The free communication of information and ideas about public and political issues between citizens, candidates and elected representatives is essential. This implies a free press and other media able to comment on public issues without censorship or restraint and to inform public opinion.

一部メディアの財源を断てとの話が出ていましたが、一般的意見34は、特にお金のかかる放送メディアについて、以下のように述べています(強調M本)

[para. 16] States parties should ensure that public broadcasting services operate in an independent manner. In this regard, States parties should guarantee their independence and editorial freedom. They should provide funding in a manner that does not undermine their independence.

今回は、特に沖縄のメディアについて議論になっています。そこで、一般的意見34の次の部分も関連してきます。

[para. 14] As a means to protect the rights of media users, including members of ethnic and linguistic minorities, to receive a wide range of information and ideas, States parties should take particular care to encourage an independent and diverse media.

さらに、先住民については、2007年の「先住民の権利宣言」(国連総会決議61/295)が重要です。同宣言16条は以下のように定めています。

  1. Indigenous peoples have the right to establish their own media in their own languages and to have access to all forms of non-indigenous media without discrimination.
  2. States shall take effective measures to ensure that State-owned media duly reflect indigenous cultural diversity. States, without prejudice to ensuring full freedom of expression, should encourage privately owned media to adequately reflect indigenous cultural diversity.

この決議は投票により採択されており、日本は賛成票を投じています。これらが沖縄のメディアに関係し得るのは、自由権規約人権委員会(日本の第5回国家報告書に対する最終所見(2008年)パラ32、第6回国家報告書に対する最終所見(2014年)パラ28)や人種差別撤廃委員会日本の第7回〜第9回国家報告書に対する最終所見(2014年)パラ21)が、日本政府は琉球・沖縄人を先住民(indigenous peoples)と認めるべしと求めているからです。これら委員会の最終所見に対して対象国政府は意見を述べることができますが、自由権規約人権委員会の2008年最終所見に対する日本政府の意見の中では、沖縄・琉球人問題は触れられていません。もっとも、参議院での質問主意書(2014年10月)について、

対日勧告を踏まえ、政府はこれまでの立場を見直し、琉球(沖縄)の人々を先住民族として認識し、権利を守るための対策を講じるよう早急に検討を開始すべきではないか。

との質問に対して、

お尋ねについては、「先住民族」について、現在のところ、国際的に確立した定義がなく、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」においても「先住民族」の定義についての記述はないこと、また、御指摘の「琉球(沖縄)の人々」の範囲及び「琉球(沖縄)民族」の意味するところが必ずしも明らかではないことから、お答えすることは困難である。

と述べていますので、琉球・沖縄人が少数者であるかどうかについては自由権規約人権委員会や人種差別撤廃委員会の立場には従わない、というのが日本政府の今の立場だと思われます。

2015.06.20.

ベルギー、Yukos仲裁判断執行のためのロシア財産差押えを解除

Yukos仲裁判断判例評釈p執行手続のために駐ベルギーロシア大使館・ロシアEU代表部・ロシアNATO代表部の財産が差し押さえられていたようですが、上の新聞記事によれば、ベルギーの外務大臣がYukos側の弁護士の協力も取り付けた上で差押えの解除に至ったとのことで、具体的にどういう司法手続がとられたのかは記事に書かれていません。ベルギーには外国大使館等の財産差押えに関する国内法がないそうで、国内法の改正が検討されるとも報じられています(日本であれば、対外国民事裁判権法18条2項1号が関係します)。なお、6月18日にロシア外務大臣は駐ロシア・ベルギー大使に抗議をしていました6月19日付のロシア外務大臣インタビュー同日付記者会見も参照)

上記記事にはフランスでも差し押さえがなされていると書かれていて、オーストリアなどでもそうだとする他の報道もありますが、必ずしもはっきりしません。

2015.06.19.

国際捕鯨委員会科学委員会、日本の新たな調査捕鯨計画(NEWREP-A)ににつき両論併記の報告書

科学委員会報告書の88-96頁がNEWREP-Aに関するものです。科学委員会においてコンセンサスが得られなかったことは、93頁の17.1.5のところに書かれています。

日本政府の反応はメディアで報じられていますが、水産庁サイトなど政府のウェブサイトにはまだ掲載されていないようです。

2015.06.18.

ヨーロッパ委員会、5構成国に対してintra-EU BITの終了を要請

3月30日の記事の延長線上にあります。残りの構成国についても、時間の問題でしょう。いずれかの構成国がECJに持ち込むか、注目されます(持ち込まないような気はしますが)なお、ECTについてどうするかは示されていません。【追記(6月19日)Infringement proceedings (procedure)EU運営条約258条)ですので、これら構成国が要請に耳を貸さなければ、委員会がECJに持ち込む可能性があります。

2015.06.17.

オーストラリア、投資家対国家仲裁を含む中国とのFTAに署名

オーストラリア・中国FTAの9.12条以下が投資家対国家仲裁に関する規定です。このFTAが発効すると、日・オーストラリアEPAの14.19条2項に基づき、日本とオーストラリアとの間で、投資家対国家仲裁を同EPAに組み込む交渉が開始されることになります。

なお、オーストラリア・中国FTAでは、UNCITRAL透明性規則の適用について先送りする規定が置かれています(9.12条4項(b)およびSide letter)。

【追記(6月18日)
 このFTAの投資章には、9.9条や、9.12条2項、9.15条4項・5項、9.17条、9.21条、9.23条など、いろいろ独特の規定があります。

2015.06.16.

ヨーロッパ人権裁判所、ヨーロッパ人権条約の適用範囲について新たな判断

Sargsyan v. Azerbaijan (Application no. 40167/06)Chiragov and others v. Armenia (Application no. 13216/05)です。いずれも大法廷(Grand Chamber)判決です。

Sargsyan判決では、アゼルバイジャンとアルメニア(ナゴルノ・カラバフ)との対立の最前線にあり、どちらもが支配をしていない、いわゆるno man's landが問題になっています。裁判所は、「ナゴルノ・カラバフ共和国」がいかなる国・国際機構によっても承認されていないと述べ(パラ25)、問題のGolestanという町が「アゼルバイジャン領であると国際的に承認されている領域」だと確認した(パラ139)上で、Golestanはアゼルバイジャン以外の国に占領されているわけでも分離独立勢力の支配下にあるわけでもないとして(パラ148)、ヨーロッパ人権条約が「ヨーロッパ公序の憲法的文書」であることおよびアゼルバイジャン領は「条約の法的空間 (espace juridique)」にあることに触れ(パラ148)、アゼルバイジャンのjurisdiction(条約1条)の下にあると判断しています(パラ151)。裁判所は、Golestanについてアゼルバイジャンが実効的支配(effective control/contrôle effectif)をしているかどうかは論じていません。

Chiragov事件では、ナゴルノ・カラバフの別の町における出来事が扱われています。こちらについては、「ナゴルノ・カラバフ共和国」に対してアルメニアが軍事的(パラ172-180)、政治的(パラ182)、財政的(パラ183-184)に支持・援助を与えていることを指摘して、同「共和国」に対するアルメニアの影響が「重要かつ決定的(significant and decisive)」であって両者は「高度に統合されて(highly integrated)」おり、アルメニアによる上記支持・援助なしには「ナゴルノ・カラバフ共和国」は存続し得ないと述べ、それゆえに同「共和国」におけるアルメニアの「実効的支配」が認められる(パラ186)、と判断しています。

いろいろ見どころのある2つの判決ですが、ヨーロッパ人権条約1条にいうjurisdiction内にあるかどうかを判断する際の「実効的支配 (effective control/contrôle effectif)」について新たな要素が加えられているように見えるほか、ある土地についてそれがA国なりB国なりの領域であることが「国際的に承認されている」と述べていることは、承認論の観点から要検討と思われます。ちなみに、「国際的に承認された領域 (internationally recognised territory/territoire internationalement reconnu)」という表現は、公式文書で用いられることはないではありませんが、一般的とは言い難いものです。調べてみて下さい。

2015.06.15.

Al-Bashirスーダン大統領、南アフリカから帰国

アフリカ連合サミットのために南アフリカに来ていたAl-Bashir (El-Bashir)スーダン大統領について、Southern Africa Litigation Center国際刑事裁判所への引渡国際刑事裁判所規程86条以下)を求めてプレトリア高等法院に提訴したところ、同高等法院は暫定的決定として同大統領を南アフリカから出国させないように南アフリカ当局に命じる決定を6月14日に発しました。ところが、その翌日、同大統領は南アフリカの軍飛行場からスーダンに帰国してしまいました。

なぜ国内裁判所の決定を無視したかについて、南アフリカ政府はまだ公式な説明を発表していないようです。

アフリカ連合(AU)は、Al-Bashir大統領の逮捕状に関して国際刑事裁判所に協力しないことを2009年(Assembly/AU/Dec.245(XIII) Rev.1)および2010年(Assembly/AU/Dec.296(XV))に明らかにしています。もっとも、その法的根拠は示されていません。

面白いのはアメリカ合衆国の反応で、Al-Bashir大統領帰国後になされた報道官記者会見では、南アフリカ政府がAl-Bashir大統領の帰国を阻止しようとしなかったことについてdisappointedだと言っています。これは、"While the United States is not a party to the Rome Statute, which sets out the crimes falling within the jurisdiction of the ICC, we strongly support international efforts to hold accountable those responsible for genocide, crimes against humanity and war crimes."(2015年6月14日報道官声明)だからで、要するに「自国民が訴えられるのはけしからんが他国民が訴えられるのは大いに結構」と堂々と言うあたり、さすがはアメリカ合衆国です。

2015.06.15.

ジンバブエ中央銀行、ジンバブエ通貨を廃止

ジンバブエドルは米ドルに交換され、今後は米ドルを用いる、と発表されました。ある国が他の国の通貨を自国通貨として用いることを公式に表明するのは初めてではありませんが(たとえばモンテネグロ)、珍しいことではあります。

2015.06.05.

ヨーロッパ人権裁判所、尊厳死に関する判断 (Lambert et autres c. France, Requête n° 46043/14, arrêt (GC), le 5 juin 2015).

「欧州人権裁判所は5日、病院で約7年間『植物状態』のフランス人男性について、医師の判断に従って生命維持装置の取り外しを認めるとする判決を出した。」読売新聞電子版2015年6月5日や、「『(尊厳死については)コンセンサスはなく、各国が独自に判断できる』とする従来の見解を繰り返した。」産経新聞電子版2015年6月6日という報道もあります。簡潔に報じなければならない制約のためやむを得ないところもあるのは理解できますが、必ずしも正確ではありません。

判決は、「生命を人工的に維持する措置を停止することについてヨーロッパ評議会加盟国(=ヨーロッパ人権条約加盟国)間にコンセンサスはない」と述べた上で、「(停止に関する)決定における患者の意思に極めて重要な(primordial)役割を認めることには(停止を認める国の間では)コンセンサスがある」と指摘し、そのような状況の下では諸国に一定の評価の余地(une certaine marge d'appréciation)が認められる、と述べます(パラ148。パラ74-75と併せ読む必要あり。)。そして、法律上の基礎があるか、本人等の意思が考慮されているか、司法的手続が確保されているか等を検討し(パラ143、149以下)、いずれについてもフランス側に制度・運用上の問題はなく、したがってフランスにヨーロッパ人権条約2条(生命権保障)の違反はない、と結論づけています(パラ182)

2015.06.02.

国連人権専門家、投資条約批判を展開

経緯については承知していませんが、興味深い内容です。TPP等の条約交渉の秘密性についてはともかく、投資仲裁に関する批判はかなり通俗的なものです。たとえば、"The experience demonstrates that the regulatory function of many States and their ability to legislate in the public interest have been put at risk. We believe the problem has been aggravated by the “chilling effect” that intrusive ISDS awards have had"というようなことが指摘されています。ただ、残念ながら具体的事例・仲裁判断の分析はもとより言及さえなく、"[t]he experience demonstrates"の"the experience"がどういうものなのかは示されていません。

2015.05.28.

ヨーロッパ議会通商委員会、常設投資裁判所の提案

投資条約仲裁と投資受入国公益保護との関係については熱い議論が続いていますが(参照:その他aa, al, an、ヨーロッパ議会の通商委員会は、仲裁ではなく常設の裁判所を設置し、しかも上訴制度を組み込むことをヨーロッパ委員会に提案する旨の報告書(パラS. 1. (d) (xv))を議会に提出しました。これを議会が採択すれば、そのような制度が含まれていない条約は議会が承認しないEU運営条約218条6項)可能性が極めて高くなりますので、委員会も常設裁判所を提案するようになるかもしれません。TTIP日EU EPA交渉に直結する論点です。

2015.05.20
-21.

PKUSTL-Kyoto Joint Student Seminar in International Law

北京大学(とはいえ深センにある)国際法学院(School of Transnational Law)と合同セミナーを開催しました。昨年9月のソウル大学との合同セミナーに続く企画です。京大側の報告北京大学側の報告のそれぞれをご覧下さい。

2015.05.20.

ポツダム宣言について

「ポツダム宣言の中にあった連合国側の理解、例えば、日本が世界征服を企んでいたということ等も今御紹介になられました。私はまだその部分をつまびらかに読んでおりませんので承知はしておりませんから、今ここで直ちにそれに対して論評することは差し控えたいと思います」(安倍晋三内閣総理大臣、参議院国家基本政策委員会合同審査会

法学部生はつまびらかに読んでおきましょう。

2015.05.19.

ロシア、自国「兵士」の戦闘員資格を否定?

ウクライナ領内で戦闘に参加中のロシア「兵」がウクライナ側に身柄確保されました(5月17日?)。ロシアはウクライナ領内でロシア軍が活動しているとの「噂」を否定し続けていますので、当然ながら、ロシアは身柄確保されたのはロシア「兵」ではない、と主張しています。ということで、捕虜の地位は認められず、ウクライナ刑法により刑事手続に付されるようです。さて、この場合、当該ロシア「兵」が刑事手続き中に「私はロシアの戦闘員だから捕虜資格を有する」と主張したらどうなるでしょうか。

2015.05.15.

日本、ニウエを国家承認

人口1,500人の国家です。ニュージーランド政府と自由連合関係にある(in free Association with the Government of New Zealand)国で、この「自由連合」とはどういうものかについては、五十嵐正博『提携国家の研究』(風行社、1995年)、Masahiro Igarashi, Associated Statehood in International Law, The Hague, Kluwer, 2002が必読です。1974年から自由連合にあるところ、なぜ今の時点で国家承認することになったのか、上記リンク先の外務省サイトには特に説明がありません。【追記】5月15日の外務大臣記者会見では、「今後,国際場裡等における協力を考え,国家承認を行うこととした」という、ある意味正直な?説明がなされています。

ちなみにニウエは国連海洋法条約当事国です(参照、条約305条1項(c))

2015.05.13.

ヴァティカン、パレスティナを国家承認

両「国」による共同声明によれば、条約はこれから署名されることになるので、厳密に言えばその時点で国家承認したことになるのかもしれません。ちなみに、ヴァティカンとPLOとの間の合意(2000年)では当然ながら国家承認らしきことは述べられていません。

2015.04.25.

国際海洋法裁判所特別裁判部、初の暫定措置命令(ガーナ/コートジボワール事件)

国際海洋法裁判所において紛争当事者の要請により裁判部(小法廷)が構成される裁判所規程15条)のは、チリ・ECの事件以来これが2件目です。そして、裁判部が出す暫定措置は初のものとなります。

海洋境界画定紛争であり、本案はこれからとなりますが、とりあえず本案が出るまでの暫定措置として、海底に一定の規模のかつ恒常的な変化をもたらすような活動(石油開発のあり得る海域です)を禁じています(パラ89-90)。ここまでであれば、国際司法裁判所のエーゲ海大陸棚事件仮保全措置(1976年9月11日)と似たようなものですが、ガーナが一方的に開発を進めて当該海(底)域に関する情報を得てそれを利用することが、コートジボワールが有し得る権利を不可逆的に害する恐れがある、と述べた点(パラ95)が注目されます。特任裁判官として国際司法裁判所のAbraham所長が入った上での判断であることにも留意する必要があるでしょう。

2015.04.22.

国際司法裁判所、文書・データ押収事件(東ティモール対オーストラリア)の仮保全措置命令を修正

大陸棚に関する両国間の仲裁手続が進行中に、東ティモール側の関係者であるオーストラリア人の弁護士事務所にオーストラリアの秘密警察が乗り込んで関連文書を押収するという、にわかには信じがたい事例について、東ティモールが国際司法裁判所に訴えて2014年3月3日に仮保全措置命令(「オーストラリアは文書を保全し、当該文書を見ないようにすべし」)が出ていたところ、この度両国間で当該文書の返還に合意ができたとのことで、文書の返還を許可するとともに、返還までは当該文書を見てはならないことを確認する仮保全措置命令が出されました。

2015.04.20.

EU市民に対する他の構成国による領事保護に関する指令2015/637

EUの指令は、その番号が判っている場合、EUR-LexのトップページのFind results byのDocument numberのYearとNumberに数字を入れて(今回の場合はYearが2015、Numberが637)Directiveをチェックして検索すればすぐに見つかります。

EU市民(EU構成国国民。EU条約9条)が第三国(非EU構成国)に滞在中、当該第三国に自国の領事館がない場合、当該国に置かれている他のEU構成国の領事館による保護を受けることができる、ということはマーストリヒト条約の時点から規定があり、現在ではEU運営条約23条に定められています。

ただし、EU運営条約23条の前身であるEC条約20条(マーストリヒト条約時点の条文)は、そのために各構成国間で交渉する、という程度のことしか書いていませんでした。リスボン条約により、そのために指令を採択することができるとの現23条の2段が追加され、それに基づいて今回の指令が採択されたわけです。この指令により、EU市民がそのような権利を持つこと(7条1項)、および、EU構成国はそのような義務を負うこと(2条)が明確になりました。本指令の実施期限は2018年5月1日とされています(17条1項)

2015.04.14.

「グルジア」から「ジョージア」に

日本語の表記を変更する法律案参議院を通過しました。4月1日にさかのぼって「ジョージア」とするそうです。4月14日現在、外務省のサイトはまだ「グルジア」ですので、今のうちに魚拓を取っておくと記念になるかもしれません。外務省「国名呼称の変更(グルジア)」。

2015.04.07.

内閣官房 領土・主権対策企画調整室ウェブサイト

ウェブサイトが大幅にアップデートされています。国際法の学生には、特に、そこからリンクされている日本国際問題研究所の「領土・海洋コーナー」が便利です。

尖閣について、「問題」ではなく「情勢」となっているところが……。

2015.04.02.

国際海洋法裁判所(全員法廷)、初の勧告的意見(IUU漁業に関する旗国の責任)

2011年に国際海洋法裁判所海底紛争裁判部国連海洋法条約191条に基づく勧告的意見を出していますが、国際海洋法裁判所の全員法廷に勧告的意見を発する権限があるか(あるとしてその根拠条文はどれか)は議論を呼んでいたところです。裁判所によれば、裁判所規程21条が根拠となるとのことです。海洋法裁判所の判決等は英仏両方が正文であり、いつも両方を見ることを勧めていますが、今回のこの管轄権部分については特に英仏文両方を比較して読むと面白いと思います。

2015.03.30.

ヨーロッパ委員会、ルーマニアがMicula v. Romania仲裁判断を履行するとEU法に反すると警告

スウェーデン・ルーマニア投資条約に基づくMicula v. Romania仲裁判断が命じた損害賠償を支払うとEU法に反する補助金になる、との判断です。EU運営条約108条2項に基づく手続です。EU構成国間で締結されている投資条約(intra-EU投資条約)に対する宣戦布告であり、最終的にはECJで解決されることになります。

余談ながら、私は、Treaty on the Functioning of the European Union / Traité sur le fonctionnement de l'Union européenneは「EU運営条約」でも「EU機能条約」でもなく「EUのはたらきに関する条約」と訳すのが最も適切だと考えているのですが、条約名として大和言葉を使うのはどうもしっくりこないのも確かで、悩ましいところです。

2015.03.26.

サウジアラビアなど、イェメンに空爆

サウジアラビアによれば、イェメン大統領の要請に法的根拠があるようです。アメリカ合衆国フランスも同様の理解を示しています。イランはこれを批判していますが、その法的根拠は今のところ不明確です。ロシアは批判的であることをにおわせつつ、明確には述べていません。中国は一般論として武力紛争に懸念を示しつつ、その合法性については立場を明確にしていません。日本政府は自らの立場を積極的には表明していないようですサウジアラビアの見解を支持しているようです

2015.03.18.

Chagos諸島海洋保護区に関する仲裁判断(モーリシャス対イギリス)

イギリスがChagos諸島周辺に設定した海洋保護区が国連海洋法条約に違反するかどうかが争われ、仲裁廷は、同条約2条3項・56条2項・194条4項の違反を認定しました。2条3項の"subject to... other rules of international law"、56条2項の"shall have due regard to the rights and duties of other States"、194条4項の"shall refrain from unjustifiable interference with activities carried out by other States"に着目した判断です。

注目すべきは、少なくとも5点ありそうです。

  1. 海洋保護区における規制内容(=環境保護措置)そのもののではなく、海洋保護区の導入のやり方がこれら規定に違反した、という判断であること。(パラ544)
  2. イギリスは「沿岸国」ではないので海洋保護区の設定そのものが条約違反だというモーリシャスの主張については、それはChagos諸島における主権を巡る紛争であって国連海洋法条約の解釈適用問題ではないので、管轄権を持たない、と判断したこと。(パラ212, 221) ただし、これは3対2の判断であり、2名の仲裁人から強烈な反対意見が出されています。
  3. 「2.」の判断過程において、国連海洋法条約関連規定の解釈のために起草過程を極めて重視したこと。(パラ215など)
  4. モーリシャス独立(1968年)前にイギリスと「モーリシャス閣僚会議」との間で締結された合意(1965年)は、合意当時はイギリス法上の合意であったが、モーリシャス独立に伴って国際法上の合意となった、と判断したこと。(パラ425, 428) 
  5. 「4.」の補強として、エストッペルの法理を「法の一般原則」として援用したこと。(パラ435など) もっとも、コモンロー系の仲裁人が多いことに留意する必要があります。
2015.02.23.

ヨーロッパ社民系国家元首・政府の長は反投資家対国家仲裁で結束?

フランス社会党ウェブサイトにそのようなことが書かれています。当然ながら、たとえばフランスのHollande大統領はここに含まれます。社会党の公式サイトの記事ですので、事実なのでしょう。

とすると、次のような疑問が生まれます。フランスが締結済の100を超える投資条約はすべて廃棄されるのか? TTIPに限っての話であるならば、それ以外の条約に投資家対国家仲裁を残すことはどのように正当化されるのか?

当面、EU・シンガポールFTAやEU・カナダFTAの締結がどうなるか、要注目です。

2015.02.12.

安保理決議2199 (2015)、アル・カーイダやISILがインターネット上で情報を流すために用いられる財産の凍結を義務づけ

パラ28です。そこで言及されている決議2161 (2014)(この決議の中に既にネット云々のことは書かれていましたので、今回は"reaffirms"です)と、The Al Qaida Sanctions Listも見る必要があります。ISILがネットを活用しているのは周知の通りで、その必要性は理解できますが、具体的にどの財産をこの理由で凍結するのか、実務的には容易ではないように思われます。

2015.02.08.

ギリシャ、ドイツに戦争被害の賠償を請求?

報道により日付に多少のずれがあるようですが、Deutsche Welleによれば2月8日に、ギリシャ首相がドイツに第二次世界大戦中にドイツ軍によりギリシャに生ぜしめられた賠償を要求し、ドイツはそれを拒否したと報じられています。ギリシャの首相が直接ドイツ政府に要求をした(らしい)のはこれが初めてかもしれませんが、ギリシャ市民からの主張(参照、判例評釈m)はもとより、ギリシャ政府内でも以前から議論はあったようです。

ドイツは戦争被害の賠償問題は解決済みとの立場ですが、たとえば1965年日韓請求権協定のような条約はドイツ・ギリシャ間にはありません。1960年3月18日のドイツ・ギリシャ条約に時々言及されますが、同条約の1条に "aus Gründen der Rasse, des Glaubens oder der Weltanschauung"(人種、信条、世界観〔政治的意見〕を理由に)迫害された者に対する補償云々と書かれているように、これは戦争被害そのものの賠償・補償に関する条約ではありません。詳細については、Rainer Hofmann, "Compensation for Victims of War -- German Practice after 1949 and Current Developments", 国際法外交雑誌105巻1号(2006年)およびその日本語訳(山手治之訳)、さらにはKerstin Bartsch & Björn Elberling, "Jus Cogens v. State Immunity, Round Two", German Law Journal, vol. 4, no. 5, 2003, p. 477を参照してください。

ちなみに、日韓請求権協定は、外務省の条約データベースで、「政治」の小分類の「請求権」にチェックを入れて、下の方の選択肢で「二国間で締結」にチェックを入れ、「地域」でアジア、「国名」で韓国を選択して検索ボタンを押すと出てきます。

なお、日経の記事(有料会員限定だそうです)によれば、ドイツ財務省報道官は「ギリシャを含めた32カ国が1990年の東西ドイツ統一時の条約で戦時賠償を放棄することに同意している」とのことですが、1990年のいわゆる2+4条約が賠償に関して何らかの定めを明示的に置いているわけではなく、またギリシャはこの条約の当事国ではないのでその「同意」はまた別途証明されねばならず、議論はあまり単純ではありません。

ついでに言えば、この日経の記事は「ドイツはイタリアとも戦時賠償を巡りもめた。論争は国際司法裁判所(本部オランダ)に持ち込まれ、2012年にドイツが勝訴し、イタリアは請求を断念した。この判例もドイツには強みだ。」とも書いているのですが、これがかなり的外れな記事であることは、国際法を学んだ学生であればすぐに判ってほしいところです。

2015.01.28.

フランス破毀院、フランス人とモロッコ人の同性婚を認める

1981年のフランス・モロッコ条約5条は、フランス人・モロッコ人間の婚姻の条件は、婚姻をなそうとする者それぞれの国籍国の法律による、と定めています。つなり、モロッコ人についてはモロッコ法に従うことになります。モロッコ法は、同性婚を認めていません。フランス法では、2013年5月17日のLoi n° 2013-404により改正された民法典143条により、同性婚が認められています。

フランス憲法55条は法律に対する条約の優位を定めていますので、フランス人・モロッコ人間の同性婚は認められないはずです。ところが、破毀院は、1981年条約4条(いずれかの当事国の公序に反する他方当事国国内法の排除)に言及しつつ、同性婚は「基本的自由(liberté fondamentale)」であり、基本的自由を奪うことはできないとして、一定の条件(当該モロッコ人がフランスに住所を有することなど)の下で、フランス人・モロッコ人間の同性婚を認めました。

条約4条によりこの結論を正当化するのは困難ですので(これによる正当化を認めると5条の存在理由が大幅に減殺されます。また、条約起草過程からも正当化しがたい結論です)、あくまでフランス国内法の問題として、条約に対する憲法の優位を根拠にこの結論が導かれたものと思われます。この点を含め、国際法・国際私法の観点から大いに注目される判決です。

1981年フランス・モロッコ条約については、研究ノートaを参照。

2015.01.20.

シンガポール高等法院、Sanum事件仲裁判断 (PCA)を取り消す

2013年12月13日のSanum v. Laos仲裁判断では、マカオ企業たる申立人が、中国・ラオスBITはマカオ「返還」後はマカオにも適用されると主張し、仲裁廷はその主張を認めて管轄権を肯定しました。ところが、その後、ラオス政府は同BITはマカオには適用されないとの見解を中国政府から引き出し、シンガポール高等法院(Sanum v. Laosの仲裁地裁判所)に権限踰越(管轄権根拠なし)を理由に取消を求めました。高等法院は、Laos v. Sanum, [2015] SGHC 15 (20 Jan 2015)において、このラオスと中国との見解の一致が条約法条約31条3項(a)の「後の合意」として解釈の際に意味を持つと考え、仲裁判断(管轄権)を取り消しました。ただし、「ラオスも中国もこのBITはマカオに適用されないと当初から考えていた」という趣旨の「後の合意」だと解したため、新たな合意の遡及適用ではない、と述べています。原仲裁判断は条約の国家承継の問題として、取消判決は条約解釈における「後の合意」の役割の問題として、深い検討に値する内容のものです。

ちなみに、シンガポール高等法院(the High Court)は、最高裁判所(the Supreme Court of Singapore)の一部を構成します

2015.01.07.

「パレスティナ国」、国際刑事裁判所規程および同裁判所特権免除条約への加入書を寄託

国際刑事裁判所規程125条3項・特権免除条約34条3項は、「国家」にのみ加入を認めています。

パレスティナ国は、1月5日に国際刑事裁判所規程12条3項に基づく管轄権受諾宣言をしていました。

2015.01.07.

安全保障理事会声明 Charlie Hebdoへのテロ行為英語版

「あらゆる手段を用いて、テロ行為によりもたらされる国際の平和に対する脅威(threats/les menaces)と戦う」

「テロ行為と戦う」のではないこと、および、threats/les menacesが複数形になっていることに注意して下さい。

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