![]() |
![]() |
2001年度後期 国際法(夜間主)
試験講評
成績評価に納得のいかない人は、成績発表後直ちに連絡してください。必要なら面談して説明します。
全体的に
★合格基準(「可」の基準) 論点=「何が問われているのか」を理解しているかどうか。 | ||
![]() |
それが分かれば、調べさえすればある程度は答が得られます。つまり、それさえ分からなければ、教科書やノートをを持ち込んでも問題は解けません。きちんと勉強しているかどうかの差がここで明白に出ます。 | |
![]() |
||
・その「論点」につき、根拠を挙げて証明(しようと)している。 | ||
・関連する先例との比較が正確にできている。 | ||
![]() |
||
「間違い」や「余計なこと」を減点対象とすると、1名を除き全員不合格になってしまう悲しい結果でしたので、今回はほとんど減点していません。 唯一、上の「論点」がある程度は把握できているが十分でない場合、その程度に応じて減点しています。 |
||
●全体的講評 | ||
1. | 残念ながら出来のいい試験ではありませんでした。教師として責任を感じています。そこで(?)、かなり大規模な救済策を講じました。最後を参照してください。 | |
2. | 「すべて持ち込み可」の悪い面かもしれませんが、関係ないことにつき教科書などの丸写しを延々と連ねる答案が多くあります。本来なら減点対象です。 | |
3. | 日本語の文章作成があまりに稚拙です。こちらに挙げた参考文献などで訓練してください。 | |
4. | いわゆる「不審船」問題につき、講義の際に示した文献のほか、坂元茂樹「国際法からみた『不審船』事件」世界2002年3月号20−25頁を参照してください。 |
問1
論点 | 問題の行為が「黙示の承認」に当たるかどうか。 |
採点例 | 「承認していなくても抗議できる」→20点。逆は必ずしも真ならず、です。 |
誤解の例 | 宣言的効果説・創設的効果説について一生懸命説明した答案がたくさんありましたが、まったく関係ありません。 |
合格答案例(余計なところは削除してあります) | |
今回の抗議は、国際法上、慣習的にみなされている国家承認の二つの方式に適合していない。 まず第一に、明示的方法といわれる宣言や条約などの公文書による表現に適合しない。 第二に、黙示的方法といわれる、二国間条約の締結や、外交関係の正式の開始、領事の認可状の付与などの慣習的方法で表明されてもいない。 よって、ヤパン国としても、国際法上の解釈としても、今回の抗議は、北コレー国を特定の団体として扱ったにすぎず、国際法上の権利を認めるものではない。 |
|
![]() |
黙示の承認かどうかが問題となることを理解している。 →30点。 黙示の承認と一般に見なされるものの例を挙げ、それに本件抗議が該当しないことを説明している。 →十分ではないにせよ加点に値する。+10点。 |
問2
論点 | 追跡権の行使・排他的経済水域の性格。 |
加点例 | 追跡権の要件を正確に説明している。無害通航権との関係を適切に説明している。 |
合格答案例 | |
そもそも「排他的経済水域」というのは、「領海」とは違い、慣習法的に各国へと付与された「経済的な」主権の及ぶ海域のことを示すものであり、国連海洋法条約58条1項で、すべての国の船舶はこれを航行しうると定め、また、58条2項で「公海」の規則を適用することを明示している。よって、ヤパン国が行った当該不審船への追跡は、ヤパン国の領海から「公海まで」のものであると考えられ、「旗国主義」の例外規定である「継続追跡権」より逸脱するものではなく、ヤパン国は当該不審船を拿捕する権利を正当に有していたものと考えられる。 | |
![]() |
多少不正確な記述がありますが、目をつぶってぎりぎり合格点。加点事由に該当するものはありません。 |
問3
論点 | 可能性は2つあります。 | |
1.追跡権を行使し拿捕を試みる過程での実力行使 | ||
I'm alone号事件、Red Crusader号事件に触れること。 | ||
加点例 これら先例との比較が正確にできている。 | ||
2.自衛権行使 | ||
「北コレー国」による攻撃であること。 | ||
「武力攻撃」の存在、その他自衛権行使の要件。 | ||
加点例 これら要件に触れているだけでなく、要件充足を証明しようとしている。 | ||
答案例(余計なところは削除してあります) | ||
停船後、軍艦に対して機関銃掃射が行われ、対戦車小型ロケット砲によりヤパン国の人命が失われ、多大な物理的損害を与える行為を行った北コレー国の不審船に対し、魚雷発射を命じ、沈没させたのはヤパン国側の自衛であり、国際法では断じてない。 なぜなら、国際法違反の行為であっても、国連憲章あるいは一般国際法に定める合理的な自衛措置は、その違法性が阻却される。自衛権行使の要件としては、緊急性と均衡性がある。 |
||
![]() |
このように、自衛権で正当化しようとした答案がほとんどでした。であるならば、まず本件で「武力攻撃」が存在したこと、また、それが北コレー国による攻撃であること、を説明しなければなりません(後者については、「国家による攻撃でなくても自衛権行使は可能である」ことを、根拠を挙げて主張しておればそれでも結構です)。 ところが、そういう答案はほとんどなく、上に引用したようなものが大多数でした。上のような答案は合格とは言えませんが、もう一問の出来がよければ全体として合格にしています。 |
問4
論点 | 可能性は3つあります。 | |
1.武力紛争は存在していない。 | ||
加点例 その根拠を示そうと努力している。 | ||
2.捕虜資格をみたさない。 | ||
加点例 捕虜資格の要件につき正確に説明している。 | ||
2.戦争犯罪である。 | ||
加点例 戦争犯罪であればなぜ自国刑法の適用が可能なのか、説明を試みている。 | ||
合格答案例(余計なところは削除してあります) | ||
まず本件においては、武力紛争であるかを確認しなければならない。武力紛争は通常国家間の戦争を指し、国と国がその行為者となる。しかし、この事件においては、事実関係から、北コレー国が正式にわが国を攻撃したとは言い難い。1949年のジュネーブ捕虜条約において宣言された戦争またはその他の武力紛争の場合につき」と示されているとおり、、武力紛争は国家と国家の紛争と考えることができる。 よってこの不審船乗組員は、ヤパン国領域内において発生した事件であり、ヤパン国は刑事管轄権を有する。 |
||
![]() |
本件において「国家間の」武力紛争は生じていない、と言えるのはなぜか。単に「事実関係から」というのでは、「事実関係から国家間の武力紛争が存在するといえる」という主張に反論できません。 なお、この答案例の第2文を見てください。上にも書いたように、日本語として成り立っていない文章を書く人が多すぎます。 |
救済策について
上の基準を適用すると、ほとんど合格者がいなくなってしまいます。そこで、
・素点30点以上である。
・いずれか1問に対する回答が0点でない。
この2つの条件を共に満たす答案は60点に引き上げました。不公平にならないように、素点60点台(「可」)の答案は70点台(「良」)に、素点70点台の答案は80点台(「優」)に引き上げました。
優 | 良 | 可 | 不可 | 合計 |
1 | 3 | 9 | 18 | 31 |