お知らせ・(講義に関連する)ニュース
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2019.10.03. | ![]() |
ある報道によれば、駐日韓国大使館の事務職員が暴行容疑で9月中旬に現行犯逮捕されたが、「不逮捕特権」により釈放されて任意で取り調べ、とのことです。別の報道では、釈放されたのは逃走や証拠隠滅のおそれがないからであって「不逮捕特権」によるものではない、とのことです。 「不逮捕特権」は外交関係に関するウィーン条約の29条によります。それによれば、逮捕されないのは"diplomatic agent"であることがわかります。ではdiplomatic agentとは誰のことかというと、1条(e)に"the head of the mission or a member of the diplomatic staff of the mission"とあります。大使館なのでthe head of the missionは大使ですから、「事務職員」は"a member of the diplomatic staff of the mission"かどうかが問題となります。1条(d)を見ると、"the "members of the diplomatic staff" are the members of the staff of the mission having diplomatic rank"ということですので、「事務職員」はこれに該当しそうにありません。実際、1条(f)には"the "members of the administrative and technical staff" are the members of the staff of the mission employed in the administrative and technical service of the mission"とあるので、「事務職員」はこちらに該当しそうです。 ならば、「事務職員」は29条にいう「不逮捕特権」を享有しないのか。37条2項に答があるので、読んでおいてください。 |
2019.10.02. | ![]() |
年額74億9662万米ドルだそうです(仲裁決定パラ9.1(a))。 補助金協定に関するこの事件(DS316)について協議(DSU4条)が始まったのが2004年、パネル報告(12条)が2010年、上級委員会報告(17条)が2011年です。そこでEUが敗訴し、その履行を巡ってさらに紛争が生じ、履行措置に関するパネル報告(21.5条)が2016年に出て、さらにそれに関する上級委員会報告(17条、21.5条)が2018年に出ています。 最初の上級委員会報告(を採択したDSB決定)の後、EUに対する対抗措置を執ることを認めるよう米が求め(補助金協定4条10項)、これについてEUが仲裁(補助金協定4条11項・DSU22条6項)を申し立て(2011年)、両当事者の合意による仲裁手続きの中断を経て、今回の判断に至りました。 DSUは、25条にも仲裁を定めていますが、今回の仲裁はこれではありません。条文をよく読めば違いがわかるでしょう。また、補助金協定4条10項は「対抗措置(countermeasures)」という語を用いていますが、これが一般国際法上の「対抗措置」と同じかというと、たしかに共通の要素を多く含むものの、同一とは言いがたいところがあります。 |
2019.06.01 |
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2019.05.30. | ![]() |
国連人権理事会パレスティナ占領地特別報告者、カナダ・イスラエルFTAは国際法に違反 同特別報告者のサイトには掲載されていませんが、The Conversation紙への寄稿が同紙サイトに掲載されています。 どの条文が問題なのかは明示されていませんが、おそらく、カナダ・イスラエルFTAの定義規定1.7条に、同FTAにいうterritoryとは、イスラエルについては "the territory where its customs laws are applied" を意味する、と定められているところなのでしょう。 ちなみに、日・イスラエルBITでは、territoryとは、イスラエルにつき、
と定義されています(1条(g))(強調M本)。 |
2019.05.29. | ![]() |
Teinver v. Argentinaにおいて、被申立国は、申立人が第三者出資を受けていることを指摘し、それによって第三者が仲裁手続に関与することになり手続濫用であって、それを容認した原仲裁判断は権限踰越である、として取消しを求めました。 特別委員会は、第三者出資契約には当該第三者が仲裁手続や執行手続に関与する旨の規定はなく、実際にも申立人が自己の主張を行っており、権限踰越は認められない、と判断しています(パラ91-95)。 第三者出資契約の内容や当該第三者の行動次第では取消しもあり得るとも読める点に要注目です。 |
2019.05.25. | ![]() |
例によって(?)ロシアが出廷しない中で下された暫定措置命令です。もっとも、今回の不出廷は、国連海洋法条約298条を理由としている点でArctic Sunriseとは多少異なります。 ロシア海上保安隊(国境警備隊の一部門(命令パラ31-32))がウクライナ軍艦に発砲して、乗組員を負傷させ船体に損害を与え、そして当該軍艦を停止させ拿捕したとしても、事実状況に鑑み、軍事活動ではなく法執行活動であるため298条は関係がない、と判断されています(パラ66-74)。 暫定措置の要件の一つである損害の回復不能性については、軍艦の免除を害する行為は国家の尊厳及び安全保障にも害を与え得ること、そして、乗組員の自由剥奪は人道面から懸念を生むことから、ウクライナの権利に回復不能な侵害をなすことになり得る、と判断しています(パラ110-113)。 * * * 船舶や乗組員の釈放を求める手続としては、292条の迅速釈放制度(研究ノートe)もあります。この事件や、ARA Libertad事件、Arctic Sunrise事件、Enrica Lexie事件、さらには5月22日に提訴(内陸国スイスによる提訴!)されたばかりのSan Padre Pio事件で迅速釈放ではなく暫定措置が申請されているのは、292条1項の「……というこの条約の規定を抑留した国が遵守しなかったと主張されているとき」に該当しないからです。「……というこの条約の規定」は292条1項には明示されていませんが、73条2項、220条6項・7項、226条1項にそういう規定があります。 |
2019.05.22. | ![]() |
決議73/295で、今年2月25日の勧告的意見を「歓迎」し、イギリスに6か月以内の撤退を求める内容です。 116-6-56の多数で採択されています。 |
2019.05.20. | ![]() |
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2019.05.06. | ![]() |
ヨルダンがAl Bashirを逮捕・ICCに移送しなかったことがローマ規程違反とされた事案の上訴審判決です。 この事件の核心的問題である国家元首の免除については、国際裁判所における国家元首の免除が慣習国際法上成立していることを示す実行も法的信念もない、と述べています(パラ113)。 国際司法裁判所の逮捕状事件判決(2002年)では、外務大臣について、「権限ある一定の国際刑事裁判所 (certaines juridictions pénales internationales)」では訴追の対象になると述べられています(同判決パラ61)が、本判決は「国際裁判所における(vis-à-vis an international court) 免除」(強調M本)について語っており、「国際裁判所」が一般化されています。 |
2019.04.30. | ![]() |
仲裁判断全文は非公表とのことですが、要旨が公開されています。 人間を男女に二分することは不可能なのに、競技会では男女に二分することが必要とされている、という矛盾から出発しなければならない難題です。仲裁廷は、競技会における男女の区別は、法的な男女の区別に基づくものではなく、生物学的な競技能力の差異に基づくと述べた上で、XY染色体を有する女性はテストステロン値を一定の値まで下げなければ特定の競技には参加できないと定める国際陸連の規則 (IAAF Eligibility Regulations for the Female Classification [Athletes with Differences of Sex Development]) は差別的ではあるが必要であるとして、その妥当性を認めました。ただし、要旨を見ただけでは、どのような法規範に依拠して判断したのかは明らかでありません。 5月30日にスイス連邦裁判所に取消申立をしたと報道されています。Pechstein事件(参照、2018年10月2日の記事)同様、ヨーロッパ人権裁判所まで行くことになるかもしれません。 |
2019.04.30. | ![]() |
EU裁判所、CETAの投資家対国家紛争処理規定はEU基本条約と両立 EU運営条約218条11項に基づく手続です。意見文はこちら(仏語・英語)。CETAについては、参照、2016年10月28日の記事。 結論的にはEU基本条約(EU条約・EU運営条約)との両立性を認めました。要点は以下の通り。
ヨーロッパ人権裁判所への加入協定に関する意見に至る一連の判例の流れを大きく変える意見といえます。 |
2019.04.12. | ![]() |
Pre-Trial Chamber IIの決定です。パラ87-95が重要部分ですので、読んでみてください。このような決定をICC(の予審部)が下したのは初めてと思われます。 |
2019.04.11. | ![]() |
4月5日の事案とは全く別のもので、日本が韓国を訴えた事案(DS495)です。小委員会の判断については、2018年2月22日の記事を参照して下さい。 上級委員会報告を読む際には、以下のような表現に特に注意して下さい。
要するに、上級委員会は、韓国による輸入制限措置がWTO法上適切であるとも、それら措置を批判する日本の主張が法的に間違っているとも述べていません。まして、科学的観点から見て韓国の主張が正しく日本のそれが間違っている、とも述べていません。さらに言えば、「科学よりも大事なものがある」とも述べていません。単に、「小委員会は判断のやり方を間違えた」と述べているだけです。 なお、WTO紛争処理制度には「差し戻し」という制度はありません。 この問題の理解のためにも、川瀬剛志「韓国・放射性核種輸入制限事件再訪 −WTO上級委員会報告を受けて−」が有益です。 |
2019.04.10. | ![]() |
公海の自由について根本的なところを考えさせられる判決です。外国船籍船の公海における行為を含む一連の行為について沿岸国国内法(脱税に関する刑事罰規定)を適用する(執行がなされたのは内水)ことが公海の自由の侵害になるか、につき、様々な立場が示されています。 |
2019.04.05. | ![]() |
ウクライナがロシアを訴えた事案(DS/512)で、注目されていた判断がついに出ました。小委員会の構成は、Georges Abi-Saab、荒木一郎、Mohammad Saeedです。 自己判断規則の自己判断性を何らかの形で否定ないし極小化する結論が示されるであろうことは大方の予想していたところであり、どのような理由付けが示されるかに注目が集まっていました。信義則に縛られるとの判断(パラ7.132)は通説的見解ですが、その具体的な適用として事案に応じた理由付け・説明の明確性を求めたところ(パラ7.134-7.137)が今後様々な議論の対象になるでしょう。 また、GATT21条の(b)に自己判断的要素があるとしても、その(iii)の"taken in time of" "an emergency in international relations"は客観的に判断される、というところ(パラ7.77)も要注目です。 * * * 【4月8日追記】 日経の記事に、「トランプ米政権にとって、今回の判断が追い風となる可能性はある」と書かれています(有料会員限定なので、もし見られなければ日経テレコン等で検索して下さい)。この記事を書いた人はおそらく理由付けを読まずに結論部分だけ読んで書いたのでしょうが、法学部生としては、結論だけ読んで理由付けを読まない、ということは決してしないようにしましょう。 【4月9日追記】 川瀬剛志「ロシア・貨物通過事件パネル報告書」が理解のために有益です。 |
2019.03.29. | ![]() |
決議1373 (2001)や1540 (2004)が「立法」かどうかということについてはその当時から議論が続いているところですが、決議1373 (2001)を再確認する決議が改めて採択されました(決議2462 (2019)。決議1540 (2004)には言及がありません)。パラグラフごとの動詞を比べてみると("reaffirms", "emphasizes", "highlights", "strongly urges", "decides", "demandes", "calls upon", "underscores", "stresses",...)、なかなか興味深いところがあります。 |
2019.03.25. | ![]() |
その理由として、大統領声明では、ゴラン高原がイスラエルに対する攻撃のために用いられるから、ということを挙げています。そもそも国際法上の合法性を主張するためにこのような声明をしたのかどうかも不明ですが、この理由で国際法上正当化するのは困難で、安保理における米代表の発言(S/PV.8489, p. 9; S/PV.8495, p. 4)にも苦心の跡が見えます。 国連安保理は、決議497(1981)などで、ゴラン高原はイスラエル領ではないとの立場を示しています。 |
2019.03.17. | ![]() |
ローマ規程当事国会議議長の声明はこちら。フィリピンの脱退声明については、2018年3月17日の記事を参照。 ローマ規程当事国会議のページを見ると、アジアに赤色・黄色が多いことが判ります。もっとも、リンク先の地図は、フィリピンの脱退をまだ反映しておらず、また、マレーシアが2019年6月1日に加入する(2019年3月4日加入書提出)とさらに変更が加わることになります。 |
2019.03.15. | ![]() |
ICSIDにおける規則改正作業は昨年来継続中で、今回その途中経過として案の第2版が公表されました。 条約改正はしないとの前提なので細かい事項に限定されます。 |
2019.02.26-27. |
インドは、自国による空爆は"non-military anti-terror pre-emptive strike"であるのに対し、パキスタンによるそれは"act of aggression"であると批判しています。パキスタンは、インドによる空爆は"aggression"であり、自らによるそれは"self-defence"だと主張しています(外務省サイトから、"Spokesperson's Office" → "Latest Press Releases" → "Feb 2019"と進んで、プレスリリースの80/2019と83/2019とを見てください)。 |
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2019.02.25. | ![]() |
ICJ、チャゴス諸島勧告的意見 自決権および慣習法形成についていろいろ議論を呼ぶであろう見解が示されています。 M本はこの事件でボツワナの弁護人を務めました。 |
2019.02.13. | ![]() |
イランが米国をICJに訴えている事件は二つありますが、これは「古い」方の事件です。 判決はイランの主張の一部につき管轄権を認め、一部については否定し、さらに一部については管轄権判断を本案段階に先送りしました。否定した部分では、イラン・米友好条約(国連条約集284巻93頁)4条の公正衡平待遇条項などにつき、それらは商業活動に従事する私人を保護するものであるから主権免除を与えることとは関係がない(したがってその点に関して管轄権はない)、などの指摘がなされています。 |
2019.01.23. |
ベネズエラ国会が暫定政権樹立を宣言しました。すると、米大統領府がTwitterでベネズエラ国会議長をベネズエラ暫定大統領として「公式に承認した」との声明を発表しました。 政府承認がTwitterでなされたのは、国際法史上初めてかもしれません。 |
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2019.01.15. | ![]() |
EU構成国、BIT/ECTに基づくintra-EU ISDS終了宣言 Achmea判決(参照、2018年3月6日の記事)から自明のことですが、BITあるいはエネルギー憲章条約(ECT)に基づくintra-EU投資家対国家処理(ISDS)を終えるために可能なあらゆる措置をとる旨、EU構成国政府代表(英含む)が共同宣言を出しました。 Achmea判決はBITに関するものであったため、ECTはまた異なる扱いになる、との仲裁判断もいくつか示されていますが、これらの国の意図としては、もうintra-EU投資家対国家紛争処理はECTに基づくものも含めてすべて終わりにする、ということです。Achmea判決の論理からすれば当然のことではあります。 ただし、Achmea判決がECTに関するものでないことは確かで、したがってECTについてはEU裁判所の判断がまだ示されていないので留保する、との声明が、フィンランド・ルクセンブルク・マルタ・スロヴェニア・スウェーデン、それにハンガリーから出ています。 |
2019.01.12. | ![]() |
家族による虐待から逃れてきたと主張するサウジアラビア国籍女性がタイで一旦拘束され、結局カナダに入国した件で、メディアでは彼女が「難民として認められ」というように報じられています。 さて、誰がそう認めたのか? 肝心のタイは難民条約・議定書非当事国です(実は、東アジア・東南アジアで難民条約・議定書に入っている国はむしろ少数派です)。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の説明によれば、UNHCRとカナダとがそれぞれ彼女を難民と認めたとのことです。カナダは難民条約・議定書当事国なので不思議でないとして、では、UNHCRが難民と認定するとはどういうことか。 難民条約にはUNHCRへの言及はありますが、UNHCRによる難民認定に関する規定はありません。UNHCR規程にもありません。UNHCRの任務(mandate)の性質上、難民認定権限も当然に含まれているはずだとの前提に立ち(リンク先文書の1-1頁)、UNHCRは自分でその権限を認めており、その権限に基づき認定された難民を「マンデイト難民 (mandate refugee)」と呼びます。もちろん、諸国がそれに法的に拘束されることはありません。 |
2019.01.04. |
1月4日の外務大臣記者会見で、以下のようなやりとりがありました。
このやりとりの前提になっているのは、国連海洋法条約246条です。 この問題について、中国外交部報道官は1月2日の記者会見で以下のように述べています。
これは、国連海洋法条約121条に関する議論です。中国はこの主張を今回初めて行ったわけではなく、南シナ海仲裁(フィリピン対中国)の仲裁判断パラ451-452に過去の主張が引用されています。 |