米、ロシア外交官35名をpersona non grataと宣言

大統領声明を参照して下さい。Persona non grataについては、外交関係に関するウィーン条約の9条に規定があります。

ICSID特別委員会、Tidewater仲裁判断を部分的に取り消し

一時期多かった仲裁判断取消（論文i, i-2）は再び珍しくなっているのですが、その珍しい取消判断が出ました。Tidewater v. Argentinaです。特別委員会によれば、ICSID条約52条1項(d)の理由欠如が取消の根拠で、賠償額算定にあたって原仲裁判断は言っていることとやっていることとが矛盾しており、結論に至る理由が理解できないため理由欠如、とのことです（パラ191）。

結論的に、賠償額の一部（理由が述べられていないとされた部分）を取り消して、取り消されない賠償額を確定させています。あたかも仲裁判断を訂正した（あるいは特別委員会が破棄自判した）かのようになっていますが、特別委員会にそのような権限はなく、これはあくまでも仲裁判断の一部取消である、と述べています（パラ218-220）。ここは議論のあり得るところでしょうが、特別委員会も言うとおり（パラ223）、訴訟経済の面から見るともっともな判断ではあります。

この判断とどこまでリンクしているのか、必ずしも判然としないところもあるのですが、特別委員会が投資仲裁の特徴を強調しているところも注目に値します（パラ164-165）。特に、パラ164で、理由付けが「他の諸国の国家機関や公衆 other States' organs and the public」によっても理解されるべきことはpublic policy（公序――ここでは「公共政策」ないし「公益」と訳すべきか）の問題であると述べていることは、ICSID条約・仲裁規則に基づく仲裁判断の透明性との関連でも要検討です。

イスラエル、安保理決議2334 (2016)に従わないと声明

イスラエル政府の声明は外務省サイトにあります。安保理決議2334(2016)はこちら。

この安保理決議は国連憲章7章下の決議ではなく、前文に引用されている過去の決議にも7章下のものはありません。"Decide"という語も用いられていませんので、この決議が国連憲章25条に基づく拘束力を持つことはないと思われますが（異論はあり得るところです）、引用されている過去の決議同様、安保理による明確な法的判断が含まれているのは確かです。特にパラ1および2を読んでみてください。

ウクライナ／ロシア仲裁、仲裁廷構成

2016年9月14日の記事の続報です。ウクライナ外務省の12月23日付プレスリリースおよび12月27日のロシア外務省報道官会見で、仲裁廷が構成されたことが発表されています。仲裁人の選任にロシアは参加しているとのことで、不出廷であったArctic Sunrise号事件（ITLOS・仲裁）やいくつかの投資条約仲裁手続とは違う態度をとっています。

EU・シンガポールFTAに関するAvocat Général意見

2014年10月30日付の記事で述べた手続において、ようやくAvocat Généralの意見が出ました。投資章（第9章）については、パラ270以下で検討されています。争点の中心である権限配分については、外国直接投資(foreign direct investment)については、EU運営条約207条に明示されているのでEUの排他的権限であるのは当然として（パラ343）、問題のポートフォリオ投資については共有権限であると述べています（パラ346以下）。もう一つの興味深い論点である、構成国が締結している投資条約のEUによる「承継」（したがってEUによる破棄）については、さすがに否定的に回答しています（パラ371以下）。さて、裁判所はどのような意見を示すことになるでしょうか。

米、展覧会出品美術品に関して主権免除を認める法改正

A国における展覧会のためにB国が美術品を貸し出した際に、当該美術品の真の持ち主であることを主張する者がA国国内裁判所においてB国を相手に訴訟を提起する例が珍しくなくなっていますが、アメリカ合衆国議会はそのような場合に一定の条件の下で訴訟を阻止する立法を行いました(Public Law No. 114-319)。新規立法の文言に明示されているように、一定の条件の下で「商業的行為でない」とするものです。

国連人権高等弁務官、アレッポ爆撃は「おそらく戦争犯罪」

人権高等弁務官の声明は、以下のように述べています。

While the reasons for the breakdown in the ceasefire are disputed, the resumption of extremely heavy bombardment by the Syrian Government forces and their allies on an area packed with civilians is almost certainly a violation of international law and most likely constitutes war crimes.

国際刑事裁判所規程8条2項を見てみてください。もっとも、シリアは同規程の当事国ではありません。

アムステルダム地方裁判所、クリミアの美術館所蔵美術品はウクライナに帰属と判断

アムステルダムの美術館がクリミアの美術館から美術品を借り受けて「クリミア秘宝展」を開催していたところ、その最中にクリミアのロシアによる「併合」（参照、2014年3月18日の記事）が生じてしまったため、アムステルダムの美術館はこの美術品をクリミア（事実上ロシア）に返却すべきかウクライナに返却すべきか迷っていたところ、クリミアの美術館から返却を求める訴訟を起こされた、という事案です。

現時点ではオランダ語原文しか公表されていないようですが、ざっと見た限りではクリミアの地位に関する詳細な検討がなされているわけではなさそうです。もっとも、控訴されるとのことですので、上級審の判断を待たねばなりません。

（上記判決オランダ語文へのリンクが機能していないようですが、いずれこの記事のページの末尾のリンクが修正されるものと思います。）

2016.12.13
-14.

2016 Kyoto-Seoul Joint Student Seminar in International Law

ソウル大学とは第3回目になる合同セミナーを開催しました。

エクアドル・米投資条約に基づく国家間仲裁判断公開

2012年9月29日の判断ですが、ようやく公開（リーク？ PCAサイトには関連文書はアップされていますが、仲裁判断は現時点では掲載されていません）されました。国家間仲裁は通常すぐに公開されますが、本件仲裁は1993年のエクアドル・米投資条約7条に基づくものであり、同条によれば仲裁手続はUNCITRAL仲裁規則によるものとされていて、1976年UNCITRAL仲裁規則32条5項は

The award may be made public only with the consent of both parties.

と定めているためになかなか公表されなかったものと思われます。

Chevron & Texaco v. Ecuador, Partial Award on the Merits, 30 March 2010（評釈は山本晋平「判批」JCAジャーナル59巻5号〔2012年〕16頁）において、エクアドル・米投資条約2条7項の

Each Party shall provide effective means of asserting claims and enforcing rights with respect to investment, investment agreements, and investment authorizations.

という規定が、通常のdenial of justiceよりも高い基準の投資家保護を定めていると判示されたことについて、そのような解釈は不適切だとエクアドルが主張したものです。

もっとも、米は本件において「紛争」が存在しないため仲裁廷は管轄権を有さないと主張し、仲裁廷も管轄権なしと判断しました。この判断内容は、投資法の問題というよりは国際法における裁判的機関（仲裁廷を含む）の権限に関わる問題であり、より広い視点からの検討が必要になります。

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余談に属しますが、UNCITRAL投資条約仲裁透明性規則・透明性条約の作成過程において、米は、投資条約において「UNCITRAL仲裁規則」に基づいて仲裁がなされると定められている場合、それは投資条約署名時のUNCITRAL仲裁規則（例えば、1993年署名のエクアドル・米投資条約については1976年UNCITRAL仲裁規則）を意味するとは限らず、仲裁申立時において最新のUNCITRAL仲裁規則（例えば、2012年仲裁申立の仲裁手続については2010年UNCITAL仲裁規則）を意味することもあり得ると主張していました（その他al, その他as）。本件では特に議論なく1976年のUNCITRAL仲裁規則が適用されているところは注目されます。もっとも、現時点で公開されていない手続命令において議論されているかもしれません。

Urbaser仲裁判断、企業が国際法上の人権侵害避止義務を負うことを認める

仲裁判断の日付は2016年12月ですが、2017年1月になってようやく公表されました。

適用される投資条約（アルゼンチン・スペインBIT）の紛争処理条項（10条1項）がたまたま非常に「緩い」定め方をしていたからですが、投資受入国による投資家に対する反訴が認められました（パラ1155）。

そして、「水への権利」を投資家（＝本件仲裁申立人）が侵害したとの投資受入国の主張に関して、仲裁廷は、企業が人権侵害をしない国際法上の義務("an obligation [...] not to engage in activity aimed at destroying [certain human] rights")を負うことを認めました（パラ1199。直前の部分を見れば、これが「国際法上の」義務であることが判ります）。ただし、仲裁廷によれば、企業が負うのは、積極的義務としての人権保障義務ではなく、消極的義務としての人権侵害をしない義務です（パラ1210）。そして、本件では違反は認められませんでした。

傍論といえば傍論ですが、私の知る限り、人権侵害避止義務を企業が国際法上負うことを認めた国際裁判・仲裁としては初のものです。

なお、水への権利と投資仲裁との関係については、平野実晴と共著の論文が掲載された論文集が間もなく公刊されます。

国際刑事裁判所、初の元少年兵事件の口頭審理開始

Ongwen事件です。被告人は加害者であると共に被害者であるとも言え、難しい問題が議論されることになります。

国連事務総長、ハイチにおけるコレラ蔓延に関して「謝罪」

ハイチに派遣された国連平和維持活動部隊(MINUSTAH)がコレラを持ち込み、その後の伝染への対応にも失敗して国連に対する批判が大いに強まっている問題に関する「謝罪」です。もっとも、AFPが伝えるとおり、今回事務総長が認めたのは「道義的責任」であって、法的責任ではありません。

ベルギー・オランダ領土交換条約

ベルギーとオランダとの間の領土問題というと、1959年の国際司法裁判所判決を思い出す人も多いでしょうが、今回のはそれとは別の場所です。ベルギー外務省・オランダ外務省それぞれのウェブサイトに説明記事が載っています。

国際法の教科書に必ず載っている領域権原取得態様については、最近の実例が極めて少ないのですが、たまにこういうことがあります。最近の「割譲」の例としては、2006年のフランス・ルクセンブルク条約があります。

内輪ネタ2題

1. 南極観測隊に初の法学者　その目的は…

神戸大学の柴田明穂先生が南極に行かれます。「現場を知ること」によってどのような「学術論文」が誕生するのか、今から楽しみです。

2. 文化講演会「国際法の新しい視座へ――私を導いてくれた恩師」（位田隆一・滋賀大学学長）

位田隆一先生の講演です。Charles Chaumontについての話を聞いた人は少なくないでしょうが、位田先生が田畑茂二郎についてこれほど詳しく話されたのは珍しいのではないかと思います。まもなくストリーミングで聞けるようになるはずです。

ロシア、国際刑事裁判所規程への署名を撤回

ロシア外務省の声明にいろいろ理由が挙げられていますが、法的に興味深いのは「署名を撤回する(withdraw its signature)」の意味と効果です。同声明にも触れられているように、条約法条約との関連で意味があり、具体的には18条が関係します。

過去にも、アメリカ合衆国による国際刑事裁判所規程への署名撤回、エネルギー憲章条約について「署名はしたものの当事国となる意思はない」というロシアの宣言など、類似の例があります。

フランス国務院、公共機関におけるクリスマスの秣桶の飾り付けの条件を明示

この日に出たもう一つの面白い判断がこれです。フランスがそのライシテ（憲法1条）故に、公共空間における宗教的意味を持つ服装を禁止して問題になることがよくあります（参照、2016年8月26日の記事）。ライシテはもともとカトリック教会との対立の文脈で成立したもので、キリスト教との関係でももちろん問題になります。

本件では、公共機関においてクリスマスの秣桶（"crèche de Noël"で検索するといろいろな画像が出てきます）の飾り付けをすることがライシテ法（教会と国家との分離に関する1905年法）28条に反するのではないかということが争われ、国務院は、その飾り付けが文化的・芸術的あるいは祝祭的なものであって、特定の宗派の承認や特定の宗教への選好を示すものでない場合に限り認められると判断しています（パラ5）。

この決定でもヨーロッパ人権条約への言及はありませんが、論告担当官(rapporteur public)の意見の中では議論されていると思われ、どのように議論されているか見てみる必要があるでしょう。

フランス破毀院、外見のみを理由とする尋問・誰何は違法と判断

大騒ぎの一日でしたが、法律家は粛々と仕事をしていました。面白い判決が二つフランスで出ています。その一つがこれです。

肌の色など外見のみを理由として警察により尋問・誰何の対象とされたことを理由に、司法機関の不正な働き(fonctionnement défectueux)の場合の損害賠償を定める司法組織法典(Code de l'organisation judiciaire) L.141-1条（フランスの「法典 (code)」はこちらで検索できます）に基づく損害賠償が求められた事件において、破毀院は、肌の色など外見のみを理由として尋問・誰何の対象とするとL.141-1条による損害賠償が必要とされ、尋問・誰何が外見のみを理由としたものでないことの証明責任は国側にある、と判示し、控訴院に差し戻しました。事実関係が少しずつ異なる判決番号1239、1244、1245の三つの事件で同内容の判断が示されています。

破毀院は、上告人の主張としてヨーロッパ人権条約13条・14条に言及していますが、自らの判断の中では言及していません。もっとも、いずれどこかの雑誌に公表されるであろう論告担当官(avocat général)の意見では詳細に言及されているものと思われます。

国際海洋法裁判所、Norstar事件先決的抗弁判決

管轄権ありとの結論です。船舶に対する沿岸国の措置が海洋法条約違反を構成すると主張される場合、船舶の国籍国の権利が直接侵害される点において外交的保護とは異なること（パラ229-232, 264-273）など、基本的にこれまでの判例を踏襲したものになっています。不可欠当事者に関する議論がなされているところが興味を引きますが、裁判所のあっさりした判断（パラ171-174）は説得的であるものの、本案段階で事実関係が詳細に論じられるまではその判断の是非を議論するのは難しいかもしれません。

英高等法院、Brexitの通告前に議会承認必要との判決

Brexitは英国内法を変更することになり、国内法の変更は議会によってのみなし得る、というかなり単純な理由付けです（パラ86-88）。イギリス法の専門家ではないので確かなことは言えませんが、極めて説得的であり、最高裁で覆るかどうか、見ものです。

議会承認が必要かどうかは大きな政治問題になっており、そういう点でも要注目です。

ブリジストンの米子会社、パナマを相手に投資条約仲裁を提起

ICSID Case No. ARB/16/34です。現時点では詳しいことはわからず、公開情報としてはこの程度しかありませんが、仲裁申立の基礎になっている米・パナマFTAには仲裁手続の透明性に関する規則（10.21条）がありますので、いずれ関連文書が公表されるはずです。本来であればすでに仲裁の意図通知と仲裁申立書とは公表されているべきなのですが、被申立国がパナマであるためか、少しゆっくりしているようです。

日本企業の系列の会社が申し立てた投資条約仲裁としてはSaluka v. Czech Republicが知られていますが、おそらくはそれ以来の申立となります。日本企業が申し立てた事案としては、JGC v. Kingdom of Spain (ICSID Case No. ARB/15/27) とEurus v. Kingdom of Spain (ICSID Case No. ARB/16/4) とがあります。

EU理事会、CETA暫定適用に関する決定採択

10月21日の記事への追記（10月29日）に記したように、ワロン（厳密に言えば、ワロン議会とブリュッセル議会とフランス語圏議会の3つですが、なぜこれらが別々の議会になっているのか、通常の理解力を持った人がわかるように説明できる人はまずいないでしょう）がCETAの暫定適用に賛成しましたので、それを受けて、EU理事会がCETA暫定適用に関する決定を採択しました。

現時点で理事会サイトに掲載されている決定文は日付が10月5日になっています。つまり、10月5日の段階で既に固まっていた案がそのまま採択されたわけですが、そのまま採択して済むのであったならばこの間の騒ぎは何だったのか、今ひとつ理解に苦しむところです。

政治的なごたごたはともかく、法的観点から見ると、この理事会決定にはEU構成国が考えるところのEU権限の範囲が明確に示されているという点で大変注目されます。EU委員会の元々の立場は、CETAはEU単独条約として締結されるべし、というものでした。政治的な妥協として混合条約にすることにしたのですが、それでもCETAの全規定はEUの権限内であるというのがEU委員会の立場でした（7月5日の記事）。ところが、EU理事会はCETAのうち一定の規定はEU権限外であると判断し、一部の規定は暫定適用から除外されることになりました（9月23日の記事）。そして、今回の理事会決定に、どの規定がEUの権限外であるかについての理事会の考えが示されたわけです。

最も注目すべきは決定1条1項(a)です。CETA投資章（第8章）のかなりの規定が暫定適用の対象にならない（＝理事会によれば、EUの権限外である）ことにされていますが、どういう規定が排除されているか、じっくり確かめてみてください。

CETAの署名式は30日（日）だそうです。日曜日というのが象徴的です。

グリーンランド、「独立」大臣ポストを設置

グリーンランドがデンマーク領でありながら大幅な自治権を享有しており、デンマークはEU構成国だがデンマークグリーンランドはそうでない（1985年にグリーンランドのみ脱退）ということはご存じかもしれません。

自治では足りず、独立すべきとの動きがグリーンランド内であることはよく知られていますが、ついに「独立」を扱う大臣ポストができたと報じられています。現時点でグリーンランド自治政府の英語版には旧内閣のメンバーがまだ載っていますが、グリーンランド語版とデンマーク語版のページには新内閣が載っています。その一番下の"Namminersornermut, Pinngortitamut Avatangiisinullu kiisalu Nunaateqarnermut Naalakkersuisoq"（グリーンランド語）, "Naalakkersuisoq for Selvstændighed, Miljø og Natur samt Landbrug"（デンマーク語）がそのポストです。グリーンランド語はよく判りませんが、デンマーク語のSelvstændighedは、自治という意味もあるようですが、たしかに独立という意味もあるようです。

南アフリカ、国際刑事裁判所規程からの脱退通告

10月12日の記事の続きです。UN Treatiesのウェブサイトで脱退通告について見ることができます。10月27日時点で南アフリカ・ブルンジが脱退通告をしています。国内的には南アフリカの方が後に脱退決定をしましたが、脱退通告はブルンジより先になったようです。

10月26日にはガンビアも脱退を決定したと報道されています。ICCの検察官がガンビア出身であるだけに、衝撃を持って受け止められています。

CETA、ワロンの拒否により署名無期延期？ではなくなりました

混合協定の形式をとることにした（参照、2016年9月23日の記事）以上、EU構成国全ての同意なしにEUのみで署名・批准しても意味がないことになったところ、ワロンが反対しており（投資仲裁〔常設裁判所〕制度がその理由だとの報道もあります）、それ故にベルギーが署名できず、署名式に参加すべくブリュッセルに来ていたカナダ代表は諦めて帰国すると報道されています。

カナダと締結できないのなら、EUはいったいどの国とならFTAを締結することができるのか、との疑問が様々な方面から示されています。

【追記(10月29日)】結局、ベルギー内での交渉の末、ワロン議会は賛成の表決をしました。これで、暫定適用に関する限りほぼ確実となりました。

フィリピン・中国共同声明

報道で「南シナ海仲裁判断の棚上げ」と表現されているものです。もっとも、声明の中には仲裁判断（参照、2016年7月12日の記事）への直接の言及はありません。声明の中で注目すべきは以下の箇所でしょう（強調�M本）。

40. [...] Both sides also reaffirm the importance of maintaining and promoting peace and stability, freedom of navigation in and over-flight above the South China Sea, addressing their territorial and jurisdictional disputes by peaceful means, without resorting to the threat or use of force, through friendly consultations and negotiations by sovereign states directly concerned, in accordance with universally recognized principles of international law, including the Charter of the United Nations and the 1982 UNCLOS.

41. [...] Both sides [...] work substantively toward the early conclusion of a Code of Conduct in the South China Sea (COC) based on consensus.

要するに、日米など第三国は口出しをするな、という趣旨と読めます。それに関して、中国外交部報道官の会見では、日本に対してかなり強い口調で言及があり、一読を勧めます。

ブルンジ議会、ICC規程脱退を決定

「ICC規程脱退に関する法律」が採択されました。下院ウェブサイトには既に記事がありますが、上院ウェブサイトはまだのようです。

この法律に基づいて大統領が脱退通告を行うと、ICC規程127条に従って脱退となります。アフリカ諸国のICCへの非協力問題はずいぶん前からありましたが（参照、2015年6月15日の記事）、ついに脱退する国が出ることになります。

ICJ、マーシャル諸島の訴えを全て却下

インド・パキスタン・イギリスに対して、核軍備管理・軍縮への取組不足を理由にそれぞれ訴えを提起していましたが、その全てについて、「紛争」が存在していないことを理由に管轄権が否定されました。インド・パキスタンに対する訴えについては9対7、イギリスに対する訴えは8対8で所長のcasting vote/voix prépondéranteにより判決が下されています。

少数意見の読み比べも面白いのですが、多数意見の理由付けに従うならば、マーシャル諸島が改めて個別に抗議すれば「紛争」の存在が認められやすくなりますので、その気になればマーシャル諸島は再度訴えを提起するかもしれません。それまでにこれら三国がICJ強制管轄権受諾宣言を撤回するか書き直すかするかもしれませんが。

『外交』誌の記事――「島か岩か」ではない

『外交』Vol.39に掲載していただいた南シナ海仲裁に関する私の文章の28頁末尾に、「島か岩か――日本への影響」という見出しが付いています。どういうわけか、当該雑誌編集部により、私に一切の連絡のないままにそのような見出しを付けられてしまいました。私は、従来から、国連海洋法条約121条において、「島」か「岩」かの違いはEEZ・大陸棚の有無とは関係がないということを主張しており（例えば2016年7月12日の記事）、自らの主張を自ら否定するようなことが書かれてしまって驚いています。「編集部注」とでも明記してあれば理解できるのですが。

ということで、「島か岩か」が問題なのではない、ということを改めてここに記しておきます。

追記（10月14日）　編集部には迅速に対応いただき、同誌ウェブサイトに訂正版を掲載していただきました。

シンガポール最高裁判所控訴院、Sanum仲裁判断を取り消す原審を覆す

判決文はこちら。原審には2015年1月20日の記事で触れています。私は原審の理由付けには反対でしたが、結論は適切と考えていました（判例評釈q)。それと異なる判断が示されており、しかも、原審よりも立ち入った議論がなされた上での判断ですので、興味深いところです。

基本的にはマカオ問題に限定された判断ですが、条約当事国（この場合は中国とラオス）との「後の合意」がどのような意味を持つかについては一般的な影響を持ち得るところがあります。傍論として述べられているにとどまりますが（パラ109以下）。

国際刑事裁判所、文化財・宗教的建築物破壊による戦争犯罪に関する初の事例に判決

2016年8月22日の記事に記していた事例です。量刑以外については被疑者が争っていないので、あっという間に判決が出ました。裁判所のプレスリリースのページに概要と判決へのリンクがあります。

判決には、破壊の対象がUNESCOの世界遺産に指定されていることへの言及があります（パラ46）。これが、ICC規程8条2項(e)(iv)の解釈とどのような関係にあるのか、世界遺産であるが故に国際共同体全体に影響がある（！）とされている（パラ80）ことが量刑の総合的判断（パラ108-109）にどのように影響しているのか、要検討です。

条約文翻訳の誤り

報道によれば、TPP協定の和訳に誤りがあって、外務省が訂正を申し入れ、一部の政党が「訂正版なんか受け取れない」と言っているそうです。

教科書の277-278頁Column 4-2にも書いているように、国会で条約承認案が審議される場合、承認の可否の対象になるのは条約正文であり、TPPの場合は英・仏・西文です（TPP 30.8条。もっとも、同条によれば解釈に相違ある場合は英文が優先するのですから、承認の可否対象になるのは英文だけと言って差し支えありません）。教科書に引用している衆議院外務委員会1974（昭49）年5月21日のやりとりを読んでみてください（国会会議録でも検索できます）。

日本語文は、いくらそれが政府の手による翻訳であれ、法的にはほとんど意味がありません（参照、条約法条約33条）。講義の際も、日本語訳はあくまで正文を理解するための手がかりにとどめて、常に正文に基づいて考え、議論するようにと伝えています。

EU理事会、構成国権限を留保した上でCETA署名へ

2016年7月5日付の記事で理事会決定案に触れましたが、報道によれば、委員会の提案に反し、構成国権限を一定程度留保した上でCETAに署名することで理事会内で合意が成立したとのことです。正式な理事会の決定は10月になるようで、採択されれば決定文はここにリンクが貼られます。その後、EU・カナダにより署名され、EU議会が承認すれば（承認されたかどうかも先のページにリンクが貼られます）、条約のうちEU権限内の規定についてのみ、暫定適用が始まることになります。具体的にどの規定が「EU権限内」であるかどうかは上記理事会決定に明記されることになると思われます。

国連総会、難民・移民に関するニューヨーク宣言を採択

国連総会決議です。まだ公式の決議文はアップロードされていませんが、決議案は公表されており、変更なしで採択されたようです。

かなり注目に値する内容が含まれています。特に注目されるのは、宣言が移民(migrants)をも対象にしていることです。たとえば、以下の項目についてはどう対応すべきでしょうか。

• 2.11: "We will protect the human rights and fundamental freedoms of all refugee and migrant children, regardless of their status"
• 2.18: "We commit to combatting xenophobia, racism and discrimination in our societies against refugees and migrants."
• 3.5: "We will consider reviewing our migration policies with a view to examining their possible unintended negative consequences."
• 3.8: "We call upon States that have not done so to consider ratifying, or acceding to, the 1990 Convention on the Protection of the Rights of All Migrant Workers and Members of their Families. We call also on States that have not done so to consider acceding to relevant International Labour Organization conventions, as appropriate."

難民(refugees)と移民との区別がよく判らない人は、こちらをご覧下さい。

ウクライナ、ロシアに対して国連海洋法条約に基づく仲裁申立

7月にフィリピン対中国の仲裁判断が出て話題になっていますが、同じ国連海洋法条約附属書VIIに基づき、ウクライナがロシアを相手に仲裁申立をしました。正式なStatement of Claimsはまだ公表されていないようですが、ウクライナ外務省のサイトの記述を見る限り、管轄権でかなり争われそうです。

9月12日にはマルタ対サン・トメ・プリンシペの仲裁判断が出ており、国連海洋法条約附属書VIIの仲裁はかなり頻繁に用いられるようになってきています。

スポーツ仲裁裁判所、ロシア・パラリンピック委員会の申立を斥ける

ロシア・パラリンピック委員会(RPC)の資格を停止する国際パラリンピック委員会(IPC)の決定が適法かどうかがスポーツ仲裁裁判所(CAS)で争われ、CASは8月30日の仲裁判断(2016/A/4745)によりRPCの申立を斥けました（仲裁判断の結論のみ8月23日に発表）。表面的にはIPCの決定の手続の適切性が争われていますが、実質的にはパラリンピックに参加する競技者の権利の侵害がRPCの主張の中心になっていたと思われます。ところが、CASは、RPCはロシア競技者各個人の基本権を代理する立場にはないので、本件ではロシア競技者の権利は問題とならないと判断しています（パラ79）。

CAS仲裁の法的本拠地はローザンヌ(Règlement d'arbitrage, R28条。リンク先の9頁)なので、取消申立はスイス連邦裁判所（最高裁判所）になすことになります（全当事者がスイス人の場合はまた別ですが、本件はロシア法人(RPC)が当事者の一です）。スイス連邦裁判所の判決はまだ公表されていないようですが（最近の判決リストはこちら）、8月31日にRPCの申立を斥けています（IPCのニュースに出てきます）。

これを受けて、ロシア外務省報道官が、「障害者の権利条約の違反だ」と主張しています。Lex lataの問題としてはかなり無理のある主張ですが、lex ferendaとしては一定の説得力があり、今後も議論が続けられるものと思われます。

仏国務院、anti-burkini条例を違法と判断

国務院決定（「判決」と訳されることが通例のようですが、原文はdécisionです。「判決」でも間違いではありませんが）は、国務院サイトのAriane Web（判例データベース）でDécisions du Conseil d'Etatにチェックを入れて日付を26/08/2016に指定して検索すれば出てきます。

ヨーロッパ人権裁判所のSAS判決（参照、2014年7月1日の記事）を読んだ人なら、anti-burkini条例がおよそ法的に通用しないことは容易に理解できたと思いますが、地方公共団体が国際法など気にせずに条例を定めたり政策決定をしたりするのは普遍的現象かもしれません。この条例がニース行政裁判所（第一審）で合法と判断された（8月22日）のには驚きましたが、さすがに国務院で明確に覆されました。フランスのメディアでもSAS判決にはほとんど言及がありませんが、国務院決定の中にはしっかりと

Vu :

[...]

- la convention européenne de sauvegarde des droits de l'homme et des libertés fondamentales ;

という一節があります。

それにしても、問題になり始めてからあっという間に最高裁（国務院は行政最高裁判所でもあります）の判断が出るというのは、優れた制度です。国務院サイトのréféré libertéの解説を読んでみてください。

国際刑事裁判所、文化財・宗教的建築物破壊による戦争犯罪に関する初の事例の公判開始

被告人はAl Mahdiです。ICCのプレスリリースに示されているように、文化財破壊による戦争犯罪（ICC規程8条2項(e)(iv)）として初の事例になります。すでに有罪を認める旨の合意ができており、審理は早く進むものと思われます。

ウクライナ、ウクライナ投資家対ロシアの仲裁に意見書提出

ウクライナの投資家が、クリミアにおいてロシアにより投資財産に害を加えられたと主張して、ロシア・ウクライナ投資条約に基づいて申し立てる仲裁が相次いでいます。PCAウェブサイトで、ロシアを被申立人とする仲裁手続を確認してみて下さい。

クリミアが同条約における意味でのロシアの"territory"なのかが必然的に争われることになり、クリミアのロシアへの併合の有効性（参照、国連総会決議68/262）との関連で議論を生むことになります。このような仲裁のうち一件について、ウクライナが非紛争当事者として書面を提出することが認められました。もっとも、当該書面は現時点では公開されていません。

なお、このような仲裁手続は考えようによってはロシアに有利に作用し得るわけですが、なぜかロシアは手続に参加することを拒否しています。一連の事件につき、PCAサイトのプレスリリースを確認してみて下さい。

参照：2014年3月17日、18日、19日の記事。

東ティモール・オーストラリア調停

7月29日付でプレスリリースがでているのでこの日付にしますが、調停申し立てがされたのは2016年4月11日です。

国連海洋法条約附属書Vに基づく初の調停です。なぜ仲裁ではなく調停なのかは東ティモール政府ウェブサイトで説明されています。

ちなみに、駐東ティモールオーストラリア大使館ウェブサイトには、以下の記述があります。

The Australian Government is disappointed that Timor-Leste has decided to initiate another legal action. In our view, it is better to talk with your friends than go to court.

なかなか味わい深い文章です。

なお、8月29日に口頭弁論があり、ライブ中継されるとのことです。

台湾総統、台湾は独立国家であると明言？

台湾が台湾（中華民国）は中華人民共和国とは別個の独立国家であるとの主張をはっきりとは行っていないことはよく知られているところですが、2016年7月21日付のワシントン・ポスト紙に掲載された蔡英文総統のインタビュー記事および7月22日付で総統府ウェブサイトに掲載されたより詳しい記事によれば、かなりはっきりその主張をしているようです。以下、関連箇所を抜粋します（強調�M本）。

ワシントン・ポスト紙

Q: Is it fair that Washington has considered Taiwan an entity, not a country, since 1979, when the United States changed sides and recognized the People’s Republic of China (with its capital in Beijing) — in lieu of the Republic of China in Taiwan (with its capital in Taipei) — as China?

A: I am not clear what the U.S. means when they use the term “entity.” For us here in Taiwan, we believe that we are a country, a democratic country.

Q: So isn’t it unfair that Taiwan is not recognized in the world?

A: It is indeed unfair.

総統府ウェブサイト

「國家」という語が明示的に用いられているのがわかるでしょう。

ちなみに、台湾行政院ウェブサイトの「土地」を見ると、中国本土は含まれていないことになっています。

スポーツ仲裁裁判所、国際陸連の決定の有効性を確認

7月22日現在はプレスリリースしか発表されておらず、仲裁判断文は"as soon as possible"に公表されるとのことです（スポーツ紛争処理機関規程R59条3段）。焦点は国際陸連が新たに導入した規則22.1Aで、国際陸連が示す同規定のガイドラインを見るとこの条件を充たすのはほぼ不可能とさえ思えます。それがオリンピック直前の6月に採択され、遡及的に適用されることについては、仲裁パネルも懸念を示していますが、その故に規則22.1A（およびその前提としての規則22.1(a)）を適用する決定を無効とはしていません。

申立人（ロシア陸連・ロシアの陸上競技者67名）はスイス連邦裁判所に仲裁判断取消の申立をするかもしれません（仲裁地はローザンヌ。規程R28条）。国際陸連はもちろん国家機関ではないので私人間の紛争ですが、人権の観点からの議論が何らかの形でなされることになるかもしれません。

フィリピン・中国仲裁　本案判断

2015年10月29日に管轄権・受理可能性判断が出ていたものの本案判断です。7月13日時点でPCAのサイトがいまだにうまく機能しないようですが、そのうち見られるようになるでしょう。

内容については既に広く報道されていますので、ここではあまり指摘されていない点を3つ挙げます。

1. 中国による仲裁判断無視の正当化理由

中国外交部（外務省）報道官によれば、以下の通りです。

I want to stress again that the arbitration unilaterally filed by the Aquino III government, which violated international law, is a political farce under the cloak of law. What the arbitral tribunal did and ruled severely deviated from the common practice of international arbitration. The ruling is null and void with no binding force.

ただ、残念ながら、なぜ仲裁がviolated international lawであって仲裁判断がnull and voidなのか、理由が付されていません。7月13日に発表されたPosition Paperによれば（強調�M本）、

120. In short, the Philippines' unilateral initiation of arbitration contravenes international law including the UNCLOS dispute settlement mechanism. The Arbitral Tribunal in the South China Sea arbitration established at the Philippines' unilateral request has, ab initio, no jurisdiction, and awards rendered by it are null and void and have no binding force. China's territorial sovereignty and maritime rights and interests in the South China Sea shall under no circumstances be affected by those awards. China does not accept or recognize those awards. China opposes and will never accept any claim or action based on those awards.

ここでも、フィリピンの仲裁申立が国連海洋法条約のどの条文に違反するのか、説明がありません。とにかくフィリピンの申立はbad faithだからだ（Position paperを読んでみてください）ということのようですが、それ以上の説明はありません。

今回の仲裁は国連海洋法条約に基づくものですが、その296条1項は以下のように定めています。

Any decision rendered by a court or tribunal having jurisdiction under this section shall be final and shall be complied with by all the parties to the dispute.

中国は仲裁廷の管轄権を否定していますが、管轄権については288条4項が次のように定めています。

In the event of a dispute as to whether a court or tribunal has jurisdiction, the matter shall be settled by decision of that court or tribunal.

中国の主張の最大の難点はここで、288条4項をどう理解するのか、中国は一切説明していません。なお、国際法第二部で学ぶことですが、これは国際裁判においてはごく標準的な規定です（例、国際司法裁判所規程36条6項）。

ただ、「アメリカやロシアだって国際裁判判決を無視している。中国だけではない。（だから中国も無視していいのだ？）」という見解もあるようです。アメリカが国際司法裁判所ニカラグア事件判決（1986年）に従うのを拒否したのは有名な話で、その際、アメリカは以下のように正当化を試みています（強調�M本）。

[Mr. Okun, United States:] As we have often stated before, it is not enough to claim that, just because Article 36, paragraph 6, of the Court's statute says that it may decide disputes concerning jurisdiction, the Court indeed did have jurisdiction in this particular dispute. No court, including the International Court of Justice, has the legal power to assert jurisdiction where there is no basis for that jurisdiction. The absence of any foundation in either law or fact for the Court's assertion of jurisdiction in this case is clear. Look at the language and the negotiating history of the Charter of the United Nations. Look at the language and the negotiating history of the Statute of the International Court of Justice. Look at the consistent interpretation of these instruments by the Court, by the Security Council and by Member States. The resolution before us today is based on a fundamentally flawed interpretation of the significance and validity of the decision of the International Court of Justice.

この発言は国連総会でなされており(U.N. Doc. A/41/PV.53)、この時、アメリカに対して判決に従うことを求める総会決議(U.N. Doc. A/RES/41/31、1986年11月3日)が採択されています。要旨は以下の通り。

The General Assembly,

[…]

Considering that Article 36, paragraph 6, of the Statute of the Court provides that "in the event of a dispute as to whether the Court has jurisdiction, the matter shall be settled by the decision of the Court",

[…]

1. Urgently calls for full and immediate compliance with the Judgment of the International Court of Justice of 27 June 1986 in the case of "Military and Paramilitary Activities in and against Nicaragua" in conformity with the relevant provisions of the Charter of the United Nations;

これは多数決採択(94-3-47)で、ちなみに中国は賛成、日本は棄権しています（表決記録は、UNBISNETのVoting Recordsで決議の文書記号で検索すれば出てきます）。このとき、ICJ規程36条6項に明示的に言及した総会決議に中国は賛成しているわけですが、今回の態度との整合性をどう説明するのか、見どころです。

ちなみに、今回の仲裁判断を守るべしと中国に迫っている米の立場の整合性については、7月12日の国務省報道官記者会見で面白いやりとりがありました。

QUESTION: If China fails to abide by the ruling, then it will be in breach of international law?

MR KIRBY: Yes.

QUESTION: A follow-up. In a statement you said you ask for all parties to respect the rule of law and you support arbitration. Can you give me any example that the United States has ever complied with any of the rulings on international arbitration, particularly when it’s weighed against your interest?

MR KIRBY: Yeah, actually I think I’ve got one in here somewhere. Hang on a second. I know I’ve got one in here.

QUESTION: Don’t look in Nicaragua. (Laughter.)

MR KIRBY: You’ve been reading ahead, haven’t you? Ah, where is it? Here we go. I knew I’d find it. So we believe an example can be found in the resolution of a contentious and long-disputed maritime boundary between the United States and Canada in the Gulf of Maine.

＊　　　　　＊　　　　　＊

2. 「島か岩か」ではない

「島」であれば排他的経済水域・大陸棚が得られるが、「岩」であれば得られない、したがって、「島か岩か」が問題なのだ、という説明をよく目にします。このように単純化したくなる気持ちはわかりますが、誤りです。

国連海洋法条約121条は、以下のように定めています。

1. An island is a naturally formed area of land, surrounded by water, which is above water at high tide.

2. Except as provided for in paragraph 3, the territorial sea, the contiguous zone, the exclusive economic zone and the continental shelf of an island are determined in accordance with the provisions of this Convention applicable other land territory.

3. Rocks which cannot sustain human habitation or economic life of their own shall have no exclusive economic zone or continental shelf.

つまり、岩であっても、それが「人間の居住や独自の経済的生活を維持できる」ものであれば、排他的経済水域も大陸棚も持つのです。ここは国際法研究者でも誤解している人が少なくないのですが、ちゃんとわかっている人はわかっていて、次のように説明しています。

« [L]a C.M.B. dispose que certains “rochers” ne peuvent prétendre au statut d’“îles”[…]». Laurent Lucchini & Michel Vœlckel, Droit de la mer, Paris, Pedone, t.1, 1990, p. 332.（C.M.B. = Convention de Montego Bay = 国連海洋法条約)

"An island of certain size may be a rock, but may still be able to maintain human habitation or economic life of its own, thus escaping the scope of application of Article 121(3) of the LOS Convention." Alex G. Oude Elferink, “The Islands in the South China Sea”, Ocean Development & International Law, vol. 32, 2001, p. 169, p. 173.

今回の仲裁判断でも、

Within Article 121, rocks are a category of island.（パラ481）

とはっきり述べられています。また、このように理解しないと、今回の仲裁判断の主文は理解できないでしょう。ともあれ、「島か岩か」という議論はさっさとやめるようにしましょう。

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3. 個人の権利の国家による援用？

仲裁廷によれば、伝統的漁業権は国家の権利ではなく、漁民個人の権利です（パラ798）。フィリピン国家との紛争を理由にフィリピン漁民個人の権利を害してはならない（パラ812）というあたりは、投資家に対する対抗措置の議論を思わせ、また、漁民個人の国際法上の権利を国家が主張しているところは、外交的保護関連の議論を思い起こさせます。これはあまり気づかれないところかもしれません。

Philip Morris v. Uruguay仲裁判断

Philip Morrisの全面敗訴となりました（ただし、申立人選任仲裁人の反対意見つき）。細かい手続的な問題でウルグアイの条約違反が問われることはあるかもしれないが、根幹的な部分ではウルグアイが勝つだろう、という大方の予想に沿った結果となりました。発表後すぐにウルグアイ大統領府のウェブサイトに仲裁判断が掲載されたところを見ると、ウルグアイとしても嬉しかったのでしょう。

Philip Morrisがなぜこのように勝ち目のない申立を世界各地で行っているのかは知りませんが、残るWTOでの判断が注目されます（参照、2015年12月17日の記事）。

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ここからは余談ですが……。

仲裁判断のパラ388から、margin of appreciationの話が出てきます。以下、関連部分を引用します。

398. [...] According to the Claimants, the “margin of appreciation” has no application in the present proceeding as being a concept applied by the ECHR for interpreting the specific language of Article 1 of the Protocol to the Convention [...].

399. The Tribunal agrees with the Respondent that the “margin of appreciation” is not limited to the context of the ECHR but “applies equally to claims arising under BITs,” at least in contexts such as public health. [...]

反対意見を書いたBorn仲裁人は、次のように批判しています。

85. The Tribunal largely adopts the Respondent’s conclusions and analysis. The Tribunal applies a “margin of appreciation,” derived from ECtHR decisions [...].

86. I also do not believe that the “margin of appreciation” adopted by the Tribunal is either mandated or permitted by the BIT or applicable international law. The “margin of appreciation” is a specific legal rule, developed and applied in a particular context, that cannot properly be transplanted to the BIT (or to questions of fair and equitable treatment more generally).

勘のいい人は気がついたかもしれませんが、南極海における捕鯨事件で、オーストラリア弁護人を務めていたJames Crawfordは、次のように述べていました (CR 2013/8)。

61. Japan enthusiastically invokes the notion of “margin of appreciation” to broaden the already broad discretion it accords itself under Article VIII [of the ICRW]. [...]

63. [...] [T]he margin of appreciation is not, as Japan suggests, an “axiom of international law and relations”. Its suggestion that this notion is a “sensible safeguard against unwarranted accusations of bad faith” is entirely unfounded.

CrawfordはPhilip Morris v. Uruguayの仲裁人（被申立国選任）であり、多数意見側です。まあ、調査捕鯨は"public health"の問題ではないので関係ない、ということかもしれませんが。

ヨーロッパ委員会、CETAを混合条約として締結すること、および、暫定適用することを提案

委員会のプレスリリースと、通商担当委員の記者会見で発表されています。2016年2月29日や6月25日の記事で触れていた、EU・カナダFTA (CETA)（EUサイト・カナダサイト）について、ヨーロッパ委員会は、混合条約として締結する（＝EUおよびEU構成国全てが当事者となる）そうです。FTAをEUの単独条約とすべきか混合条約とすべきかについてはEU構成国間で見解の相違があり、シンガポールとのFTAについて現在EU裁判所で審理中です（2014年10月30日の記事、EU官報に掲載された委員会による質問事項）。委員会としては、この種の条約はもはやEU単独で締結できるとの立場は維持しつつ、CETAは早く発効させたいので便宜的に混合条約としてもやむを得ない、ということです。

また、EU理事会とヨーロッパ議会とが承認すれば、各構成国の批准を待たずとも、CETAを暫定適用させるとも述べています（参照、条約法条約25条）。これは、EUの排他的権限にかかる部分のみ暫定適用するということでしょう。理論的にはもちろん可能ですが、実際に運用するプロセスでいろいろ問題が出てくるかもしれません。

【追記（7月22日）】

委員会が7月6日に理事会決定案を理事会に送付していたことを教えてもらいました。その決定案によれば、条約全体を暫定適用するということです。たしかに、EU単独で締結できるという法的立場を維持した上での提案ですので、そうするのが一貫していると言えます。

クロアチア・スロヴェニア仲裁部分判断

仲裁合意のオリジナリティ（4条）でも注目を集めているこの仲裁は、手続き中に発覚した、一方当事者代理人と当該当事者選任の仲裁人との「連絡」でも大きな反響を呼びました。にもかかわらず何とか仲裁手続を続けることにするというのが今回の判断の内容ですが、何はともあれ、大変興味深い事実の記述を読むことをお勧めします。

イタリア・オランダ、国連安保理非常任理事国の任期を半分分け

どちらが選ばれるかでかなり揉めた後、結局2年任期を1年ずつに分ける合意が成立したとのことです（イタリア外務省サイト・オランダ外務省サイト）。まずイタリアが非常任理事国となり、1年後に辞めて、改めて選挙をして今度はオランダが残りの任期につき非常任理事国に改めて選ばれる、という方法のようです。

先例のない話ではありません。非常任理事国リストをじっと見て、任期が1年のみであった国を探せばわかります。が、ほぼ50年前の例に限定され、半世紀ぶりに復活ということになります。これについては、あまり嬉しくない思いをしている国もあるのでは……。

ECSC創設6ヵ国外相共同声明　EUとイギリスのfuture relations

ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)（参照、RFCS）を創設した（＝EUの「原構成国」である）6ヵ国の外相共同声明に、

We stand ready to work with the institutions once the negotiations in order to define and clarify the future relations between the EU and the UK will start.

という一節があります。このfuture relationsはこれからの交渉次第ですが、関係の緊密なものから順に並べると、以下のようなものが考えられます（これらが上記共同声明に例示されているわけではありません）。

1. EEAへの参加

現在、アイスランド・リヒテンシュタイン・ノルウェーの三カ国はEUとEuropean Economic Areaを構成しています。EU単一市場に参加できるものの、市場統合に関する部分のほぼ全てについてEUの派生法を丸呑みし、しかもEUでの派生法定立過程にはある程度関与できるものの議決権は一切持たないという、EUへの「従属」を甘受すると言えなくもないかなり不思議な制度であり（詳細については、その他af）、イギリスがここに加わることは考えにくいところです。

2. スイス型――分野別条約締結

EEAに加わるはずだったスイスは国民投票の結果参加しないことになり、EUとの間に分野ごとに条約を多数（欧州委員会によれば約100本）締結することで、緊密な関係を構築しています。ただし、EU側はこのように分野ごとの条約で対応するというやり方はもはやうまく行かなくなったと考えており、全面的に見直して"a common institutional framework"を作るべきだと主張しています（EU理事会2014年12月16日の結論パラ44。スイス外務省の説明文書5頁）。これが実現すればEEAの制度に近づくことになり、EUへの「従属」度合いが増すことになります。イギリスもスイスと同様の方法で個別分野ごとの条約をEUと締結していくことも考えられますが、その場合も何らかのcommon institutional frameworkが求められると思われます。

3. カナダ型（日本型）――自由貿易協定

EUとカナダは自由貿易協定(FTA)交渉を進めて一応の妥結に至っており、今後署名・批准へと進んでいくことになっています。日本もEUと経済連携協定（EPA。FTAと同義）を交渉中です（外務省サイト・EUサイト）。この手法だと、EUの単一市場に参加するのではなく、「EUの単一市場に他の国よりは有利な条件でアクセスできる」というにとどまります。

4. WTO型

EUとイギリスとの間で何も合意できなければ、EUもイギリスも当事者になっているWTO関連協定に基づく関係のみが残ることになります。さすがにこうなることはないでしょう。

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上記の通り、アイスランド・リヒテンシュタイン・ノルウェーのEEA参加国とスイスはEUと特別の関係にあり、したがってイギリスは、これら4ヵ国との現在の関係を維持しようとすれば、別途何らかの条約を締結しなければならなくなります。既に、例えばスイス大統領はその趣旨の声明を発表しています。

Brexit

住民投票（有権者の範囲をみると、「国民」投票とは言いがたいところがあります）の結果はこちら。

EU条約50条に基づく脱退通告をいつなすかが当面の焦点となります。EU側の見解は、"as soon as possible"にということですが、Cameron英首相は次の首相（10月に選ばれる見通し）の下でなすと述べています。

EU法との関連では無数の問題が生じますが、国際法との関連では、たとえばWTOで問題が生じ得ます。

WTO関連協定はいわゆる「混合条約」であり、EUもイギリスも当事者となっています。とはいえ、WTOが扱っている事項のほとんどはEU権限内ですので、脱退に伴いイギリスが扱わなければならなくなる事項は膨大なものに上ります。たとえば関税についてWTOサイトのイギリスのページを見ると、Goods schedules and tariff dataの項目に、"For current situation of goods schedules see the European Communities"や"The United Kingdom's Uruguay Round goods schedules are included in those of the European Communities"とあるとおりで、これをイギリスについて改めて設定する必要があり（「必要はない」という立場もあります）、これを含む種々の作業は、Azevêdo事務局長によれば、「新規加盟に匹敵する」ものになります。EU脱退前にその作業を完了できればいいのですが、できなければ、EU脱退後のイギリスの関税がどうなるのかなど、これまで想定されていなかった問題が生じます（現状の関税がそのまま維持されるだけなので問題は生じない、という立場もあります）。[追記（6月26日）：「必要はない」、「問題は生じない」という立場を主にした方が良かったかと思うに至っていますが、いずれにせよ議論のあり得る問題です。］

スコットランド（参照、2014年9月19日の記事）にも要注目です。既に、スコットランド首相(First Minister)は、

I intend to take all possible steps and explore all options to give effect to how people in Scotland voted – in other words, to secure our continuing place in the EU and in the single market in particular.

と述べています。

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後期の「EU法」（法科大学院・公共政策大学院）、「国際機構法」（法学部）では、Brexitから生じる法的問題も扱います。

ヨーロッパ人権裁判所、Al-Dulimi事件大法廷判決

拘束力ある安保理決定の国内実施措置の人権条約適合性が争われるという、最近頻発している類型の事です。小法廷判決と結論は同じですが、理由付けはやや異なります。大法廷判決の概要は以下の通り。

• 国連憲章103条は今日の国際法体系において根本的重要性を有する（パラ135）。
• 公正な裁判を受ける権利は、極めて重要ではあるが、現時点において強行規範ではない（パラ136）。
• 国連憲章1条・24条2項に鑑み、安保理がその決定により義務を課す場合は、当該決議は人権と矛盾しない内容であるとの推定が働く（パラ139-140）。
• 本件で問題になる安保理決議1483 (2003)・1518 (2003)は、同決議の実施のために採られた国内的措置が人権保障の観点から問題のないものかどうかをスイス裁判所が検討することを妨げるものではない（パラ143）。
• 制裁リストに掲載されることは対象者にとって深刻な結果をもたらす。ヨーロッパ人権条約はヨーロッパ公序の憲法的文書であり、ヨーロッパ公序の基本的要素は法の支配（法治国家）原理である（パラ145）。
• スイスは、（ヨーロッパ人権条約6条と国連憲章103条との）義務の抵触に直面しておらず、したがって国連憲章103条の優越性の問題は生じない（パラ149）。
• スイス連邦裁判所は、本件安保理決議が根拠のあるものであるかどうか、あるいは適切なものであるかどうかを判断することはできない（パラ150）。
• 原告らには、制裁リストへの掲載が恣意に基づくものであることを示すために証拠を提出し、その主張が裁判所により検討されることが認められなければならなかった（パラ151）。
• よって、ヨーロッパ人権条約6条1項の違反が認められる（パラ155）。

この判決文朗読の動画を見ることができます。

中国海軍情報収集艦、日本領海に一時侵入

内閣官房副長官の記者会見や防衛省サイトなどで事実が発表されています。

報道では「国連海洋法条約では軍艦にも無害通航権が認められており、政府は今回の『侵入』が無害通航に該当するかどうか分析を進めている」という趣旨のものが多く見られます（例えばNHK）。ただし、「軍艦にも無害通航権が認められる」との明文規定は国連海洋法条約にはありません。

日本は「軍艦にも無害通航権が認められる」との立場を従来から採っており、そのことは例えば「我が国の領海及び内水で国際法上の無害通航に該当しない航行を行う外国軍艦への対処について」（2015〔平成27〕年5月14日閣議決定）に示されています。

他方、軍艦に無害通航権は認められない、あるいは一定の条件の下でのみ認められる、と主張する国も少なくありません。中国は、1996年6月7日に国連海洋法条約を批准した際、以下の宣言を行っています（宣言全文はこちら。スクロールして"China"をクリックして下さい。2006年という日付が出てきますが、それはその下の別の宣言の日付です）。

4. The People's Republic of China reaffirms that the provisions of the United Nations Convention on the Law of the Sea concerning innocent passage through the territorial sea shall not prejudice the right of a coastal state to request, in accordance with its laws and regulations, a foreign state to obtain advance approval from or give prior notification to the coastal state for the passage of its warships through the territorial sea of the coastal state.

Cambridge University Press / Oxford University Pressのe-journal

既にお気づきかもしれませんが、この2社の刊行しているe-jounalは、昨年度までに利用可能になっていたものを含め、（少なくとも法学関連は）全ての雑誌が利用可能になっており、KULINEで検索できます。活用してください。

学外の方は、こちらをご覧下さい。

Pechstein事件連邦裁判決

2014年2月26日付の記事の続報です。その後、2015年1月15日の控訴審判決でもドイツ裁判所はCAS判断に従わないとされており、スポーツ仲裁の業界に大きなショックを与えていました。

連邦裁判所（最高裁判所）のプレスリリースによれば、連邦裁判決は、控訴審判決を覆し、仲裁合意の有効性を認めています。CASのシステムはとりあえず一息ついたことになりますが、判決文（現時点では公表されていません）の精査が必要です。

アフリカ特別裁判部、Habré元チャド大統領に有罪判決

2015年7月14日の記事でお知らせしていたものです。メディアでは「人道に対する罪」が認定されたといわれていますが、アフリカ特別法廷のプレスリリースではその語は用いられていません。ただ、判決朗読のビデオはあるものの、判決文がまだ出ていないようなので、何とも言えません。Habréは特別裁判部それ自体が違法・無効だと考えているようで、裁判手続き中には一切発現をしなかったそうですが、さて、上訴審に上訴するでしょうか。

国際司法裁判所の引渡か訴追か事件（ベルギー対セネガル）の結果といえる裁判です。国際刑事裁判所との関係でもいろいろ論じるべきことがあるでしょう。

ちなみに、Habréはフランス語読みすればもちろん「アブレ」ですが、日本のメディアはなぜか「ハブレ」と書いています。固有名詞ですので、正確な発音は本人に訊かなければわからないのですが。

台湾、沖ノ鳥島関連で「特定の立場は採らない」と声明

行政院プレスリリースに記されています。参照、2016年4月27日の記事。

安倍首相、日米地位協定の見直しに消極的

参議院決算委員会でそう述べたと報じられています。いずれ会議録が公表されますので、正確にはそちらを参照して下さい。

この問題を考える際には、2009年に日本がジブチと締結した自衛隊の地位取極についても考える必要があります。ジブチにおいて自衛隊が有している特権免除は、日本において米軍が有しているそれと比べて遥かに強力なものです。同取極の4条・5条、および関連するウィーン外交関係条約37条2項を読んだ上で、日米地位協定17条と比較してみて下さい。

ちなみに、このことはジブチとの地位取極が締結された際にも意識されていて、国会でも懸念が表明されていました。

○白眞勲（民主党）　［……］ジブチ協定についてお話を聞きたいんですけれども、日米地位協定との違いということを御指摘いただいたわけですけれども、これは、恐らく政府・与党、野党問わず、日米地位協定についてはよりどんどん、より日本側の地位、日本側のやはり有利なと言ってはなんですけれども、やはり普通の協定にしてほしいというのが我々の意見なんですね。今でもやはり相当な差別的な私は協定になっているんではないのかなというふうに思うわけなんですね。

　そういう中で、このジブチ協定が逆の立場になっているわけでして、そういう面でいうと、今後、アメリカに対して日米地位協定の改定というのを求めていったときに、このジブチ協定との関係で、おまえらダブルスタンダードではないかというふうに言われかねないのではないのかな［……］

（2009（平成21）年6月15日参議院外交防衛委員会会議録8頁。国会会議録検索システムで探して下さい。）

日・オマーン投資条約、日・イラン投資条約、参議院で承認

衆議院ではいずれも4月21日に承認されていました。TPPの投資章（第8章）については「投資仲裁などという危険なものを認めて良いのか！」という議論が国会でさんざんなされている（国会会議録検索システムで日付を今年1月1日以降に設定して、「投資」「仲裁」など適当なキーワードで検索してみて下さい）のに、これら二つの条約はあっさり圧倒的多数で（共産党のみ反対）承認される（議案審議経過情報：オマーンとの条約、イランとの条約）というのは、法学的観点からは理解不能です。

ただし、共産党のみは、TPPであるかどうかを問わず投資条約仲裁一般に反対との態度であり、一貫していると言えます。もっとも、オマーンやイランとの条約が審議された2016年4月20日衆議院外務委員会において、共産党議員の質問内容は結局TPPに関するものになってしまっています。

参照、その他ao-2, その他ao。

ドイツ連邦裁判所、Achmea (Eureko)仲裁判断執行のEU法両立性につき、ECJに先決裁定を請求

連邦裁判所（最高裁判所）による質問内容は、EU構成国間で締結された投資条約に基づく仲裁判断の執行はEU運営条約18条、267条、344条に違反するか、というものです。ついに、この問題がECJで判断されることになります。

ICSID、取消手続に関するBackground Paper改訂版を発表

ICSIDはいろいろな統計資料を充実させていますが、このBackground Paperは単なる資料とは言いがたいところがあります。数年前に取消判断が多数出された際（参照、論文i-2, i）にこのPaperの初版が出されており、事務局から特別委員会に向けた「警告」と読むこともできる内容のものです。仲裁事務局と仲裁廷（特別委員会）との関係という点からの（政治学的？）研究が必要な文書と言えるかもしれません。

Enrica Lexie事件暫定措置命令

国連海洋法条約附属書VIIの仲裁廷による暫定措置です。この事案の処理としては、この暫定措置で十分であり、紛争当事国間で和解が成立して取り下げということになるのかもしれません。

より一般的には、「判例法」への明示的な言及（パラ85）や、明示されていないながら制度に「本質的な・固有の(inherent in)」規則（パラ89）、さらにはまた登場した「人道の考慮(considerations of humanity)」（パラ104, 106）などの検討が必要でしょう。

台湾、沖ノ鳥島は「島」ではないとの主張

総統府ウェブサイトに示されています。この問題については、2015年8月6日の記事を参照してください。

ハーグ地方裁判所、Yukos仲裁判断取消決定

2014年7月18日の記事の仲裁判断が、ハーグ地方裁判所により取り消されました。もっとも、早速控訴されているようですので、確定的なところは控訴裁判決を待つ必要があります。

エネルギー憲章条約の暫定適用を巡る問題で、仲裁廷は暫定適用可、ハーグ地裁は不可との判断を下しました。同条約45条1項の"to the extent that / dans la mesure où"をどのように解釈するかで判断が分かれています。

厳密に言えば、取り消されたのは2009年の中間判断（管轄権・受理可能性）で、それが取り消されたがために自動的に2014年の最終判断も取り消されることになりました。

ちなみに、Yukos関連では英・ロシアBITに基づくRosInvest事件とスペイン・ロシアBITに基づくQuasar de Valores事件とでいずれも一定額の損害賠償を認める仲裁判断が出ていますが、この両者とも、それぞれ仲裁廷に管轄権なしとのことでスウェーデン国内裁判所により取り消されています（RosInvestに関する2013年9月5日Svea高裁判決、Quasar de Valoresに関する2016年1月18日Svea高裁判決）。取消の理由はそれぞれ異なります。

Yukos仲裁判断の執行は様々な国で試みられています（参照、2015年6月20日の記事）。仲裁判断が仲裁地で取り消されても、なお執行を認める国内裁判所もありますので、今後の動きには要注目です。

「表現の自由」国連特別報告者、日本に関する「暫定的見解」

調査を終えた直後の「暫定的見解 (preliminary observations)」が人権高等弁務官事務所サイトに掲載されています。

「信条と表現の自由の伸長及び保護に関する特別報告者 (Special Rapporteur on the promotion and protection of the right to freedom of opinion and expression)」は1993年に設置されたポストですが、現時点における法的根拠は、国連人権理事会決議25/2（2014年3月27日採択）パラ2にあります。

この種の見解が発表されると、「内政干渉だ！」「他にもっとひどい国があるのに日本を批判するのはけしからん！」という意見が毎度毎度噴出するのですが、法学部で国際法を学ぶ学生は、少し落ち着いて考えてみましょう。

1. 「内政干渉だ！」

この見解を支持するかのような規定が、国連憲章2条7項にあります。が、国連人権理事会を設立した国連総会決議60/251の前文に示されているように、"development, peace and security and human rights are interlinked and mutually reinforcing"という理解が浸透しており、人権に関する国連の活動が国連憲章2条7項違反になることは考えがたいところです。

そもそも、日本は人権理事会の設立に賛成していますし、上記の国連人権理事会決議25/2についても、その末尾に [Adopted without a vote.]と注記があるようにコンセンサス採択であって、日本も反対していないことが判ります。また、日本は直近の外務政務官声明（2016年3月2日）でも、

Japan firmly believes in the role carried out by the Human Rights Council and the OHCHR in the protection of human rights, and will continue to cooperate actively with them.

と述べています。

ついでに言えば、人権理事会の普遍的定期審査(UPR)では、日本は審査される側にも審査する側にもなります。とりわけ、"troikas"のメンバーになる場合は、審査対象国における人権状況の調査検討に主導的役割を果たします。簡単に言えば、他国に「ケチを付ける」ための主導的役割を日本が果たすわけです。

2. 「他にもっとひどい国があるのに日本を批判するのはけしからん！」

特別報告者が調査報告対象としてきた国のリストを見ましょう。

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いずれにせよ、今回の特別報告者暫定的見解が妥当な内容のものかどうかを論じるためには、読んでみないことには話になりません。報道されている要約・翻訳ではなく、上記リンク先の原文を読んでみてください。

ジブチ、常設国際司法裁判所(PCA)の構成国に

2016年3月14日の記事と異なり、今回はトリヴィアです。

寄託者たるオランダ政府およびPCAのサイトに記されているように、ジブチがPCAの構成国になりました。別の言い方をすれば、1907年の紛争平和的処理条約に加入した(93条)ということです。さて、1907年の条約への新規の参加が2016年に実現したわけですが、「条約の発効（この条約の場合1910年）からいずれかの国の新規参加（今回は2016年）までの時間的間隔（今回は2016-1910=106）が最も大きい条約」ってどの条約なのでしょうね。マドリー商標条約も古い条約ですが、改正された条約は直近の改正から計算すべきでしょう。

……と思ってちょっと調べてみると、1899年の陸戦法規慣例条約についてウクライナが承継確認声明を2015年に出しているのに気がつきましたが、これはまた別の問題ですね。赤十字国際委員会のサイトではウクライナは2015年に批准又は加入となっていますが、ウクライナの理解とは異なります。

「紛争巡る司法判断 尊重を 南シナ海、中国念頭　Ｇ７外相声明へ」という日経記事

有料会員限定だそうですので全ては引用しません。全文を見たい人は本日付日経の1面と政治面をご覧下さい。

国際法の試験問題にできそうな記事です。以下の記事の緑太字部分は、誤りか、最大限甘く見て極めてミスリーディングです。正確に書くとすればどうすべきか、考えて下さい。

1面の記事では、フィリピンと中国との間で進行中の仲裁手続（参照、2015年10月29日の記事）に言及した後、

フィリピンは2013年に中国の同意を得ないで審理を求め、認められた。今春にも判決が出る見通しだ。

と書いています。政治面の「＜解説＞ 領土問題 国際司法を重視」という記事では、

国連海洋法条約は国家間の領土紛争などの解決手段として、国際司法裁判所（ＩＣＪ）や仲裁裁判所などを利用できるとしている。ＩＣＪに付託するには両当事国の同意が必要だが、仲裁裁判所は一方の当事国のみでも手続きが可能だ。

ＩＣＪに関しても、訴えられれば裁判に応じる義務が生じる「強制管轄権」があり、日本はこれを受諾。韓国や中国、ロシアは受諾していない。

［中略］

沖縄県・尖閣諸島を巡っては、日本は領土問題が存在しないとの立場。強制管轄権を宣言していない中国がＩＣＪに提訴しても日本が応じる義務はない。一方で仲裁裁判所に審理を求めた場合、同裁判所が認める可能性はゼロではない。

と書いています。

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1. 「フィリピンは2013年に中国の同意を得ないで……」

中国は国連海洋法条約当事国ですので、当然ながら同条約279条以下の紛争処理条項にも拘束されます。すなわち、279条以下の手続に中国は既に同意しています。中国の立場表明を見ても、中国が一般的に279条以下の手続に同意を与えていることは否定していません。むしろ、一般的な同意を与えていることを前提に、今回の仲裁申立は中国の同意の範囲外なので仲裁廷は管轄権を持たない、というのがそこに示されている中国の立場です。これに対し、仲裁廷の管轄権・受理可能性判断は、フィリピンによる仲裁申立（のうち少なくとも一部）は、中国が与えた同意の範囲内にある、というものです。ちなみに、国際法第二部を学んだ人にとっては常識に属しますが、仲裁廷の管轄権に争いがある場合、管轄権の有無を決定するのは仲裁廷です（国連海洋法条約288条4項）。

日経の記事にいう「中国の同意を得ないで」というのは、「当該紛争に関する個別の同意を中国から得ないで」という趣旨と善解すべきでしょうが、極めてミスリーディングです。

2. 「ＩＣＪに関しても、訴えられれば裁判に応じる義務が生じる「強制管轄権」があり、日本はこれを受諾」

ICJの強制管轄権という場合、通常、ICJ規程36条2項に基づく宣言を意味します。日本がその宣言をしていて、韓国・中国・ロシアがしていないのはその通りです。

ただ、記事の最後に「仲裁裁判所」への言及が出てくるように、この記事はICJ規程について説明しているのではありません。あくまで、国連海洋法条約の紛争処理条項に関する説明です。とすると、関連するのは同条約287条の手続の選択です。同条に基づいて各国がどのような手続を選択しているかは、正確には国連の条約サイトで確認する必要がありますが、国連海洋法局が見やすくまとめてくれていますので、そちらを見てもいいでしょう。これらを見ると、日経の記事がどのように誤っているか、簡単に理解できるでしょう。

3. 「尖閣諸島を巡って……中国が……仲裁裁判所に審理を求めた場合、同裁判所が認める可能性はゼロではない。」

そもそも、島の帰属（例えば、尖閣諸島は日本の領土か中国の領土か）に関する規則は国連海洋法条約には置かれておらず、したがって島の帰属に関する紛争が同条約の紛争処理手続の対象になるとは考えにくいところです（フィリピンもその立場です。参照、管轄権・受理可能性判断パラ8。ただし、学説上全く異論がないわけではありません）。いずれにせよ、中国は、298条において認められる全ての留保をしており、したがって298条1項(a)に書かれているとおり"any dispute that necessarily involves the concurrent consideration of any unsettled dispute concerning sovereignty or other rights over continental or insular land territory"については仲裁はおろか調停に付す義務さえありません。298条3項と併せ読めば、「ゼロではない」という日経の記事が何を根拠としているのか、不思議に思えるでしょう。

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このように見てくると、この記事を書いた記者が（そしてそれを校閲したはずの人も）一次資料を全然確認していないことがよく判ります。法学部で国際法を学ぶみなさんは、報道されている情報の正確性はこの程度だということを理解し、気になることについては必ず一次資料を確認するようにして下さい。このページで可能な限り一次資料を示すのはそういう趣旨です。

南アフリカ最高裁、Al Bashirスーダン大統領を南ア政府が「逃がした」ことは国際刑事裁判所規程実施法に反すると判断

2015年6月15日の記事の続報です。南ア最高裁(The Minister of Justice and Constitutional Development v The Southern African Litigation Centre (867/15) [2016] ZASCA 17 (15 March 2016))は、規程非当事国国家元首の免除について国際刑事裁判所規程が不明確であること（パラ54-60）、国家元首の免除については慣習国際法も不明確であること（パラ66-84）を詳細な議論の上に明らかにし、それを踏まえて、南ア国内法の問題として、国際刑事裁判所規程実施法s10(9)は免除を否定すると解釈すべきと判示し、南ア政府の行為は同法に反すると判断しました（パラ100-103。パラ62-65も参照）。これにより慣習国際法に違反することになるとしても、南ア国内法上は憲法s232の規定により制定法が慣習国際法に優位するとのことです（パラ103）。

Hard caseに立ち向かう裁判所の態度として、その論法や結論について議論の余地はあるでしょうが、感銘さえ受けます。批判を受けることを頑として拒否するかのように詳細な理由を述べることを避ける日本の最高裁とは雲泥の差があります。

パレスティナ、常設仲裁裁判所(PCA)構成国に

PCAのウェブサイトによれば、3月8日から14日まで開催された理事会会合において、賛成54・棄権25で、パレスティナがなした加入申請によりPCA構成国となったことを確認した(prenant note du fait que / taking note that)、それにより(ainsi / thereby)、パレスティナは2015年12月29日よりPCA構成国となった、とのことです。わざわざ理事会で投票がなされたり、棄権票が出たりするのは、もちろんPCAの設立条約たる1907年紛争平和的処理条約93条に国家("Puissance")のみが同条約当事者となることができると定めてられているからです。参照、2014年10月30日、2015年1月7日、5月13日の記事。

PCAサイトにいう「それにより」とは、理事会による確認によりということではなく、加入申請によりということです。理事会の権限は1907年紛争平和処理条約49条に規定があり、"[Le Conseil administratif décide toutes les questions administratives"ですので、行政的・事務的(administratives)なことしか決めることができません。また、2015年12月29日という日付は、1907年条約95条の定めるとおり加入書提出から60日目であって、この日付に理事会の決定は影響しません。

ただ、そうは言っても、やはり理事会が上記の確認を3月14日にしたからパレスティナは構成国として扱われるようになったのは確かです。寄託者のオランダ政府のウェブサイトは、非常に面白いことを書いています。上の方から見ていくと、パレスティナは加入書提出が2015年10月30日、パレスティナについて条約が発効するのが2015年12月29日ということですが、その記事が掲載されたのは2016年3月14日と明記されています。これに対し、たとえばジブチが2016年2月17日に加入書を提出し、ジブチについて条約が発効するのが2016年4月17日という記事は、2016年3月4日に掲載されています。つまり、オランダ政府は、パレスティナについては、理事会の「確認」を待ったわけです。

さらに読み進めると、いくつかの国が、パレスティナと、さらになんとコソヴォとについても、国家ではないから1907年条約の当事国になることはできない、との主張をしていることが判ります。

さらにその下には、パレスティナとコソヴォとについて、コソヴォが2015年11月6日に加入書を提出し、コソヴォについて条約が発効するのが2016年1月5日、パレスティナが2015年10月30日に加入書を提出し、パレスティナについて条約が発効するのが2015年12月29日、と一旦書いて、いくつかの国の抗議を受けてそれが削除されたことが示されています。

このような経緯を経て、パレスティナは、現在、オランダ政府サイトでもPCAサイトでも1907年条約当事国＝PCA構成国として扱われています。しかし、コソヴォについては理事会の中で議論がまとまらなかったのか、そもそも理事会で議論にさえならなかったのか（報道によれば後者のようにも思えます）、コソヴォは当事国として扱われていません。

「国家」であれば加入申請さえすれば構成員になれると規定されているものの、申請主体が「国家」であるかどうかが争われる場合にそれを判断する機関は定められていない、というところに問題の起源があります。理事会に決定権限がないのであれば（法的には「ない」という結論が穏当でしょう）、理事会が議論するかあるいは議決するかどうかに拘わらず、コソヴォが国家("Puissance")であればすでに1907年条約当事国＝PCA構成国になっていることになります。しかし、コソヴォが"Puissance"であるかどうかについて条約当事国間に見解の対立があり、かつ理事会が判断しない状況の中でPCA事務局が判断するわけにはいかず、寄託者たるオランダ政府も判断に困り、それぞれのウェブサイトでの扱いがこのような状況になっているわけです。とすると、結局のところは理事会が決定権限を持っていることになるのか？　いやいや、仮にコソヴォがPCAを利用しようとしたらそのときには仲裁廷が決定するのであってその際理事会の判断の欠如は参考情報程度にしかならないのか？　いろいろ議論できそうです。

【追記（2017年5月2日）】

改めて読んでみると、1907年条約94条を見落としていたことに気がつきました。そこにいう"entente ultérieure entre les Puissances contractantes"の役割を果たしたのが理事会の「確認」ということになります。その限りで上記記事を訂正しますが、大筋では上の記述に変更の要はないと考えます。

コソヴォはその後当事国とされています。上記オランダ政府ウェブサイトをご覧下さい。

ナミビア、国際刑事裁判所規程から脱退へ？

報道によれば、昨年から公言されている脱退方針に変わりはないそうです。

アフリカ諸国が国際刑事裁判所に対する批判を強めていることはよく知られています（参照、稲角光恵「国際刑事裁判所(ICC)とアフリカ諸国との確執」金沢法学56巻2号（2014年））。既にいくつかの国が脱退方針を明らかにしていますが、実際に脱退手続（規程127条）をとった国はまだないようです（国際刑事裁判所規程当事国一覧）。

女子差別撤廃委員会、日本の国家報告への最終所見発表

現時点では暫定版のみ公表されています。報道で注目されている夫婦別姓立法についてはパラ13(a)、従軍慰安婦についてはパラ29に言及があります。

なお、「女子差別撤廃条約」という公定訳（の略称）に対して「女性差別撤廃条約」と表記すべきとの見解が強いことはご存じかもしれませんが、この問題に関心があれば、濱口桂一郎「『女子』と『婦人』と『女性』」労基旬報1587号（2014年）（筆者のサイトでも読めます）の一読を勧めます。

安保理、北朝鮮制裁決議採択

決議2270 (2016)です。3月3日現在まだリンク先で入手できませんが、間もなく掲載されるはずです掲載されました（3月4日追記）。これまでの対北朝鮮制裁決議の内容についてはこちら。

カナダ・EU、常設投資裁判所の設立へ

2015年2月23日の記事でわずかに触れていますが、カナダとEUとはFTA("CETA")交渉の大筋合意を2014年に発表し、その時点での条約文も公表していました。それはいわゆるlegal scrubbingを経ることを前提にしたものでした。その後、EUは投資仲裁ではなく投資裁判制度を導入することを決定し、投資仲裁を予定していた2014年時点のCETA条約文ではEU議会で否決されるであろう、しかしながら条約の内容変更に関わることをlegal scrubbingのプロセスで行うことは難しいのでは、いやカナダで政権交代があったのでそれも可能ではないか、などいろいろと議論がありました。

結局、legal scrubbingのプロセスで大幅な実質的再交渉がなされたらしく、2月29日に公表されたlegal scrubbing後の条文案（未署名）によれば、CETAにも投資裁判制度が導入されることになりました（8.23条以下）。EUにとってはヴェトナムに続いて2国目となり、先進国との間で投資裁判制度の導入に合意できたことは大きなインパクトを持つことになりそうです。おそらくは、EU・シンガポールFTAについても、こちらの方は署名済ですがそれでもなお投資裁判制度の導入について再交渉がなされていると思われます。もともとはTTIP交渉との関連で出てきた投資裁判制度ですが、米が難色を示していると言われる中、EUは着々と実績を積み上げています。ヴェトナムとのFTAおよびCETAの両方が発効すれば、両者の条約に共通する多数国間投資裁判制度の設立（EU・ヴェトナムFTA 2章3節15条、CETA 8.29条）について具体的な交渉が始まるでしょう。そうすると、「国際投資裁判所」という、これまで夢想と思われていたプロジェクトが現実的課題となることになります。

もっとも、ECJがこの種の裁判所を認めるかどうかという難関が残っています。ヨーロッパ人権条約へのEUの加入に関する意見を踏まえると、また一波乱あっても驚くべきではないでしょう。

EUは、当然ながら日本とのFTA交渉（外務省サイト・EUサイト）においても投資裁判制度の導入を提案しているようです。偶然ながらまさにこの2月29日から会合が開かれているようですが、日本もどこかの段階で難しい決断を迫られます。

ヨーロッパ理事会、EUにおけるイギリスの特殊な地位を認める合意

Brexit阻止のために合意された、と報道されているものです。このリンク先には「首脳会議」と書かれており、必ずしも間違いではないのですが、正確にはヨーロッパ理事会です。講義でいつも言うように、the European Councilとthe Council of the European Unionとthe Council of Europeとはそれぞれ別物ですので、気をつけて下さい。

「合意」は、European Council meeting (18 and 19 February 2016) – Conclusionsという文書です。そのI. 3. (iii)は、

this Decision is legally binding, and may be amended or repealed only by common accord of the Heads of State or Government of the Member States of the European Union;

としています。

その内容については、リンク先文書("Conclusions")の8頁以下のAnnex Iをご覧下さい。なかなか強烈な内容で、EU法の観点から、また国際法的にも条約法の観点から、いろいろ議論を呼ぶことになるでしょう。ともあれ、上記ConclusionsのI. 3. (ii)によれば

the content of the Decision is fully compatible with the Treaties;

ということですので（EU法において"Treaties"と言う場合はEU条約とEU運営条約およびそれらを改正する条約を意味します)、条約改正なくこの「改革」を実施することが出来るという建前になります。他方、次の条約改正時にはこの内容を条約に織り込むとされていますので(Annex I, Section A, 7; Section C, 1)、やはり実質的には条約改正に相当するとも言えます。それを、ヨーロッパ理事会の決定という形で行うというのが面白いところです。

恣意的拘禁作業部会、Assangeの拘禁を恣意的と判断

報道では「国連機関」や「国連の作業部会」と言われていますが、正確には恣意的拘禁作業部会です。同部会のOpinion No. 54/2015（現時点ではWordファイルでのみ入手できるようです）がその意見で、2015年12月4日に採択されており、すでにイギリスとスウェーデンには伝えられていたとのことですが、一般に発表されたのは2016年2月5日です。

なお、上記の国連ニュース記事には、

The Opinions of the Working Group on Arbitrary Detention are legally-binding to the extent that they are based on binding international human rights law, such as the International Covenant on Civil and Political Rights (ICCPR).

という、なかなか大胆な記述があります。

国連独立専門家、TPPに署名しないことを求める

人権高等弁務官事務所に掲載されている文書には日付がありませんが、TPP署名式の前日とされていますので、2016年2月3日でしょう。なお、この専門家はde Zayas氏で、同氏のサイトにも類似の記事が二つ（2016年2月2日、2月4日）あります。

この文書によれば、TPPは自由権規約19条・25条に明確に違反しているのだそうです。リンク先を見てみてください。

2015年6月2日の記事、同年12月17日の記事の延長線上にあるものです。

EU-ヴェトナム FTA条文公表

2015年12月2日付記事の条約です。いわゆるlegal scrubbing前の状態の条文であり、修正あり得べしです。注目の常設投資裁判所構想については、2015年11月12日付記事のTTIP関連でのEU提案とほぼ同じではありますが、多少異なっていることに留意する必要があります。

Al Jazeera、エジプト・カタールBITに基づきエジプトを相手に仲裁申立

2013年にエジプトでムスリム同胞団政権が崩壊した後、新政権がAl Jazeeraに種々の妨害行為を行い、同社のジャーナリストの身柄拘束などをし、最終的にエジプトにおける同社の活動を終了させたことについては、Al Jazeeraがエジプト・カタールBITに基づいて仲裁申立をするべく手続を進めているという報道がすでになされていました（Al Jazeera、代理弁護士事務所）が、ICSIDに仲裁申立が登録されたそうです。ICSIDの2016年事案第一号は、注目のこの事件となりました。