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神戸大学法学部 2004年度前期

2年ゼミ

講義の記録


 ゼミを終えて 感想と反省


13 Apr. Opening session

 -- Introduction
 -- Self-introduction of participants
 -- Analysis of Austin's The Province of Jurisprudence Determined (1832)
  -- use of terms
  -- questions on definition

 -- Homeworks
  -- read Chapter 3 of Cassese's textbook carefully
    -- see Kokusaiho Gairon's page (particularly, read 「予習課題」)
  -- prepare for questions on Dean Acheson's comments on (the absence of)
    the role of international law in the Cuban Missile Crisis
Further readings
 -- on Austin 八木鉄男『分析法学の研究』(成文堂、1977年)
 -- on sanction 加藤新平『法哲学概論』(有斐閣、1976年)
 -- on definition 碧海純一『新版 法哲学概論 全訂第一版』(弘文堂、1973年)
          ←It is strongly recommended to read this version rather than later ones.
 -- more on definition 中山竜一「法理論における言語論的転回(1)(2・完)」
                法学論叢129巻5号、130巻2号(1991年)
 
20 Apr.  -- Discussion on Acheson's remarks
 -- Self-protection and law

 -- Role of recognition
  -- situation of the law at the beginning of the 20th century
   -- Oppenheim, International Law, 2nd ed., London, Longmans, 1912.
Further readings
 -- on self-protection Thomas Hobbes, Leviathan(水田洋訳『リヴァイアサン』(岩波文庫))
 -- on libertarianism 田中成明「リバタリアニズムの正義論の魅力と限界」法学論叢138巻4〜6号(1996)
              アスキュー・デイヴィッド「リバタリアニズム研究序説(1)(2・完)」
               法学論叢135巻6号(1994年)、137巻2号(1995年)
 -- on the notion of "civilized States"
              藤田久一「東洋諸国への国際法の適用」関西大学法学部百周年
               記念論文集『法と政治の理論と現実 上』(有斐閣、1987年)
 
27 Apr.  -- Sovereignty
 -- Sovereign equality and the power of "veto" retained by the permanent members of the UNSC
 -- Foundations of diplomatic immunities
 -- Concept of jurisdiction
Further readings
 -- on sovereignty 田畑茂二郎「国家主権概念の現代的意義」田畑茂二郎『現代国際法の課題』
             (東信堂、1991年)
 -- on "functional" equality 位田隆一「国際機構における表決制度の展開」太寿堂鼎還暦記念
                  『国際法の新展開』(東信堂、1989年)
 -- on diplomatic immunities 小寺彰「外交官・国際機関の職員の裁判権免除」高桑昭ほか編
                    『国際民事訴訟法(財産法関係)』(青林書院、2002年)
Assignments (pdf)
 
11 May  -- Custom
 -- Theory and reality of the theory of two elements
 -- How do we find "opinio juris"?
 -- What kind of practice constitutes "State practice"?
Further readings
 -- 藤田久一「現代国際法の法源」長尾・田中編『現代法哲学3 実定法の基礎理論』(東大出版会、1983年)
 -- 位田隆一「現代国際法における法規範形成」『京都大学法学部創立百周年記念論文集』第2巻(有斐閣、1999年)
 -- 村瀬信也『国際立法』(東信堂、2002年)
 -- 藤田久一「国際法の法源論の新展開」田畑茂二郎追悼『国際社会の法構造:その歴史と現状』(東信堂、2003年)
 
18 May  -- Law of Treaties
  -- reservations
Further readings
 -- 坂元茂樹「条約法の留保制度に関する一考察」石本古稀『転換期国際法の構造と機能』(国際書院、2000年)
 -- 中野徹也「条約法条約における留保の『有効性』の決定について」関西大学法学論集48巻5・6号、49巻1号(1999年)
 -- 中野徹也「人権諸条約に対する留保」関西大学法学論集50巻3号(2000年)
 -- 安藤仁介「人権関係条約に対する留保の一考察」法学論叢140巻1・2号(1996)
 
25 May  -- Application of International Law in Internal Legal Orders
  -- analysis of the case US v. PLO, 695 F.Supp. 1456 (SDNY, 1988).
Further readings
 -- relevant part of Cassese's textbook.
Assignments for 1st June : the Rainbow Warrior Arbitration
 -- examine the facts
 -- prepare arguments for France and/or for New Zealand
 
1 June  -- State Responsibility
  -- analysis of the Rainbow Warrior Arbitration, 30 April 1990, ILR, vol. 82, pp. 499-590.
Further readings
 -- 長谷川正国「レインボー・ウォリアー号事件再論(1)(2)(3・完)」
   福岡大学法学論叢3巻1/2/3号(1991年)、36巻4号(1992年)、37巻2号(1992年)。
Assignments for 8 June : the Pinochet case
 -- examine the facts
 -- prepare arguments for and against the extradition of Pinochet
 
8 June  -- Immunity of the Head of State
  -- analysis of the Pinochet case, [2000] 1 A.C. 147.
Further readings
 -- case notes distributed in the seminar.
Assignements for 15 June: the Nuclear Tests case (New Zealand v. France)
 -- justify or criticize the locus standi of New Zealand before the International Court of Justice
 
15 June  -- Locus standi
   -- analysis of the Nuclear Tests Case (New Zealand v. France)
    -- New Zealand's application and Oral Argument of Dr. Finlay, Counsel
      for the Government of New Zealand, I.C.J. Pleadings, Nuclear Tests Cases,
      vol. II, pp. 3-9, 252-268.
Further readings
 -- 杉原高嶺「一般利益に基づく国家の出訴権」杉原高嶺『国際裁判の研究』(有斐閣、1985年)
 -- 兼原敦子「国家責任法における『一般利益』概念適用の限界」国際法外交雑誌94巻4号471-520頁(1995年)
Assignements for 22 June: Alvarez-Machain case
 -- justify or criticize the jurisdiction of the US courts
 
22 June  -- Abduction of a suspect from the territory of another State
 -- Attribution of conduct to a State
 -- Is an individual qualified to make a claim on a violation of international law rules in domestic courts?
  -- Alvarez-Machain case, U.S. v. Caro-Quintero, 745 F.Supp. 599 (C.D.Cal. 1990).
Further readings
 -- U.S. v. Alvarez-Machain, 504 U.S. 655 (1992).
 -- 曽我英雄「アルヴァレス=マチャイン事件」立命館国際研究6巻4号(1994年)
 -- 樋口一彦「アイヒマン事件」田畑茂二郎ほか編『判例国際法』(東信堂、2000年)
Assignments for 29 June: NATO's armed intervention in the Kosovo crisis: debates in the Security Council, UN Doc. S/PV. 3988 (1999), 3999 (1999).
 -- justify or criticize the intervention
 
29 June  -- Humanitarian intervention
  -- analysis of the SC debates
Further readings
 -- 最上敏樹『人道的介入』(岩波新書、2001年)
 -- 松井芳郎「現代国際法における人道的干渉」竹本正幸追悼『人権法と人道法の新世紀』
   (東信堂、2001年)
Assignments for 6 and 13 July: Preparation for the final exam
 
6 & 13 July Simulation of the final exam
 
ゼミを終えて

 今回は、初めての試みとして、ゼミでは一切日本語を使わずに英語のみで議論をしてみました。「2年ゼミ」という形式のゼミは今年度を以て終了しますが、英語で行うゼミは何らかの形で継続させる必要がありますので、今後の参考までにいくつか思うところを記しておきます。

目標設定とトラブルへの対応

 講義要綱に、授業の目標を2つ挙げました。ただし、第2の目標はさらに分割できますので、結局のところ、
  1. 国際法を学ぶ
  2. 議論の仕方を学ぶ
  3. 英語を学ぶ
という3つの目標があったと言えます。私が国際法専攻であることから1.の目標を、2年ゼミであることから2.の目標を、そして、英語を使いこなす訓練が必要であることから3.の目標を、それぞれ設定しました。

 もちろん、この3つのいずれにも習熟していない学生を相手にこのような目標を立てることは、かなり危険なことでした。そこで、金曜日に開講する「国際法概論」とリンクさせることにより、金曜日の講義で英語の教科書を用いて日本語で学んだ内容について、翌週火曜日のゼミで英語で議論する、というシステムを考えました。

 ところが、予期せぬハプニングが起こりました。学生に配布された講義要綱には、どういう訳か私が改訂する前の原稿が掲載されてしまい、そこには金曜の講義とのリンクは書かれておらず、授業内容についても全く異なるものが学生に知らされることになりました。しかも、学生諸君は、4月初頭に行われる2年次ガイダンスの場で講義要綱の配布を受け、その場ですぐに2年次ゼミへの登録希望を提出しなければなりません。その結果、ゼミ参加者のほとんど全てが金曜講義とのリンクを知らないままに、また、全く異なる内容のゼミを念頭に、初回ゼミに参加することになってしまいました。

 講義要綱に旧原稿が掲載されていることに気が付いたので、講義内容および金曜講義との関係を初回ゼミで説明しました。ところが、この説明も英語のみで行ったために、ほとんど学生には理解されなかったようです(ということを、1ヵ月半ほどして受講生から指摘されました。それほど学生の実情を私が把握していなかったわけです)。また、国際法概論はとらないと既に決めている学生も当然いました。その結果、国際法概論をとらない学生にはゼミでの議論内容が難しすぎることになってしまいました。

 目標設定自体は適切だったと今でも考えていますが、トラブルにうまく対応できなかったことは認めざるを得ません。

どの程度予復習の指示をすべきか

 法学部では、英語でなされる授業はほとんどありませんし、英語の教科書が使われることさえまずありません(並行して開講した「国際法概論」では英語の教科書を用いました。国際法概論のページを参照してください)。しかし、この時代、大学を卒業していながら仕事で英語が使えないというのは全くお話になりません。

 他方、私は英語教育法においては素人ですし、何よりも、法学部の授業で法学・政治学の勉学を犠牲にして英語を教えることは主客転倒です。したがって、英語力をつけることに関しては学生の自発的な努力に多くを期待することになります。

 英語圏での生活経験がなくても、神戸大学の入試を突破してきた学生であれば、努力さえすれば間違いなく英語で議論することが出来るようになります。実際、英語圏での生活経験のない学生で積極的かつ実質的に議論に参加する者は少なくありませんでした。このことについては、6月8日のゼミに参加してくれたイギリス人弁護士のIan Harrington氏も大いに感心していました。

 しかし、一般論としては、私はどうやら過剰な期待をしてしまったようです。

 7月6日のゼミで、(ここだけは日本語で)ゼミについての意見・感想を求めました。その中で、「課題の量が多すぎた」「英語で議論するのはいつまで経っても難しすぎる」という意見がいくつか出ました。ただ、そういう意見を述べる学生がどの程度準備に時間をかけていたのか、かなり怪しいところがあります。

 大学入試で基礎的な英語力は身に付いているとはいえ、買い物や社交程度ではなく学問的な議論をするために英語を使うとなると、想像を絶する努力が必要になります。せめて、ゼミの予復習を含め、英語のために毎日2・3時間は使ってほしかったし、インターネットなどを利用して暇さえあれば英語を聴くようにしてほしかったフランス語学習についてのページに書いたことは、英語にも応用できます)。また、「英語で議論する方法」というような本やCDは本屋に行けばいやでも目に付く(日興企画創元社など)のですから、それを活用することも出来たはずです。

 「英語のゼミに出る以上、必死で英語を勉強してくるはずだ」と考え、特に勉強法を細かく指示することはせず、講義要綱に鈴木孝夫と斎藤兆史の本を「教科書」として挙げるにとどめました。ところが、私の見通しは甘すぎたようです。毎日2・3時間英語を勉強するどころか、この2冊さえ読んでこない受講生もいたようですから。

 「通常の生活をしていては英語で議論できるようにならないので、このゼミを履修している間は『異常』な生活を送らなければならない。毎日数時間『英語漬け』にならなければ」ということは、中学1年から英語を勉強してきたにもかかわらずなかなか英語で議論できない学生諸君には自明のことだと思っていたのですが、私の思い込みに過ぎなかったようです。

 必死で準備してくればゼミでそれなりの議論が出来るようになることは、何人かの受講生が事実を以て証明してくれました。ただ、それほど自発的でない学生の方が多いことを考え、今後類似のゼミを担当する場合には、予復習や一般的英語学習法について非常に細かい指示を出さなければならないと考えています。

                                  

 ともあれ、これだけ大変なゼミに最後まで食らいついてきた学生が何人かでもいたことには、喜びと感動さえ覚えました。受講生はもう早く終わってしまいたいと思っていたかもしれませんが、私はもうしばらくの間ゼミを続けたいとさえ思ったぐらいです。受講生のみなさんからもらった刺激を基に、次回類似のゼミを担当する際にはさらに充実したものにすべく頭を絞ってみます。