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神戸大学大学院法学研究科 2005年度前期

フランス法文献研究

講義の概要


○授業のテーマと目標

 法学・政治学研究に必要な程度のフランス語読解力を養成することを目標とする。

 

○授業内容の要旨と授業計画

 テキストを朗読・翻訳し、それに基づき議論する。

 本講義では、「日本語らしい日本語」に翻訳する訓練も行う。必読文献を示しているので、事前に参照しておくこと。

 

○教科書・参考書

 HEUSCHLING (Luc), Etat de droit, Rechtsstaat, Rule of Law, Paris, Dalloz, 2002, xii+739p.

 

○履修上の注意

 フランス語については、初級文法を一応理解していることを前提とし、講義において初歩的な文法事項の説明は行わない。学部生を対象とする「外国書講読(仏書)」では、より初歩的な内容の講義を行っているので、そちらに来ていただいても構わない(もちろん、学部の講義を大学院生が受講しても単位にはならない)。どちらを受講すべきか迷う場合は、とりあえず両方の講義の初回に参加すること。

 

○成績評価方法

 平常点および(簡単な)レポート

 

○オフィスアワー

 開講時に指示する。それ以外の時間であれば、e-mailで事前連絡すること。

 

○学生へのメッセージ

 日本語の条約集で「EU設立条約(マーストリヒト・アムステルダム・ニース条約)」の前文を見てみると、「法の支配」という言葉を見つけることができる。この訳語は正確であろうか。確かに、条約英文ではrule of lawとなっている。しかし、他の正文では、Etat de droit(仏)、Rechtsstaat(独)、stato di diritto(伊)、Estado de derecho(西)、rechtsstaat(蘭)、Estado de direito(葡)、retsstatsprincippet(丁)、rattsstatsprincipen(瑞)などとなっている。どうやら、「法の支配」と訳すのは英語しか見ていないからのようだ。ヨーロッパ法を理解しようとするときに英語文献しか読まないと大変な誤解をしてしまう危険が強いことは、イギリス人のヨーロッパ法研究者も強調するところである。

 しかし、では、「法治国家」と訳せばいいのだろうか。Etat, Staat, statoなどという言葉は、「国」を意味するとは限らないし、EUに「国」という表現はそぐわない。そもそも、「法治国家」と訳すと英語のrule of lawのニュアンスが消えてしまい、「法の支配」と訳すのと同種の誤りを犯すことになりかねない。

 ヨーロッパ法上の概念を理解しようとする場合には、さまざまな伝統を持つ各構成国法体系における近似概念の理解が不可欠となる。この講義では、「国」や「法」を考える際に必須となるEtat de droit, Rechtsstaat, rule of lawの諸概念を深く検討した博士論文をとりあげ、これら諸概念の異同を通じて仏・独・英の法伝統に触れてみよう。