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神戸大学法学部 2005年度前期

外国書講読(仏書)


○授業のテーマと目標

 法律・政治に関するフランス語のテキストを用い、フランス語で書かれた文章を正確に理解することを目標とする。

 

○授業内容の要旨と授業計画

 テキストの朗読・翻訳を行い、内容につき議論する。

 

○教科書・参考書 

Ministère des affaires étrangères, Constitution pour l'Europe: mode d'emploi, 2004.

 2004年10月29日、ローマにて、「ヨーロッパ憲法条約」が署名された。ヨーロッパ連合(EU)の新たな姿を示すこの「憲法条約」は、どのような内容を持つものなのだろうか。国際社会においてEUが果たす役割が急激に増大する昨今、EUの現状を理解することは、日本にいる我々にとっても極めて重要なものになってきている。しかしながら、膨大な条文からなる「憲法条約」の全体像を理解するのは、とりわけEU外の我々にとっては、容易なことではない。そこで、この外国書講読では、「憲法条約」の概要をつかむために最適のテキストをとりあげてみたい。

 「憲法条約」は、EUを構成する25ヵ国全てによって批准されなければ、条約として成立しない。批准の可否を議会で決定する国もあるが、国民投票により決するとする国も少なくない。EUはヨーロッパ人の日常生活に深く食い込んでいるため、国民全体の理解なしにはEUの拡大・深化は不可能になっているからである。とはいえ、一般市民にEUの憲法的構造を理解してもらうのは、容易な作業ではない(自国の憲法でさえ、普通の人は知らない。これは日本でもヨーロッパでも同じことである)。そこで、十分に理解した上で国民投票に望んでもらうため、国民投票を行う国の政府は、ありとあらゆる手段で「憲法条約」の解説・宣伝をしている。今回用いるテキストは、そのためにフランス外務省が作成した市民向けパンフレットである。

 

○履修上の注意

 この外国書講読は大学院と共通の講義ではなく、学部生向けである。2年次(2004年度入学)生も受講可。

 フランス語を全く学習したことのない者であっても、これを機に習得する意欲があるならば、参加を歓迎する。フランス語の勉強のしかた、その他一般的な参考文献などについては、フランス語FAQを参照していただきたい。

 逆に、フランス語にかなり自信がある学部生は、大学院の「フランス法文献研究」に出席しても構わない。ただし、当然ながら、その場合に単位は取得できない。

 

○成績評価方法

 授業への貢献度およびレポート

 

○オフィスアワー

 開講時に指示する。それ以外の時間であれば、e-mailで事前連絡すること。

 

○ 学生へのメッセージ

 フランス語を学ぶ意味は、とりわけ法・政治の文章をフランス語で読む意味は、何か。それは、「フランス語の文章ならではの『ものの見方』に触れることができる」ということに尽きる。

 日本では、外国語といえば英語である。しかし、英語しか読めないようでは、偏った情報しか手にすることができない(英語すら読めないようでは、そもそも話にならない)。それは、英語による情報発信源の巨大な中心であるアメリカ合衆国が国際社会で極めて特異な立場にあること、また、それに次いで重要な英語発信源であるイギリスがヨーロッパでこれまた特殊な立場にあること(そもそもイギリスは自己を「ヨーロッパ」の一部と考えない傾向が強い)を考えると、わかりやすいだろう。フランス語で発表される文章――あるいはその中心地であるフランスという国――も、アメリカ合衆国やイギリスに負けず劣らず偏っている。日本では必ずしも目にしやすいとは限らないその「偏りぶり」を見ることで、より多面的な「ものの見方」を身につけることができるだろう。

 ヨーロッパ連合においては、全構成国の国語が公用語とされているが、実際にはフランス語と英語が主要な作業言語となっている。ヨーロッパ司法裁判所(EC裁判所)においてはフランス語が唯一の作業言語であり、イギリス人研究者でさえ、「EC裁判所の判決は、英語でも公表されるけれども、本当に理解したければフランス語で読まなければならない」と指摘しているほど、決定的に重要な言語である。EUについて、あるいはヨーロッパについて関心を持つ学生は、ぜひこの講義を利用してフランス語を身につける努力を始めてほしい。