日本、捕鯨取締条約からの脱退を通告

条約（IWCサイトのこのページのConventionをクリック）11条の規定によります。2019年6月30日を以て脱退することになります。日本政府の立場は内閣官房長官談話で説明されています。

国連移住グローバル・コンパクト、国連総会で支持

7月に原案が固まり、12月10日に政府間会議で採択され、12月19日に国連総会決議73/95で支持(endorse)されました（決議文はまだ掲載されていないようです。プレスリリースがあります）。日本にとって、移民（と呼んではいけないらしいのですが。2018年5月29日の記事）を大規模に受け入れることを決めたばかりにこの文書採択とは、よくできたタイミングです。

文書の目的はパラ16に列挙されています。日本との関連では、"6. Facilitate fair and ethical recruitment and safeguard conditions that ensure decent work"と"15. Provide access to basic services for migrants"とが特に問題になるでしょうか。それぞれ、本文中にさらに詳しいことが書かれています。

「グローバル・コンパクト」と言えばこれですが、その名称から想像されるとおり、法的拘束力はない文書です。パラ48以下に履行「監視」についての規定があり、それがどのように実施されるか、要注目です。

同様に注目されるのが、反対・棄権国です。第73回会期の決議一覧に示されているように、賛成152（日本は賛成）、反対5、棄権12で採択されており、反対はプレスリリースにも書かれているとおりチェコ・ハンガリー・イスラエル・ポーランド・米で、棄権はUNBISNETからVoting RecordsのNew Browse List Searchをクリックして決議文書記号A/RES/73/95を入れて検索すればわかるように、アルジェリア・オーストラリア・オーストリア・ブルガリア・チリ・イタリア・ラトヴィア・リビア・リヒテンシュタイン・ルーマニア・シンガポール・スイスです。

EU裁判所、イギリスはEU脱退申請を単独で撤回可能と判断

判決によれば、EU側の同意は不要ということです。EU条約50条は撤回について明示的には定めていませんが、同条が脱退の「意図(intention)」の通知に言及しているところ、意図はその性質上変化し得ること、脱退意図通知が主権的単独行為なのだから脱退意図の撤回も主権的かつ単独になし得るのだ、と述べています（パラ49-57）。

スイス国民投票、「外国裁判官よりもスイス法を」憲法改正案否決

2018年3月13日の記事の続報です。結局、提案は国民投票で否決されました。詳細な投票記録はスイス法務省のページに出ています。

本題からは少し外れますが、上記の法務省ページに、国際法上の強行規範（なぜこれが問題になるかについては、3月13日の記事をご覧下さい）の例として、奴隷禁止、拷問禁止、二重処罰の禁止が――そしてそれらのみが――挙げられていることは興味を引きます。

カンボジア特別裁判所、2人の被告にジェノサイド罪を認定

カンボジア特別裁判所の説明はこちら。内戦でのジェノサイドです。判決（要旨）では、カンボジア内のチャム(Cham)およびベトナム系住民に関するジェノサイドが認定されています。

強制執行禁止条約委員会、従軍慰安婦に関して日本を批判

強制執行禁止条約35条は

The Committee shall haev competence solely in respect of enforced disappearances which commenced after teh entry into force of this Convention.

と定めていますが、委員会は、この条文を極力緩やかに解釈するようにしています（同委員会第4会期・第5会期報告書Annex V、日本の国家報告審査のCED/C/SR.257のパラ39-40）。

それを前提に、2015年12月27日の日韓外相声明（参照、2017年12月27日の記事）でなされた"resolved finally and irreversibly"というやり方そのものが条約に適合しない、と批判しています（最終見解パラ25）。

これに対して、日本は、11月30日に反論のFact Sheetを提出しています。

技能実習制度をめぐる議論

衆議院における質問主意書・答弁に以下のようなものがあります。

○山井和則議員による質問（2018年10月26日）

技能実習の講習期間を終えた外国人は、そのまま特定技能一号ないしは二号の外国人労働者になれますか。もしなれるのであれば、技能実習制度の目的と明らかに異なることになりますが、見解を示して下さい。

○安倍晋三内閣総理大臣による答弁（2018年11月6日）

お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、「技能実習」の在留資格をもって在留する外国人が「特定技能第一号」又は「特定技能第二号」への在留資格の変更をするに当たっては、法務大臣が、当該外国人について、「特定技能第一号」又は「特定技能第二号」の在留資格の条件に適合するなど、在留資格の変更を許可することが適当であると認めるに足りる相当の理由があると判断することを要する。

類似のやりとりが法務大臣記者会見（2018年10月30日）でもなされています［強調は�M本］。

【記者】 　技能実習制度から「特定技能１号」に移った者は、そのまま帰国することなく「特定技能２号」の資格を得ることが可能となるのでしょうか、技能実習制度の趣旨を踏まえ、大臣の御所感をお聞かせください。

【大臣】 　「特定技能１号、２号」と技能実習制度とは趣旨・目的が異なっており、在留資格としては、全く別のものであるということを前提に判断していきたいと考えています。例えば、技能実習生が技能実習２号を終了後、直ちに帰国するという選択肢のほか、技能実習３号に進むという選択肢もあり、またその時点で一定の専門性、技能を有していれば、「特定技能」にチャレンジして、そちらに行くということもあるわけです。それは要するにチョイスの問題であって、連続した制度ではないということです。

　特定技能１号を終了した後、更に特定技能２号の資格で在留することを選択した者は、その３つのチョイスの中で、就労目的の在留を選択したということです。こういったことを認めると、例えば、技能実習の趣旨が没却されるのではないかという御指摘もあるのですが、技能実習は開発途上国等への技能移転を目的としていますが、技能実習期間が終わった直後に身につけた技能を持って帰ってくださいというところまで厳格に考えるのか、あるいは、本人の技能に応じて、更にその技に一人前の職人として磨きをかけてから、本国に持ち帰るということでも、技能実習制度の趣旨は全うされるのではないかと考えています。

外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律1条は、技能実習の目的は、「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識［……］の移転による国際協力を推進すること」としています。

「特定技能1号・2号」については、さしあたり法務省の資料をご覧下さい。

厚生労働大臣の説明は、以下の通りです（大臣会見2018年11月6日）。

特定技能１号の方は在留期間の上限が５年とされております。そして熟練した技能を有する特定技能２号の方は制限なく働くことができる制度になっている、これが今回の新たな外国人材の受け入れ制度です。

ここでいう「制限なく」については、法務大臣が以下のように説明しています（大臣会見2018年10月12日）。

「特定技能２号」を持つことが，永住を可能とするものだということについては，私はミスリーディングだと思います。［……］ここで永住との違いについて御説明しますと，「特定技能２号」は，現行の専門的・技術的分野の在留資格である「技能」や「技術・人文知識・国際業務」等と同じであり，これらを永住と言わないのと同じです。一定の期間を設けて在留を許可するものであって，更新しなければならない。そして在留期間の更新については，当該期間内における外国人の活動状況等を厳格に審査し，これを適当と認めるに足りる相当の理由がなければ許可されないものです。［……］このように永住という語幹［ママ：語感］が持つものとは相当違います。

技能実習制度については、各種人権条約機関から批判の多いところです（参照、2014年6月10日の記事）。たとえば、日本国家報告への自由権規約人権委員会最終所見（2014年）は、次の指摘をしています（パラ16）。

[T]he State party [= Japan] should strongly consider replacing the current programme with a new scheme that focuses on capacity-building rather than recruiting low-paid labour.

現在議論されている制度改革が技能実習生制度に与える影響が、"focuses on capacity-building rather than recruiting low-paid labour"ことにつながるかどうか、要注目です。

ヌーヴェルカレドニー住民投票、フランスからの独立を否定

これまでの経緯については2017年11月2日の記事を参照して下さい。

投票は、« Voulez-vous que la Nouvelle-Calédonie accède à la pleine souveraineté et devienne indépendante ? »（あなたは、ヌーヴェルカレドニーが完全な主権を得て独立することを望みますか？）という質問文にouiかnonかのいずれかで答える形式でなされています（2018年6月6日のデクレ2018-457号2条）。この種の投票では、どういう質問文にするか、それに対してどういう答え方を認めるか、ということが大問題になります。

投票の結果はこちら。独立否定が多数になりましたので、1998年のヌメア合意5条4段に従い、2年後にもう一度住民投票がなされ、そこでも独立否定が多数になればさらに2年後にもう一度住民投票がなされ、そこでも独立否定が多数になれば将来につき話し合いが改めて始まることになります。

今回の住民投票には、国連からの監視団も入っていました。

なお、現時点ではヌーヴェルカレドニーはフランス領なのでフランスの国旗を左に示していますが、1999年の組織法律209号5条は、いずれヌーヴェルカレドニー独自の旗が制定されることを予定しています。

余談ですが、なぜか、日本語ではNouvelle Calédonieをニューカレドニアと英語読みするのが普通のようです。地名の読みについてはいろいろ不思議なところがあり、たとえばベルギーの首都は普通ブリュッセルとフランス語読みされますが、同じベルギーの主要都市であるAntwerpen（アントウェルペン）の場合はどういう訳かアントワープと英語読みする人が多いようです。さらに不思議なのは、ベルギーの首都を「ブラッセル」と表記することも少なくないことです。英語のBrusselsのカタカナ表記のつもりだと思われますが、英語読みのカナ表記はどう考えても「ブラッセルス」か「ブラッセルズ」にしかならないので、誰が「ブラッセル」と書き始めたのか、気になるところです。

韓国大法院、「徴用工」事件判決

現時点では韓国語原文のみ掲載されています。判決文読み上げの映像も見ることができます。いずれは英語に翻訳されるものと思われます。

ちなみに、差し戻しの判断を下した2012年5月24日判決の英訳は掲載されています（韓国語原文はこちら）。2012年判決の日本語訳は、中川敏宏「韓国大法院・旧三菱戦後補償請求事件判決」専修ロージャーナル8号（2013年）153頁。

議論の焦点である日韓請求権協定は、珍しいことに日本語・韓国語が正文（その1・その2）で、英文は翻訳でしか存在しません。同時に締結された日韓基本条約は英文が解釈正文であるのと対照的です。

ICJ、ICJ裁判官は投資仲裁の仲裁人にならないと決定

所長の国連総会への報告の中で述べられています（11-12頁）。

投資仲裁・商事仲裁の仲裁人にはならないこと、国家間仲裁については裁判所が許可する場合にのみ、かつ、同時に1件についてのみ仲裁人になることができるとすること、について合意が裁判官間でできたそうです。裁判所が忙しくなっているから、という理由が示されています。

ICJ裁判官が仲裁人をも務めることについては、最近とみに問題視されるようになっていました。ILA国際裁判所手続委員会のシドニー大会報告書（2018年）の20-21頁をご覧下さい。

ILAのCommitteesのページから、Procedure of International Courts and Tribunalsをクリックして、下の方に出てくるDocumentsタブをクリックして、Conference Report Sydney 2018をクリックすると出てきます。

CJEU、ポーランドに暫定措置命令

命令文はこちら。現時点ではフランス語とポーランド語のみです。

ポーランド最高裁裁判官の定年引き下げ（遡及適用）と定年後再任に大統領の同意（大統領の自由裁量）を必要とする新たな裁判所法（本命令パラ1）が司法の独立との関連で問題になっています。これがEU法上の問題となるのは、EU条約19条1項2文と基本権憲章47条の故です。

CIDS、ISDS Reform Libraryを開設

見ればわかりますので、見てみてください。

中国、インターポール総裁の身柄拘束

中国の国家監察委員会がウェブサイトで発表したと報じられていますが、この記事を書いている時点で同委員会のウェブサイトにはアクセスできないようになっています（ネットワーク次第ではアクセスできるのかもしれませんが）。総裁が辞任したという記事が、インターポールウェブサイトのホームページ右上にmedia statementとして掲載されています。

国際法を学ぶ学生であれば、「インターポール総裁には免除はないのか？」という疑問を持って頂きたいところです。Mazilu勧告的意見、Cumaraswamy勧告的意見とも、国際機構職員の国籍国管轄権からの免除に関する事例です。

インターポールの設立文書はその憲章(Constitution)です。リンク先の説明によれば、この憲章は1965年の総会にて採択されたとのことです。歴史のページを見ると、最初期は国際行政連合の一種で、1949年には国連にNGOとして認められたとのことですので、少なくともその時点では国際機構ではありません。そして、そのNGOの総会で上記憲章が採択されたわけです。とすると、インターポールは今でもNGOか？との疑問が浮かびます。

ところが、インターポールは、このConstitutionは国際法上の合意であって、インターポールは国際機構である、と主張しています。その理由付けはリンク先を見てください。理由付けの中に、特権免除協定を40本ほど締結している、というのがあります。しかし、たとえばスイスと赤十字国際委員会との間に特権免除に関する合意があり、そこで赤十字国際委員会の国際法人格が認められている（1条）としても、それはスイスがそう認めただけだ、との説明も可能です。ちなみに、スイスはオリンピック国際委員会との合意において同委員会が「国際法人格の諸要素」を備えていることを認めています。

もっとも、インターポールの場合、フランス・オランダ・ドイツ・オーストリアとの合意は国連条約集に登録されています。とすると、国連憲章102条に鑑み、少なくともこの4ヵ国はインターポールが国際法上の条約締結権限を有していると考えていることになります。このような形で、当初は国際機構ではなかったものが、後の活動の展開や性質の変化により国際機構になった、と判断された例としては、国際決済銀行があります（Reineccius et al. v. Bank for International Settlement, Partial Award, 22 November 2002, paras. 108-118）。

しかし、インターポールは中国とは特権免除に関する合意を締結していないようです（未確認です）。そうすると、国際機構（の職員）には慣習法上の免除が認められるか、という問題設定になりますが、今回の事例は、インターポールからも他の国からも、中国の行為が国際法違反との批判は私の知る限りなされていませんので、そのような慣習法規則はないことを示す例と考えることもできます。

仏破毀院、ヨーロッパ人権条約第16議定書を早速利用

ヨーロッパ人権裁判所のMennesson事件判決およびLabassee事件判決（いずれも2014年6月26日）において、米における代理出産により生まれた子との親子関係をフランス当局が認めないことがヨーロッパ人権条約8条（私生活尊重）の違反を侵害するとされ、フランス司法組織法典（Code de l'organisation judiciaire. ここで検索）L452-1条以下の定める民事確定判決の再審査が求められた事件において、破毀院が2018年10月5日の判決でヨーロッパ人権裁判所に第16議定書の手続により勧告的意見を求めました。2014年判決では親子関係を認めないことが条約違反とされたわけですが、今回は、養子とすることを認めてもなお条約8条違反か、という質問と併せて改めて審理することを求めています。

フランス司法組織法典L451-1条以下の民事確定判決再審査手続は、2016年11月18日の法律2016-1547号42条で導入されました。刑事確定判決再審査手続については、参照、研究ノートb。

第16議定書については、2018年8月1日の記事を見てください。

EU・豪・加・英、ロシアによるサイバー攻撃は国際法違反との声明

EU ヨーロッパ理事会常任議長・委員長・上級代表声明

We deplore such actions, which undermine international law and international institutions.

オーストラリア首相声明

Cyberspace is not the Wild West. The International Community – including Russia – has agreed that international law and norms of responsible state behaviour apply in cyberspace. By embarking on a pattern of malicious cyber behaviour, Russia has shown a total disregard for the agreements it helped to negotiate. Australia’s International Cyber Engagement Strategy recognises that there must be consequences for those who act contrary to the consensus on international law and norms.

カナダ政府声明

Today, Canada joins its allies in identifying and exposing a series of malicious cyber-operations by the Russian military. These acts form part of a broader pattern of activities by the Russian government that lie well outside the bounds of appropriate behaviour, demonstrate a disregard for international law and undermine the rules-based international order.

イギリス国立サイバーセキュリティセンター声明

The National Cyber Security Centre (NCSC) has identified that a number of cyber actors widely known to have been conducting cyber attacks around the world are, in fact, the GRU. These attacks have been conducted in flagrant violation of international law, have affected citizens in a large number of countries, including Russia, and have cost national economies millions of pounds.

どのような国際法規範にどのように違反しているのか。これからますます重要になる問題であることは間違いありません。

米、ICJ義務的管轄権を定める条約から離脱

国際司法裁判所の仮保全措置命令（10月3日）を受け、イラン・米友好通商条約を廃棄すると国務長官が述べています。

[W]e’re disappointed that the court failed to recognize it has no jurisdiction to issue any order relating to these sanctions measures with the United States, which is doing its work on Iran to protect its own essential security interests. In light of how Iran has hypocritically and groundlessly abused the ICJ as a forum for attacking the United States, I am therefore announcing today that the United States is terminating the Treaty of Amity with Iran.

また、「パレスティナ国」の提訴（参照、2018年9月28日の記事）に関連して、外交関係条約紛争処理選択議定書から脱退するとの声明が国家安全補償問題担当大統領補佐官から出されています。

I am announcing that the President has decided that the United States will withdraw from the Optional Protocol and Dispute Resolution to the Vienna Convention on Diplomatic Relations. This is in connection with a case brought by the so-called “State of Palestine,” naming the United States as a defendant, challenging our move of our embassy from Tel Aviv to Jerusalem.

そして、予想されたことではありますが、ICJによる義務的紛争処理を定める条約全てにつき、その見直しをするそうです。

[W]e will commence a review of all international agreements that may still expose the United States to purported binding jurisdiction dispute resolution in the International Court of Justice. The United States will not sit idly by as baseless, politicized claims are brought against us.

ヨーロッパ人権裁判所、CAS手続の条約適合性につき審査

一連のPechstein事件（参照、2016年6月7日の記事）の続きです（もう一つの事件も一緒に審理されていますが、重要性に劣るのでここでは除外して考えます）。CASは仲裁地がローザンヌである（CASスポーツ仲裁規則R28条）ため、その仲裁判断の取消手続はスイス法に基づきスイス連邦裁判所でなされます（関係者が全てスイス人である場合は別の手続になりますが）。そこで、「人権侵害をしている仲裁判断を取り消さなかった」スイス連邦裁判所の決定が人権侵害を構成するとして、スイスを相手にヨーロッパ人権裁判所に訴えられたわけです。ヨーロッパ人権条約6条（公正な裁判を受ける権利）違反が主張されました。

判決（Affaire Mutu et Pechstein c. Suisse）をごく簡単にまとめると、判旨は以下の通りです。

• CAS仲裁に同意しなければ競技会に参加できないというのは、プロ競技者にとって「強制」であり、仲裁の選択が自由になされたとは言えない。したがって、CAS仲裁手続自体がヨーロッパ人権条約6条の適正手続基準を充足しなければならない（パラ113-115）。
• 本件CAS仲裁の仲裁人は、独立不偏であると認められる（パラ150）。
• 事実に争いがあり、当事者の名誉にかかる事案でもあるため、口頭審理が公開されないのは6条違反（パラ178-183）。

今回は仲裁人の独立不偏性はクリアしたわけですが、ヨーロッパ人権裁判所がこの点を審理するとしたというのは極めて重要です。

口頭審理非公開が条約違反（厳密に言えば、口頭審理非公開の仲裁判断を取り消さなかったスイス連邦裁判所の判決は条約違反）とされたことについて、早速CASがコメントを出しています。「これから、新しい大きな施設に引っ越すので、そこでは口頭審理の公開も考えている」という、やや締まりのないものではありますが……。

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ちなみに、日本は自由権規約の当事国であり、その14条（公正な裁判を受ける権利）がヨーロッパ人権条約6条の解釈の影響を受けることは広く受け入れられています（例、高松高判1997〔平成9〕年11月25日判タ977号65頁、70頁）。とすると、日本スポーツ仲裁機構での仲裁についてその手続の適正さを争って日本の裁判所に取消を求める（仲裁法44条）際、自由権規約14条が援用され、類似の議論が展開されるということがあり得ます。ちなみに、現在のドーピング紛争に関するスポーツ仲裁規則では、当事者全員が同意する場合にのみ、審問（口頭審理）は公開されることとなっています（43条1項、2項）。

ICJ、「正当な期待」の保護に関する一般国際法上の規則はない、と判断

ボリビア対チリの判決の以下の部分です。

162. The Court notes that references to legitimate expectations may be found in arbitral awards concerning disputes between a foreign investor and the host State that apply treaty clauses providing for fair and equitable treatment. It does not follow from such references that there exists in general international law a principle that would give rise to an obligation on the basis of what could be considered a legitimate expectation. Bolivia’s argument based on legitimate expectations thus cannot be sustained.

反対意見（上記リンク先参照）を書いたDaudet特任裁判官もこの部分については賛成しています（同反対意見パラ6）。ちなみに、Robinson反対意見は正当な期待に触れておらず、Salam反対意見は曖昧です（同反対意見パラ25）。

この事件の本質とはほとんど関係ない論点ですが、この何気ない一節は、とりわけ、慣習国際法上の外国人待遇最低基準とリンクされている公正衡平待遇条項（例、日・ウルグアイBIT 5条）、さらには「国際法」とリンクされている公正衡平待遇条項（例、日・オマーンBIT 5条）の解釈に大きな影響を与える可能性があります。

ボリビアは、Gold Reserve v. Venezuela仲裁判断を援用していました（Bolivia, Reply, para. 339）。この仲裁判断は、

Each Contracting Party shall, in accordance with the principles of international law, accord investments or returns of investors of the other Contracting Party fair and equitable treatment and full protection and security.

と定めるカナダ・ベネズエラBIT2条2項に基づき、この"the principles of international law"として投資家の正当な期待の保護が認められると述べているように読めます（同仲裁判断パラ567, 570-576）。仲裁判断を読む限り、この"the principles of international law"は一般国際法のprinciplesとしか読めませんので、上記のICJ判決はこれを否定したとも理解できます。もっとも、いやいや、正当な期待の保護は「国家間に適用される一般国際法では」認められないという趣旨（チリはそう主張していました。Chile, Rejoinder, paras. 2.26-2.28, 9.27）だ、という読み方もあり得ます。

（慣習・一般）国際法とリンクされていない公正衡平待遇条項（例、日・カザフスタンBIT 5条1項）についてはむしろそれが正当な期待の保護を含むことを認めるかのようなICJ判決文（"may"ですけれど）ですが、リンクされている公正衡平待遇条項の解釈につき、今後大きな影響を与えることになるかもしれません。

カナダ・メキシコ・米合意テキスト公表

俗にNAFTA再交渉と呼ばれている交渉の合意文書が公表されています。校正レヴェルの修正はあり得べしだが内容はこれで固まった、とのことです。もはやNAFTAという名称を捨てているところも注目されます（現状ではUSMCAという無味乾燥な名称になっていますが、最終的にこの名称が維持されるのでしょうか。国名がアルファベット順ではないので、米でだけ用いられる略称かもしれませんが）。ともあれ、この合意の発効に伴い、NAFTAは終了することになります（前文第2段。具体的規定は34.1条に置かれる見込み）。

投資については14章が規定しています。注目すべきは、何と言っても投資家対国家紛争処理(ISDS)でしょう。14.2条4項により、Annex 14-C、14-D、14-Eで規定されるとされています。

Annex 14-Cは「過去の投資(legacy investment)」に関するものです。「レガシー投資」という何とも言えない名称はAnnex 14-Cの6項で定義されており、1994年1月1日（NAFTA発効日）からNAFTA終了日（＝この合意の発効日、となるのでしょう）になされた投資を指します。この「過去の投資」あるいは「レガシー投資」については、NAFTA終了日から3年の間に限り、NAFTA11章に基づく仲裁申立が認められます（Annex 14-Cの3項）。

Annex 14-DとAnnex 14-Eはメキシコと米との間にのみ適用される規定です。Annex 14-Dによれば、投資設立後の内国民待遇・最恵国待遇違反、それに直接収用についてのみ、仲裁申立が可能になります（同3条1項）。【削除（10月2日）】Annex 14-Eは投資契約に関する仲裁で、米国が締結する投資条約にはこれまでもよく含まれていた規定です。

Annex 14-Dには（当然ながらAnnex 14-Eにも）公正衡平待遇義務も間接収用も含まれていないので、メキシコと米との間で投資家が国家を訴えることができる場面は大幅に減ることになります。

【追記（10月2日）】Annex 14-Eは、中央政府と投資契約を結んでいる投資家は（同6項）、14章のいかなる義務の違反についても仲裁を利用できる、としています（同2項）。「いかなる義務」もですから、公正衡平待遇なども含むことになります。ただし、「中央政府と投資契約を結んでいること」が条件になるので、そうでない投資家はAnnex 14-Dしか利用できません。また、メキシコ連邦政府と投資契約を結ぶ米企業はあるのかもしれませんが、はたして米連邦政府と投資契約を結ぶメキシコ企業があるのかどうか。過去の例を見ても、Annex 14-Eが実際に使われることはまずなさそうです。

そして、米とカナダとの間にはAnnex 14-DやAnnex 14-Eと類似の規定が置かれていません。つまり、この合意の発効日から3年が経てば、米とカナダとの間では投資仲裁は完全に消滅します。米が頻繁にカナダの投資家によって訴えられている（負けたことはありませんが）ことが背景にあるのかもしれません。

カナダとメキシコの間に関する投資仲裁の規定もありません。が、この2国はCPTPPに署名しており、メキシコは既に最終的同意を表明し、カナダもそのプロセスにありますので、両国間でCPTPPが発効（発効要件はCPTPP3条1項）すれば、それに基づく投資仲裁が可能となります。

要するに、今回の"USMCA"は、米に関する限り、これまでの投資法政策を根本的に変更することを示すものとして注目されます。

パレスティナ国、米大使館のイェルサレム移転につき国際司法裁判所に米を提訴

申立書、裁判所の報道発表をご覧下さい。

「パレスティナ国 State of Palestine」が国連総会決議67/19（2012年11月29日）において「オブザーバー国 observer State」の地位を認められてから、国連事務総長は、自らが寄託者となっている条約についてパレスティナ国が加入手続書類を送付してくる場合、それを受理しています。今回管轄権の根拠とされているウィーン外交関係条約・選択議定書については、それぞれ2014年・2018年に加入書が提出され、事務総長が受理しています（2014年4月9日付通知、2018年3月23日付通知）。このような場合に寄託者たる事務総長が総会の実行に従うというのは、1973年の総会の決定によります（U.N. Doc. A/PV.2202, para. 201; A/9407, para. 158)。

外交関係条約への加入資格は同条約48条に定められています。パレスティナ国はユネスコ加盟国として扱われているので（ユネスコ総会36回会期会議録311-312頁）、専門機関当事国として加入資格があるという理解なのでしょう。

もちろん、米国やイスラエルはパレスティナ国は国際法上の国家ではないと考えているので、ユネスコ加盟国にもなれず（上記会議録312頁パラ57）、（おそらくは）したがって外交関係条約にも議定書（参照、7条）にも加入できない、という立場を採っています（米の2014年5月14日付通知、2018年5月1日付通知。イスラエルの2014年5月22日付通知、2018年5月1日付通知）。本件訴訟でも、米は（出廷するならば）まずこの主張をするでしょう。

パレスティナ国は国連加盟国ではなく、したがって国際司法裁判所規程当事国でもないので、同規程35条2項に依拠する必要があり、その宣言がなされています（パレスティナ申立書Annex 4）。ここでも、35条2項は「国」のみを対象としているので（34条も参照）、（米が出廷するならば）やはり最初の争点になるでしょう。

国連人権理事会独立事実調査団、ミャンマーにて人道に対する罪が犯されていると報告

ロヒンギャ問題です（参照、2018年9月18日の記事）。報告書のパラ83-89を読んでください。ミャンマー独立事実調査団の詳細については、人権理事会のページを見てみてください。

独立事実調査団は、人権理事会の特別手続の一つです。

TAGとは

日米共同声明に「日米物品協定(TAG)」と書かれています。外務省のページに「（ティーエージー）」と読み方が書いてあるように（個人的には「（ティーエイジー）」と書いて欲しかったのですが）、新語です。

官房長官の説明によれば、「物品貿易に限定され、投資・サービスなどのルール分野を含まないので包括的なFTAではない」とのことです（2018年9月27日（木）午前会見2分20秒頃から）。

ちなみに、経済産業省のウェブサイトには、「関税の撤廃・削減を定めるFTA（自由貿易協定）や、関税だけでなく知的財産の保護や投資ルールの整備なども含めたEPA（経済連携協定）」と書かれています。また、通商白書でもこのような説明はよく出てきて、たとえば2008年通商白書では、「自由貿易協定（FTA）は、締約国間の関税その他の制限的通商規則等の撤廃を内容とする協定を指し、経済連携協定（EPA）は、FTAの要素に市場制度や経済活動の一体化のための取組も含む対象分野の幅広い協定を指す」（第4章第3節405頁注1）とあります。

FTAに（限らず、およそ用語一般に）唯一絶対の定義があるわけではない――したがって、「TAGはFTAか否か」という問にはほとんど意味はない――のですが、GATTとの関係で言うならば、GATT24条にいうfree-trade areaを設立するagreementをfree trade agreementと呼ぶことになりますので、TAGが物品貿易に限定されていてもfree trade agreementであることになります。

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【追記（10月13日）】

外務省サイトに上記日米共同声明の英文が掲載されていることに気がつきました。上記記事掲載時点では日本文のみ掲載されていたはずです。

英文を見ると、TAGなる表現はなく、 "negotiations [...] for a Japan-United States Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services"となっていいます。つまり、"a Japan-United States Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services"ということで、goods以外のことも含めて扱う単一の合意文書("a[n]... Agreement")についての交渉を行うということです。"negotiations [...] for a Japan-United Trade Agreement on goods, as well as for other key areas including services"とは書かれていないので、TAGなるものをまず交渉して、その次にサービスその他について別途の交渉をする、という趣旨ではないことがわかります。

これも上記記事掲載後に気がついたのですが、在日米国大使館・領事館ウェブサイトにある日本語（仮翻訳）は英文に忠実に訳されていて、TAGなる表現は出てこないので、TAGというのは日本政府独特の用語法のようです。

国際刑事裁判所検察官、ロヒンギャ問題につき予備的検討開始

検察官の声明を読んでみてください。そこにあるように、ミャンマーは国際刑事裁判所規程当事国ではないが、バングラデシュは当事国だ、というところが重要です。「予備的検討」については同規程15条を読んでください。

米、国際刑事裁判所裁判官を訴追する可能性を明言

大統領声明の下から3つめのbullet pointの"To the extent permitted by United States law..."のところです。

国際刑事裁判所裁判官の特権免除は同裁判所規程48条に定められていますが、同条1項により当事国の領域内に限定されていますし、米は同規程の当事国ではないので、いずれにせよ関係ありません。

国際刑事裁判所は、これを受けて、今後とも粛々と仕事をする、との趣旨の声明を発表しています。

ブリュッセル控訴院、CAS仲裁条項を無効と判示

現時点では新聞記事しかありません。仲裁の押しつけであって、EU法にもヨーロッパ人権条約にも反するとの判示のようです。判決文が入手できれば掲載します。

人種差別撤廃委員会、日本国家報告に関する最終所見

現時点では暫定版が掲載されています。従軍慰安婦につき、パラ27-28に記述があります。日本の立場は、日本が提出した追加情報に示されています。

それを比較すればわかるように、日本はそもそもこの問題は同委員会の管轄外だと主張しています。整理すると、次のようになります。

• 時間的管轄
  • 日本　従軍慰安婦問題は、「戦時中の問題」という意味において「過去の問題」であって、日本が人種差別撤廃条約に参加した1995年以前に発生した問題であるため、同条約の対象範囲外である。
  • 委員会　元従軍慰安婦に対する「現在の」対応を検討するという意味で「現在の問題」であるため、委員会が扱うことができる。
• 事項的管轄
  • 日本　これは「人種差別」の問題ではない。
  • 委員会　「人種差別」である。

外務大臣の8月31日の会見では、

【河野外務大臣】この委員会で取り上げるべきものではないということははっきりしておりますので，これが繰り返しそういうことが行われるということは，この委員会の存在意義ということにも関わってこようかと思っております。

ということですが、「はっきりして」いるかどうか、まずは上記の資料を読んで、考えてみて下さい。後者の「人種差別ではない」という主張は、従軍慰安婦には日本人もいたのだから人種差別ではない、ということなのかと推測されますが、それを強調すると「じゃあ女性差別ですね」ということで女子差別撤廃委員会がこの問題を扱う根拠を強めることになるかもしれません（参照、2016年3月7日の記事）。

カスピ海の法的地位に関する条約

長らく対立が続いていたカスピ海の法的地位につき合意が成立したようです。条約文はこちら。明示的に海洋法の適用を定めてはいませんが、海洋法類似の規則を設定しています。

ヨーロッパ人権条約第16議定書発効

批准状況はこちら。さて、どの国のどの裁判所が最初に勧告的意見を要請するでしょうか。参照、2013年10月2日の記事。

死刑

死刑執行数の推移という日弁連のまとめがあります。世界的傾向については、アムネスティの調査があります。

死刑の是非については、世論調査によれば8割程度が死刑の維持を支持しているということがよく言われますが、この世論調査の質問文のあり方については議論があります（たとえば、衆議院法務委員会2015（平成27）年8月28日会議録12-13頁）。

自由権規約は死刑を禁止しておらず（禁止しているのは第2選択議定書。もちろん日本は不参加。）、自由権規約委員会は、死刑を"the most serious crimes"に限定する6条2項に日本の法制度が合致していないと批判しています（日本の第6回国家報告への最終所見パラ13）が、死刑執行そのものが自由権規約違反と述べたことはありません。

ICJ所長が裁判所規則74条4項の権限行使

イラン・米の1955年条約事件について出された報道発表2018/37にそのことが示されています。所長が何を米に伝えたかについて具体的なことは書かれていませんが、イラン外務省ウェブサイトの記事を見れば、少なくとも「紛争を悪化させないように」ということは伝えられているようです。

裁判所規則74条4項の権限はしばしば行使されますが、当事国が常に従うわけではありません。先例については、Malcolm N. Shaw, Rosenne's Law and Practice of the International Court: 1920-2015のChapter 24, III.341を見てください。

外国人の受入れ環境の整備に関する業務の基本方針

閣議決定が公表されています。より詳しい「外国人材の受入・共生のための総合的対応策（検討の方向性）（案）」も公表されています。後者には、

我が国としても、日本で働き、学び、生活する外国人の処遇や生活環境等について、一定の責任を負うべきものである。 外国人を、孤立させることなく、社会を構成する一員として受け入れていくという視点に立ち、外国人との共生社会の実現に向け、外国人が日本人と同様の公共サービスを享受し、生活できる環境を整備しなければならない。

という文もあります。これが「移民政策ではない」のであれば、移民政策とは一体何なのか……（参照、2018年5月29日の記事）。

EU裁判所、先決裁定において自然人を匿名化

プレスリリースで発表されています。今後は、Costa/ENELのような事件名がC/ENELになるわけです。

ILAシドニー大会への報告書

各委員会の報告書が掲載されています。私が共同議長を務めているProcedure of International Courts and Tribunalsの報告書は既に掲載されています。委員を務めているRecognition/Non-recognition in International Lawの報告書は間もなく完成し、掲載の予定です。

いずれについても、コメント・批判を歓迎します。何かあればご一報ください。

EU、米の対イラン制裁への対抗立法

「対抗立法」というのも私の世代以上の国際法研究者には懐かしい響きですが、かつてのHelms-Burton法（"Helms-Burton Act"で検索するといろいろ見つかります。）などのときに定められたEU規則2271/96が、米による対イラン制裁（参照、5月8日の記事）への対抗のために用いられることがEU委員会の報告書により発表されました。

EUによる措置の具体的内容は、規則の4条・5条・6条をご覧下さい。

2018 Kyoto-NCCU Joint Seminar in International Law

国立政治大学とは2回目の合同セミナーになります。これまでの合同セミナーについてはこちら。

EU裁判所、同性婚を認めない国において同性婚配偶者につき家族呼び寄せを認める

判決文はこちら。

ルーマニアと米の重国籍者（したがってEU市民。EU運営条約20条1項）Aと米国籍者Bと（いずれも男性）が、Aが勤務のため居住していたブリュッセルでベルギー法に基づき結婚し、その後Aがルーマニアに転居してBをルーマニアに呼び寄せようとしたところ、ルーマニアは同性婚を認めないのでBをAの家族と認めることはできず、Bには通常の米国人としての一時滞在の資格しか認めない、とされたことに端を発する事件です（事実は判決パラ9-12）。

裁判所は、以下のような理由で、ルーマニアの措置はEU法違反と判断しました。

EU市民のEU内自由移動（EU運営条約21条1項）は、家族呼び寄せの権利を含む（参照、判決パラ32に引用された判例）。EU市民が自国以外のEU構成国に滞在する場合を扱う指令2004/38の2条2項(a)（したがって、ルーマニア国籍者たるAがルーマニアに滞在する本件とは関係ないはずだが、判決パラ36によれば本件に類推適用される）は家族構成員の一例として「配偶者(conjoint)」を挙げているところ、「配偶者(conjoint)」が異性でなければならないとは書かれておらず、同性をも含むと考えることもできる（パラ35）。

また、もし同性婚を認めない国では同性配偶者について家族呼び寄せができないとなると、EU内で構成国によって呼び寄せができたりできなかったりすることになり、本件に類推適用される指令2004/38の関連規定の有用性（l'effet utile. EU法における"effet utile"が国際法における"effet utile"と必ずしも同じでないことにつき、共著書a第4編第1章第1節3(3)）がなくなってしまう（パラ39）。

いくつかの構成国は、EUは各構成国の"identité nationale"を尊重しなければならない（EU条約2条4項）ことを指摘する。しかし、本件のような呼び寄せを認めるとしても当該構成国の婚姻制度が影響を受けるわけではなく、identité nationaleを害することもない（パラ42-46）。

指令2004/35の2条2項(a)には、私生活・家族生活の尊重に関するEU基本権憲章7条が関係する。基本権憲章の各規定は、同52条3項に基づき、ヨーロッパ人権条約の関連規定と同内容と解釈されねばならず、ヨーロッパ人権裁判所の判例（Vallianatos v. Greece, パラ73）によれば同性婚の場合も「私生活」「家族生活」の概念の下で保護される（パラ48-50）。

EUがいつになったらヨーロッパ人権条約に加入できるのか全くわからない状況になってしまっているわけですが（参照、2014年12月18日の記事）、その状況が続いてもとりあえず困ることはありませんよとEU裁判所が力説しているように見えます。

米、安全保障を理由とする輸入制限

鉄鋼・アルミニウムそれぞれについて大統領宣言が出ています。

声明中に何度も"national security"への言及がありますが、法的に見れば、GATT21条(b)で正当化可能かどうかが問題となります。中国・インド・EU・カナダが（いずれは日本も？）WTO紛争処理手続に訴えていますが、そこで21条の解釈（たとえば、"which it considers necessary for"の解釈）が争われて何らかの判断が示されるに至れば、画期的と言えます。GATT21条に関するWTO以前の判断およびWTOにおける判断は、WTO自身がまとめてくれています（参照、2018年3月26日の記事）。

もっとも、WTO紛争処理機関（特に上級委員会）が危機的な状況にあることは、2017年12月12日の記事で記したとおりです。上級委員会委員選出を急ぎ行うべきとの提案は頻繁になされていますが、現実は厳しいようです。

「いわゆる移民政策」とは

ここのところ、「政府が検討している新たな外国人労働者受け入れ策の原案が29日、明らかになった。［……］日本経済が直面する深刻な人手不足を背景に、単純労働分野における外国人への事実上の門戸開放に踏み切る」（日本経済新聞2018年5月29日電子版）のような報道が相次いでいます。

それで思い出すのが、総理大臣の以下の発言です。

　安倍内閣として、いわゆる移民政策をとる考えはありません。この点は堅持します。他方で、５年間のアベノミクスによって、有効求人倍率が４３年ぶりの高水準となる中で、中小・小規模事業者の皆さんを始め、深刻な人手不足が生じています。

　生産性向上や女性・高齢者の就業環境の整備のため、生産性革命・人づくり革命・働き方改革を推進するとともに、あわせて、専門的・技術的な外国人受入れの制度の在り方について、早急に検討を進める必要があると考えます。

　在留期間の上限を設定し、家族の帯同は基本的に認めないといった前提条件の下、真に必要な分野に着目しつつ、制度改正の具体的な検討を進め、今年の夏に方向性を示したいと考えています。

「いわゆる移民政策」というのが何を意味しているのか不明ですが、この表現は政府により頻繁に使われており、たとえば国会会議録を「いわゆる移民政策」で検索すると多数ヒットします。

国際的に見ても、「移民 (migrant, emigrant, immigrant)」の定義は必ずしもはっきりしません。

• 国際移住労働者条約（日本は未参加）2条1項
  "The term "migrant worker" refers to a person who is to be engaged, is engaged or has been engaged in a remunerated activity in a State of which he or she is not a national."
• United Nations, Department of Economic and Social Affairs, International Migration Report 2017: Highlights, ST/ESA/SER.A/404, p. 3.
  "By definition, an international migrant is a person who is living in a country other than his or her country of birth."
• United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Recommendations on Statistics of International Migration, Revision 1, ST/ESA/STAT/SER.M/58/Rev.1, p. 10.
  "[A] long-term migrant should be defined as a person who moves to a country other than that of his or her usual residence for a period of at least a year (12 months), so that the country of destination effectively becomes his or her new country of usual residence".
• International Organization for Migration, Glossary on Migration, 2nd ed., 2011.
  "immigration: A process by which non-nationals move in to acountry for the purpose of settlement."
  "migrants for settlement: Foreigners granted permission to stay for a lengthy or unlimited period and subject to virtually no limitation regarding the exercise of an economic activity. (e.g. employment-based migrants, family-based migrants, ancestry-based migrants, migrants with the right to free establishment, or foreign retirees)."
• OECD, Standardised statistics on immigrant inflows: results, sources and methods, September 2008, p. 3.
  "Permanent or permanent-type migrants in this year's edition of the International Migration Outlook include persons who have been granted the right of permanent residence upon entry, persons admitted with a permit of limited duration that is more or less indefinitely renewable plus some entering persons with the right of free movement (such as EU citizens within the European Union). Rephrased in terms of persons excluded from the target population, permanent-type migrants as defined here exclude temporary visitors (for both tourist and business reasons) and persons who enter the country on a permit that is not renewable or renewable only on a limited basis, as well as persons under a free-movement regime who enter for reasons similar to those of persons with a limited-renewal permit. Persons in this category include tourists, business visitors, seasonal workers, international students, exchange academics and researchers, trainees, service providers, etc."

ということで、国連の定義によれば、日本は既に移民を受け入れていることになり、その意味で日本には「移民政策」があることになります。他方、現在メディアで報じられている案が実際に用いられるようになったとしても、IOMのいう"migrants for settlement"、あるいはOECDのいう"permanent or permanent-type migrants"はやはり受け入れないということになります。ということは、日本政府が用いる「いわゆる移民政策」という語は、IMOの"migrants for settlement"や、OECDの"permanent or permanent-type migrants"の受入に関する政策、という意味になるのでしょう。

誤解を避けるためには、「いわゆる移民政策」ではなく、「定住移民政策」と言った方がいいのかもしれません。

世界人権宣言は拘束的か

オランダが、新たなモデルBITの案を公表し、パブコメに付しています。まだ「案」ですし、そもそもモデルBITに過ぎないのですが、大変興味深いものです。案文は上記リンク先ページの下の方にあります。

投資法の観点からもいろいろ面白いのですが、たとえば人権法の観点から見ると、6条5項は注目に値します。

Within the scope and application of this Agreement, the Contracting Parties reaffirm their obligations under the multilateral agreements in the field of environmental protection, labor standards and the protection of human rights to which they are party, such as the Paris Agreement, the fundamental ILO Conventions and the Universal Declaration of Human Rights. Furthermore, each Contracting Party shall continue to make sustained efforts towards ratifying the fundamental ILO Conventions that it has not yet ratified.

"obligations under... the Universal Declaration of Human Rights"という微妙な表現ではありますが、世界人権宣言が法的拘束力を持っているかのようにも読めます。スペイン憲法10条2項など、世界人権宣言に一定の法的意義を認めている法文書はありますが、条約において世界人権宣言の法的拘束力を認めることになると、初めてではないでしょうか。

なお、投資についてはかなりの部分EUに権限が移譲されています（参照、2017年5月16日の記事）ので、EU構成国がBITを締結するのは個別具体的にEUから許可が得られる場合のみです。

セクハラ罪という罪はない

麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(平成30年5月8日(火曜日))を見てみましょう。

問） 　加えてマニラでの会見で、麻生大臣が発言されたセクハラ罪という罪はないという発言が批判が集まっていますが、これについて、声が上がっていますが。

答） 　セクハラ罪という罪はないと思いますが。

問） 　それだけですか。

答） 　セクハラ罪という罪があるかと言うから、ないと思いますよ。

問） 　批判を浴びていることについてはどういった御見解でしょうか。

答） 　セクハラ罪という罪があると思っておられる方の発言ですか。よくわかりませんけれども、セクハラ罪という罪は、いわゆる罪としては、これは親告罪であって、意味わかりますか。わからない人に説明しても意味がないから、セクハラ罪という罪はありませんからというので、これは親告をされたことによって、訴えられているという話も伺っていませんから、私共としてはセクハラ罪という罪はないということなのであって、そういうことを申し上げた、事実を申し上げているだけです。

こういう話を聞いた場合、国際法を学ぶ者は、まずは女子差別撤廃条約に基づく日本の国家報告への女子差別撤廃委員会の最終所見をチェックしてみるようにしましょう。

なお、「女子」差別撤廃条約という訳語に時々批判がなされますが、批判する前にまず濱口桂一郎「女子と婦人と女性」労基旬報2014年11月25日号を読んでみましょう。

日本の第7回・第8回国家報告への最終所見(CEDAW/C/JPN/CO/7-8)は以下の通り（抜粋）。

34. [...][T]he Committee remains concerned at:

[...]

(d) The lack of an adequate prohibition and appropriate sanctions for sexual harassment [...].

35. The Committee urges the State party:

[...]

(c) To adopt legal provisions that prohibit and provide for appropriate sanctions to deter sexual harassment at the workplace [...];

(d) To conduct regular labour inspections aimed at enforcing compliance with labour laws and codes of conduct on sexual harassment; [...].

ちなみに、自由権規約に基づく第6回国家報告への最終所見(CCPR/C/JPN/CO/6)でも、以下のように書かれています。

9. [...] The Committee is also concerned at the lack of punitive measures against sexual harassment [...].

10. The State party should [...] also take the necessary legislative measures to criminalize sexual harassment [...].

自由権規約の方は、第7回国家報告の提出期限が今年7月31日ですので（このページをよく調べてみればわかります）、上記財務大臣発言を受けて国家報告書がどのように書かれるか、要注目です。

米、イラン核合意(JCPOA)から離脱

離脱声明はこちら。イランは、この離脱を"unlawful"と表現しています。もっとも、一般的な認識ではJoint Comprehensive Plan of Actionは、安保理決議2231 (2015)で歓迎されたとはいえ、法的合意ではなく（米の立場については、 Digest of United States Practice in International Law 2015, p. 833）、仏独英共同声明はもちろん、ロシアの声明も離脱が違法とは述べていません。

投資仲裁申立後ヨーロッパ人権裁判所に提訴できない場合

Arif v. Moldova (ICSID Case No. ARB/11/23, Award, 8 April 2013) （参照、その他ag）で一部勝訴した投資家が100%支配する法人Le Bridgeが同じ事実関係についてヨーロッパ人権条約（第一）議定書1条の財産権侵害を主張してMoldovaを訴えたLe Bridge v. Moldova (Application no. 48027/10, Decision, 19 April 2018, paras. 22-33) において、ヨーロッパ人権裁判所は、ヨーロッパ人権条約35条2項(b)に基づき受理可能性を否定しました。Le Bridgeの訴えがArifのそれと実質的に同一だという判断です。

Yukosについて、一連の仲裁（参照、判例評釈p）が進行中であったにもかかわらずヨーロッパ人権裁判所への申立も認められた (OAO Neftyanaya kompaniya Yukos, Application no. 14902/04, Judgment, 20 September 2011, paras. 516-526)のは、それぞれ訴えを提起した者（株主）が同一ではないため、ヨーロッパ人権条約35条2項(b)の意味での実質的に同一の訴えと理解されなかったからです。

今回は、ArifがLe Bridgeの100%株主であることが決定的に重要でした。ちなみに、仲裁とヨーロッパ人権裁判所とへの申立ではなく、ある仲裁と別の仲裁とへの申立という別の類型の事例において似た判断が示されており (Orascom v. Algeria, ICSID Case No. ARB/12/35, Award, 31 May 2017. JCAジャーナルの連載に評釈が近々載る予定です）、比較してみると面白いところです。

米英仏、シリアを空爆

空爆開始からほぼ2時間経った現在、フランス大統領府とイギリス首相府ウェブサイトに声明が掲載されています。

フランス大統領声明　要点は以下の通り

• シリア政権による化学兵器の使用により何十人もが殺害された。これは、国際法および安保理決議の明白な違反である。
• 攻撃の対象はシリア政権による化学兵器の製造・使用の施設・設備に限定されている。
• 責任のありかを明確にするための国連機関を設置すべきである。

イギリス首相声明　要点は以下の通り

• シリア政権による化学兵器の使用を阻止するためにはこれしか方法がない。
• 特定の目標に限定された攻撃であり、文民に対して被害を生ぜしめないようにできるだけのことをしている。

いずれの声明も、国際法上の正当化根拠を明示していません。今後どのような主張が示されるか要注目です。

なお、いずれの声明も、「シリア政権(le régime syrien/the Syrian Regime)」という表現を用いており、「シリア政府(le gouvernement syrien/the Syrian Government)」とは言っていません。

米大統領府サイトにはまだ何も出ていません。現政権になってから、ウェブサイトの情報量の少なさと反応の遅さは際立っています。

【追記（4月16日）】

米大統領府サイトに大統領声明が掲載されています。要旨は以下の通り。

• 今回の攻撃は正当であり、比例性もとれている。
• 今回の攻撃は必要であった。化学兵器の使用はわずかなものでも大規模な被害を起こすため、化学兵器を使用することは軍事的にも政治的にも割に合わないことをわからせねばならない。

日本外務大臣の記者会見での発言　要旨は以下の通り。

• 化学兵器の使用拡散を容認しないという英米仏の決意は、日本として支持できる。
• シリアの化学兵器の研究開発能力を低下させる措置は、日本として理解できる。
• 日本は当事国でないので、行為の法的評価について述べる立場にはない。

ロシア外務省声明　要旨は以下の通り。

• この攻撃はOPCW職員が現地調査をしようとする直前になされた。
• シリアに対する武力侵略を強く批判する。

中国外交部報道官の記者会見での発言　要旨は以下の通り。

• 安保理を経ない一方的武力行使は国連憲章違反であり、反対する。
• シリアにおける化学兵器の使用については、まずは調査をしなければならない

【追記（4月17日）】

フランス大統領はインタビュー番組で、今回の攻撃はlégitimeであると強調していました。その根拠は大要以下の通り。

• 今回の攻撃はmultilatéralな（＝多数国による、単独行動でない）ものである。
• シリア政権による度重なる違法行為への復仇(représailles)である。

Légitimeという語は、日本語では「正当な／正統な」と訳されることが多く、「合法とは限らないが、（何らかの意味において）正しい」という意味を持たされることも少なくありませんが、語源をたどればラテン語のlexですので、「合法な」という意味を持つこともあります。仏仏事典を参照してみてください。また、「復仇」（ちなみにreprésaillesの語源はreprendre〔取り戻す〕）という語が用いられているのは興味深いところですが、厳密に法的な意味で用いられているのかどうかよく判らないところがあります。

余談ですが、フランス語を解する人には、上のインタビュー番組を最初の30分だけでも見てみることを強く勧めます。内容においてもスタイルにおいても厳しい質問をすることで著名なジャーナリスト2名をあえて相手に選び、2時間半にわたって遠慮なく次々に浴びせられる質問に正面から答えていく政治家はなかなか見応えがあります。政治家にに全く遠慮ない質問を浴びせかけるジャーナリストもですが。こういうのを見慣れていると、確かに日本には報道の自由の面で問題が多々あると言いたくなるでしょう。

WTO、Analytical Indexを掲載

国際法を学ぶ者には大変有益ですので、とりあえず見てみてください。見てみれば何のことかわかります。

米、中国に対してWTO紛争処理手続開始

DS542です。知的財産権の侵害（TRIPS協定違反）を主張しています。

この前日の3月22日に、米は、中国による知的財産権侵害について301条手続を始める、との大統領声明を発表しています。その声明の中で、China’s discriminatory licensing practicesについてはWTO紛争処理手続を利用すると言っていました。

「301手続」というのは私以上の世代の国際法研究者には懐かしい響きを持った言葉ですが、10 U.S.C. 2411のことで、リンク先PDFの1頁目右下の§2411のことです。とりあえず(a) Mandatory actionのみ読んでみておけば足ります。ポイントは、規程冒頭(1)の”If the United States Trade Representative determines"という表現です。

【追記（4月6日）】

中国は、米のこの措置についてGATT1条1項等の違反を主張してWTO紛争処理手続を開始しました。DS543です。

フィリピン、国際刑事裁判所規程からの脱退を通告

脱退通告書に、以下の理由が示されています。

The decision to withdraw is the Philippines’ principled stand against those who politicize and weaponize human rights, even as its independent and well-functioning organs and agencies continue to exercise jurisdiction over complaints, issues, problems and concerns arising from its efforts to protect its people.

これまでの脱退の動きについては、2016年10月27日の記事、2017年2月17日の記事、同年2月22日の記事を参照して下さい。

仏独米英、Salisbury事件においてロシアが国際法違反と批判

4ヵ国共同声明は仏、独、米、英それぞれの政府サイトで読めます。化学兵器禁止条約違反およびイギリスの主権侵害を主張しています。

英首相声明では、英領域内でのロシアによる殺人未遂行為が"an unlawful use of force"を構成する、とも述べています。ここで、"use of force"とは、おそらくは日常用語としてのそれであり、国連憲章2条4項の意味でのuse of forceではないものと推測されます。4ヵ国共同声明ではuse of forceという表現は用いられていません。

スイス議会全州議会、「外国裁判官よりもスイス法を」憲法改正案否決

非常に興味深い議論がスイスでなされています。UDCという政党が――同党ウェブサイトのホームページを見るとどういう主張の政党かがよくわかります――、「外国人裁判官よりもスイス法を ("Le droit suisse au lieu de juges étrangers")」という表題の憲法改正案を提出しています。

スイス憲法は、国際法上の強行規範に反する憲法改正を認めておらず（139条3項、193条4項、194条4項）、その意味で憲法は国際法上の強行規範に劣後すると定めています。他方、それ以外の国際法規範がスイス法においていかなる階層的地位を占めるかについては必ずしもはっきり定めていません。スイスの判例法は、憲法の明文上の根拠を明らかにしないままに、少なくとも一部の国際法規則（特に人権関連）は憲法規定にも優位するとの立場を採っています（参照、共著書a）。その判例法を憲法改正により変更しようという試みが、この憲法改正案です。憲法改正案の詳細は上記リンク先を見て頂くとして、その概要を一言で言えば、「国際法上の強行規範を除き、連邦憲法は国際法に優位する」というものです。

今回の憲法改正案は、住民発議(initiative populaire)によっています。この場合、連邦議会が憲法改正案を否決すれば、住民投票に委ねられることになります（憲法140条2項(b)、議会法103条2項）。スイス議会には、国民議会と全州議会とがあり、この二つを合わせて連邦議会となります。このうち、全州議会での本改正案の審議が3月13日になされました。審議概要は、リンク先ページの下の方のSynthèse message / rapportのdélibérationsをクリックすると出てきます。6対36で否決されたとのことです。国民議会と全州議会との両方が賛成しなければ連邦議会の賛成が得られたということにならないので（議会法81条2項、3項）、全州議会が反対したということはもうこれで連邦議会の賛同はあり得ず、したがって上記憲法改正案は住民投票に付されることになります。

興味深いのは、議論の内容です。スイス議会での多数派は、審議概要を見てもわかるように、上記憲法改正案は排外的で独善的でSwitzerland firstでけしからん、という主張のようです（憲法改正案に反対のこれやこれも同旨）。ところが、既にお気づきと思いますが、この憲法改正案は、日本を含む多くの国の現状よりも遥かに国際的に開かれた立場な訳です。国によって国際法の捉え方が大きく異なることが、この例からもわかります。

さて、住民投票はどうなるでしょうか。

CPTTP署名

条文はこちら。TPPの条文と照らし合わせないと理解できないようになっています。

CPTTPについては、次のような報道があります。

ただ、米国の離脱で一部の項目は凍結され、企業活動の支障が残る恐れがある。たとえば投資家を保護する「紛争解決」。凍結に伴い石油や天然ガスの採掘、発電所や道路などのインフラ整備を手掛ける企業は相手国が合意をほごにした場合でも訴えることができない。
　（日本経済新聞2018年3月9日。無料では読めないかもしれません）

この、「一部の項目は凍結」というのがCPTTPの2条であり、具体的にはAnnexに示されています。上の引用部分で言及されているのはAnnexの2で、TPP9.1条からAnnex 9-Lまで、investment agreementとinvestment authorisationとに部分的に凍結されていることがわかります。

全くの余談ですが、"authorisation"に見られるように、TPP/CPTTPはイギリス英語（というよりNZ英語）で書かれています。これはもちろんTPPのきっかけがNZを含むTPSEP/P4であり、TPP/CPTPPの寄託者がNZだからです。

さて、では、日経記事の言うように「石油や天然ガスの採掘、発電所や道路などのインフラ整備を手掛ける企業は相手国が合意をほごにした場合でも訴えることができない」か。これは必ずしもそうとは限りません。「合意をほご」にする行為が公正衡平待遇義務（TPP9.6条）違反を構成したり、収用（同9.8条）を構成したりすることはあり得る――というか、よくある――からです。上記関連条項が凍結されていなければ、投資受入国が「合意をほご」にしただけで訴えることができるので、凍結により訴えにくさの程度が上がるのはたしかですが、訴えることが「できない」というのは言い過ぎです。

なお、TPP9.6条3項は、一見する限り上に述べたことを否定するように読めるかもしれません。しかし、じっくり読めばそうでないことがわかるでしょう。

東ティモール・オーストラリア、海洋境界条約に署名

国連海洋法条約に基づく初の調停の帰結がこの条約（プレスリリースに添付）署名でした。調停プロセスは事柄の性質上非公開の部分が多く、どのような経緯を経てこの条約に至ったかは今後様々な手段で少しずつ明らかにされるのを待つしかないでしょう。結論だけを見る限り、この調停には実効性があったといえそうです。

国連海洋法条約Annex Vに基づく調停については、その他bdを参照してください。

EU裁判所、intra-EU BITに基づく投資家対国家仲裁はEU法に反すると判断

Achmea事件判決です。Achmea対スロヴァキア(No. 1)に端を発する事件です。

EU構成国間のBIT (=intra-EU BIT) とEU法との両立性については従来から議論の絶えないところでしたが、実務的にはこれで一応の決着がついたことになります。EU法に反するという結論の理由付けは以下の通り。

• オランダ・チェコスロヴァキアBIT（スロヴァキアはこれを承継）の8条6項は、同BITに基づく仲裁の適用法の例として、被申立国（本件ではスロヴァキア）において効力を有する法と、同BIT当事国（本件ではオランダ・スロヴァキア）間に適用される条約とを挙げている。（パラ40）
• EU法は、「被申立国において効力を有する法」であると共に「同BIT当事国間に適用される条約」をも含む。（パラ41）
• したがって、同BITに基づく仲裁はEU法の解釈適用を行う。（パラ42）
• 同BITに基づく仲裁廷はEU運営条約267条にいう「構成国の裁判所」ではなく、先決裁定を請求することができない。（パラ45-49）
• Achmea仲裁はUNCITRAL仲裁であり、仲裁地はドイツ（＝EU構成国）であり、本件でなされているようにドイツ裁判所から先決裁定の請求がなされ得る。（パラ50-52）
• しかし、ドイツ裁判所が仲裁手続に介入できる程度は限定されている。商事仲裁であれば、国内裁判手続からの離脱は紛争当事者たる私人の私的自治として理解することができるが、intra-EU BITによる投資条約仲裁はEU構成国がEU条約19条が定める司法制度から離脱しようとするものである点で根本的に異なる。（パラ53-55）
• これは、（EU構成国の司法制度から離脱しようとする点で）相互信頼原理に反すると共に、（EUの司法制度から離脱しようとする点で）誠実協力原理（EU条約4条3項）にも反する。（パラ58）
  【注】「相互信頼原理」はEU条約・EU運営条約に明文では定められていませんが、Cassis de Dijon判決などが前提としている不文の原理です。

この判決はオランダ・チェコスロヴァキアBIT8条6項という必ずしも一般的でない条項に言及していますが、このような条項がなくとも結論は変わらないでしょう。

本件はintra-EU BITの事例であり、日・EU EPAのようにEU外の国と締結される条約に直ちに影響する判断ではありません。が、EU法の解釈適用を行う裁判所の存在をEU外には許さないというEU裁判所の固い意思を見て取ることは容易であり、CETAの条約適合性に関する議論にもある程度は影響するでしょう。

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3月7日現在、本判決は仏語・独語版のみ確定版で、それ以外の言語では「暫定版」とされています。EU裁判所の作業言語は仏語であり、仏語版以外は全て翻訳です。本件はドイツの裁判所からの先決裁定要請だったので独語訳がすぐに出ているものと思われます。

スイス、EUとの間で仲裁制度を構想

スイスはEFTAには入っていますがEEAには入っておらず（国民投票で否決されたため）、EUの共通市場にほぼ組み込まれながらも、法的には弥縫策の積み重ねで対応がなされていました。もうこれ以上弥縫策に弥縫策を積み上げていくわけにはいかないということでEU・スイス間の法的関係を整理する議論（EUサイト・スイスサイト）が始まっていましたが、スイス外務省の記事によれば、どうやらスイスも諦めて司法的処理機関の設立を受け入れる方向に傾いているようです。

どのような仲裁制度になるのか、EFTA裁判所とは何がどのように異なることになるのか、要注目です。Brexitの議論にも影響するでしょう。

EEAについては、その他afを参照してください。

WTO DSB小委員会、韓国の日本水産物輸入制限はSPS協定違反と判断

報告書はWTOサイトの本事件ページのPanel Reportをクリックしてください。

メディアでは、

一審に当たるＷＴＯの紛争処理小委員会（パネル）は報告書で「恣意的または不当な差別にあたり、必要以上に貿易制限的」と指摘。協定違反に当たるとして韓国に是正を勧告した。［……］韓国は2011年３月の東京電力福島第１原発事故以来、福島や宮城、岩手など８県のマダラやスズキなど一部の水産物の輸入を禁止。13年９月からはすべての水産物に対象を拡大した。日本産食品の検査措置も強化した。日本は15年、一連の措置は過剰で不当だとしてＷＴＯに提訴した。（日経電子版2018年2月23日）

等と報じられています。この要約は誤りではないのですが、これだけだと、「健康よりも貿易の方が大事なのか！」という疑念が出て来るのもやむを得ないように思えます。

ただ、法学部生であれば、そういう疑念を抱く前に、まずは報告書本文を読んでみましょう。その際、SPS協定も一緒に読むことを忘れずに。ポイントとなるのは、以下のあたりです。

• 日本の主張のまとめ（パラ3.1, 3.2）
• 暫定措置（SPS協定5.7条）
  • 小委員会　日本からの一部水産物輸入の全面禁止をSPS協定5.7条で正当化する場合に必要な「科学的証拠の不足 (insufficiency of scientific evidence)」につき、韓国は証明できていない。（パラ7.117）
• より貿易制限的でない措置を採る義務（SPS協定5.6条）
  • 韓国の安全基準　食品経由の被曝は年1ミリシーベルト未満。（パラ7.172）
  • 韓国の措置　日本産のすべての食品について、韓国側の検査で少しでもセシウムまたはヨウ素が検出された場合には、ストロンチウム、プルトニウム等の検査証明書を追加で要求。（パラ2.101）
  • 日本の主張　セシウムが100ベクレル/kgあるかどうかをサンプル抽出検査すれば韓国の安全基準は達成できる。（パラ7.151, 7.243）
  • 小委員会
    • 小委員会が任命した専門家委員会によれば、日本の主張は、十分な水準のかつ権威ある科学的調査研究(qualified and respected scientific sources)に基づいている。（パラ7.243）
    • 日本の提案する方法により、韓国の安全基準は達成できる。（パラ7.244, 7.251-7.254）
• 差別的待遇の禁止（SPS協定2.3条）
  • 一部水産物全面輸入禁止
    • 消費者の健康を守るという目的と、全面輸入禁止（≠検査して基準値〔たとえば100ベクレル/kg〕を越えるもののみ輸入禁止）とは結びつかない。（パラ7.343）
    • 福島等8県からの輸入を全面禁止としているところ、禁止されていない都道府県で漁獲された魚で、福島等8県で包装されたものまで禁止の対象とされている。韓国は、日本における産地表記には偽装の例があるため信用できないとするが、計7万6千件の中に22件の偽装があったとしても、それを理由に信用性がないとは言えない。そもそも、輸入禁止の対象となる「日本産」の確定のためには、韓国は日本の産地表記を用いている。よってこの差別的待遇は正当化できない。（パラ7.344-7.346, 7.349-7.350）
  • その他日本産食品につき上記の追加的検査
    • 消費者の健康を守るという目的と、日本産食品のみが上記の追加的検査（わずかでも〔つまり、100ベクレル/kgに至らなくても〕セシウムが検出されればなされる追加的検査）に服せしめられるということとは結びつかない。（パラ7.355）
    • 公海上で日本船舶が捕った魚は追加的検査対象とされる一方、公海上の同じ場所で韓国船または第三国船舶が捕った同じ魚については対象とされない（パラ7.353）。

なお、韓国は上訴するとのことです。

判決で相手国領域とされた地域に軍隊を駐留させている場合の責任

コスタリカ・ニカラグア判決（陸地境界画定事件と海洋境界画定事件とを併合）は、海洋境界画定に関する部分も面白いのですが、陸地について興味深い判断があります。

境界画定の結果コスタリカ領であることが確定した土地にニカラグアが軍隊を駐留させており、したがってニカラグアの行為はコスタリカの主権侵害となるが、それについての適切な賠償(appropriate reparation)は主権侵害の宣言と撤退命令である、と述べています（パラ77-78）。これは、従来の判決とはやや異なるようにも見えます。

カメルーン・ナイジェリア陸地海洋境界画定判決（2002年）では、判決によりカメルーン領であることが確定した地域にナイジェリアが軍を駐留させていたところ（パラ312）、判決はナイジェリアに撤退を命じる（パラ314）一方で、同地域をカメルーン領とするという判決とナイジェリアの撤退により「占領によりカメルーンが被った害は十分に考慮される」ため、「この占領によりナイジェリアがカメルーンに対してどのような責任を負うかは検討しない (La Cour ne recherchera donc pas si et dans quelle mesure la responsabilité du Nigéria est engagée à l'égard du Cameroun du fait de cette occupation)」と述べています（パラ319）。

2017年のガーナ・コートジボワール国際海洋法裁判所判決では、一般論として、判決によりA国の大陸棚とされる部分において判決前にB国が開発活動等を行っていた場合、B国が当該大陸棚は自国に属するものと善意で考えた上でなしていたのならば、B国の活動はA国の主権的権利の侵害にならない、と述べ（パラ592）、仮定の議論として、判決によりコートジボワールの大陸棚と確定した部分についてガーナが石油開発活動をしていたとしてもガーナの違法行為は成立しない、と述べています（パラ594）。

ICJ、環境損害につき賠償額算定判決

コスタリカ・ニカラグア間の紛争には陸地・海洋境界画定紛争もあり、そちらも同日に判決が出ていますが、それとは別の事件です。判決はこちら（正文はフランス語）。

環境損害に関する賠償額算定のICJ判決としては史上初です（パラ41）。「違法行為の結果を全て消去する」賠償額というおなじみの表現を確認し（パラ29）、違法行為と損害との「直接かつ確実な因果関係 (un lien de causalité direct et certain)」を明らかにし、その範囲で賠償する（パラ72）、という手法を採ります。その因果関係を証明するためにどの程度の証拠を提出すればいいのか、という観点から参考になります。

東シナ海で沈没した船舶から流出したとみられる油が奄美に到達

このサイトでは公的機関が発表した情報に基づいて記事を作成していますが、本件については今のところ日本政府からの情報発信はほとんどありません。海洋政策研究所が公的機関発表情報をまとめたページを作っており便利ですので参照してください。

報道を見ると、史上最悪クラスの大惨事という表現が外国メディアに多い一方、どういうわけか日本ではあまり報道されていません。日本であまり報道されていないことを不思議がる外国メディアもあります。日本の協力申し出を中国が当初断ったとの報道もありますが、公的情報からは何も確認できません。

ガイアナ・ベネズエラ間の紛争を「国連事務総長がICJに付託」？

ガイアナ大統領府サイトの表現によれば、the decision of the Secretary General... to refer the controversy... to the International Court of Justiceということです。また、著名なメディアでも、[the Secretary General] is sending the case to the International Court of Justiceと書かれています。そのせいか、事務総長が勧告的意見を要請することにしたとガイアナ外務大臣が述べたというメディアもあります。

国連憲章96条によれば事務総長に勧告的意見要請資格はもちろんありませんが、立法論として事務総長に要請資格を与えるべしとの議論はずいぶん以前からあるところで、上記の報道を見ると事務総長が問題提起のために敢えて勧告的意見要請に踏み切ったのか、と思ってしまいます。

そこで思考を止めずに、オリジナルの資料を見てみましょう。国連事務局の報道発表をご覧下さい。そこには、the Geneva Agreement of 1966によればどうのこうのと書かれています。これを読んだだけでは何のことか判らないので、そのthe Geneva Agreement of 1966の4条2項をじっくり読んでみてください。どういうことか判るはずです。

実際には、この後、ガイアナがこれを管轄権の根拠にして（国際司法裁判所規程36条1項）提訴することになるのでしょう。

ヨーロッパ人権裁判所、居場所情報に関するドーピング規制は条約違反でないと判断

ドーピングはここのところ日本でも話題になっていますが、法的観点からも実務的にもははるかに重要な判断がヨーロッパ人権裁判所で出ました。

居場所情報うんぬんについては、JADAが作成したADAMSに関するガイダンスビデオを見てください。「ドーピング」「抜き打ち検査」などのキーワードで検索するといろいろ記事も見つかります。

ドーピング規制は私人（法人）たる競技団体やJADAやWADAというアンチドーピング団体が行うので、規制・検査対象となる競技者が不満を持ったとしても、私人間の問題となり、ヨーロッパ人権条約当事国内で問題が生じたとしても通常はヨーロッパ人権裁判所に持ち込まれることはありません。

ところが、フランスでは、「スポーツの競技会の開催等が公役務としての性質を有し、本来は私的な団体であるはずのスポーツ連盟が、公役務の委任を受けて公権力を行使するというフランス法独特の構成」（興津征雄「第2章　フランス」日本スポーツ仲裁機構『諸外国におけるスポーツ紛争及びその解決方法の実情に対する調査研究』5頁）のため、国家を相手に訴えることが可能になり、本件の「原審」も行政裁判所たる国務院で（国務院サイトのArianeWebで事件番号の340122を入力して検索すればすぐヒットします）、したがって国が当事者になるのでヨーロッパ人権裁判所に訴えることが可能になったわけです。

本件(FNASS c. France)判決では、このような検査はヨーロッパ人権条約8条の定める私生活の尊重の侵害を一応は構成するとした上で（パラ159）、同条2項の「健康」や「道徳（良俗）」の保護（パラ165-166）のために必要――ドーピング検査回避技術の発展に鑑みるとやむを得ない（パラ190）――として、8条違反を認めませんでした。

8条2項では「民主的社会において必要」かどうかを判断することになりますが、その過程で「抜き打ち検査の必要性についてヨーロッパにおいておよび国際的に見解の一致があ」り、ヨーロッパ人権条約の解釈に際しては（非拘束的なものを含む）国際法上の規範を考慮に入れることができると述べ（パラ181）、UNESCOアンチドーピング条約に言及している（パラ178）ことが注目されます。ただ、パラ178では同条約によりWADA規程が同条約当事国国内法に統合(intégration)され得ると述べていますが、これはやや不正確で、そこで言及されているパラ54における説明がより正確です。