法科大学院・公共政策大学院 2015年度後期 EU法

講義概要

昨年度までは法科大学院のみでの開講でしたが、本年度より公共政策大学院でも開講されます。

 

科目

EU法
担当教員 M本正太郎
曜日・時限 火・2限
講義の概要・目的

現在、ヨーロッパでサッカー選手が契約期間満了時に移籍する場合に移籍金なしで移籍できるのも、中田英寿以降、日本のサッカー選手が続々とヨーロッパで活躍しているのも、EU裁判所のボスマン判決のためである。

また、ある種のお酒は最低でも(最高ではない)25%アルコールを含有しなければならないとのドイツ法はEU法に違反ではないかとの訴訟で、ドイ ツはこの法律は国民の健康を保護するためである(?)と裁判で主張し、当然敗訴した。これはEU裁判所のカシス・ド・ディジョン判決であり、EUの市場統 合に関する最も有名な判決である。

サッカーやお酒に限らず、EU法は今日ではほとんどの法分野に関係しており、ヨーロッパでビジネスを行う場合はもちろん、ヨーロッパ企業と取引する場合にも、また、EU構成国の国内法を学ぶ際にも、EU法を無視することはできない。

また、EU法は、国際法でも国内法でもない法体系であり、三権分立を有さない統治機構を持ち、28カ国で一つの市場を作るという壮大な試みを支え るインフラであり、刻々と動いているダイナミックな法である。このようなEU法にふれることで、日本法を相対化して見直してみる目も養いたい。

具体的には、EU法総論について必要最低限の基礎知識を学んだ後、EU裁判所の裁判例を中心にEU実体法、特に域内市場法を学ぶ。

到達目標

上記「授業内容」記載の各項目についてその内容を具体的に説明できるように理解して、上記「概要」記載の成果を得ること。

授業形式 双方向・多方向形式による。教科書、レジュメおよび配付資料の予習を前提に、質疑応答を重ねながら講義を行う。
計画と内容

前半をM本が、後半を中西が担当する。以下はM本担当部分のみである。

1.EU法の手引き/欧州統合史
この授業の概要説明と打ち合わせの後、EU法の手引きとして、EU法に関する基本資料とその入手方法などを説明する。そして、今日に至る欧州統合の歴史を概観する。

2. EUの機構的構造・立法過程
EUにはどのような機関があり、それぞれどのような存在理由があるか。ヨーロッパ議会は、我々が知る国内の議会とどのように似ていて、どのように異なるか。EUではどのような法規範がどのようにして作成されるか。

3. EU法の直接適用可能性
日本の裁判所は、条約をそのまま適用することがある。なぜそれは可能なのか。EU構成国裁判所におけるEU法の適用は、それとどのように異なって いるのか。EU法には様々な種類の法規範があるが、全てについて同じように国内適用できるのか。この回で扱われるのは、EU裁判所史上の最重要判決であ る、van Gend en Loos判決である。

4. EU法の優越性
日本法秩序において、国際法はどのような階層的位置づけを与えられているか。EU国内法秩序におけるEU法の位置づけは、それとどのように異なる か、そしてそれはなぜか。ここでは、おそらく史上二番目に重要な、Costa/ENEL判決を扱う。EU法が国内法秩序において国内法に優越するのであれ ば、民主主義の観点からそれはいかにして正当化可能なのだろうか。

5. EU裁判所
世界各地に存在する種々の経済統合とEUとを比べた場合、最大の相違点は裁判所の機能である。EU裁判所は、他の国際裁判所と比べて、また、国内 裁判所と比べて、どのような特質を持つか。論告担当官(法務官。avocat general)とは何者か。構成国国内裁判所がEU裁判所に意見を求める先決裁定とはどのような手続か。

6. EUと人権
2009年12月にリスボン条約が発効するまで、EUは人権に関する法規範を有していなかった。それはなぜだろうか。人権に関する明文規定がなければ人権は保障できないのか。EU法とヨーロッパ人権条約とはどのような関係に立つのだろうか。

7. EUと構成国との権限配分・EUの対外関係
EU構成国は、EUが関与する分野に関してあらゆる権限を失ってしまうわけではない。ある特定の問題につき、EUと構成国とのどちらがどの程度権 限を有しているかは、どのようにして判断すればいいのだろうか。これは、日本(企業)から見れば、ある特定の問題につき、誰と話を付ければいいのかを考え ることである。もし、EUも構成国も権限を有する事項があるとすれば、外部の者はどちらと話を付ければいいのだろうか。

履修要件

[法科大学院]

形式的な履修要件はない。


[公共政策大学院]

形式的な履修要件はない。 本講義は、EU「法」の講義である。受講生は、憲法・行政法・国際法について学部水準の理解を有していると想定して講義を行う。

成績評価の方法・基準

筆記試験及び平常点による評価:成績評価は,筆記試験の成績を基礎として,±5点の範囲で平常点を加味する。

なお、4回以上正当な理由なしに授業を欠席した場合には、単位を認めない。

教科書

中村民雄=須網隆夫(編) 『EU法基本判例集〔第2版〕』 (日本評論社) ISBN:9784535517455 2010年

このほか、講義で用いる資料を配布・ダウンロードを指示することがある。

講義の基本となるEU条約・EU運営条約については、英文のダウンロードを指示する。日本語訳を参照したい者は、『ベーシック条約集 2015年版』(東信堂)を用意すること。

参考書
  • 庄司克宏 『新EU法 基礎篇』 (岩波書店) ISBN:9784000289108 2013年
  • 庄司克宏 『新EU法 政策篇』 (岩波書店) ISBN:9784000289139 2014年
  • ヘルデーゲン 『EU法』 (ミネルヴァ書房) ISBN:9784623063864 2013年
  • 中西優美子 『EU法』 (新世社) ISBN:9784883841790 2012年
  • Koen Lenaerts 『European Union Law, 3rd ed.』 (Sweet & Maxwell, 2011) ISBN:9781847037435
  • David Edward & Robert Lane 『Edward and Lane on European Union Law』 (Edward Elgar, 2013) ISBN:9780857931047
  • Stephen Weatherill 『Cases & Materials on EU Law, 11th ed.』 (Oxford University Press, 2014) ISBN:9780199685660
  • Lorna Woods & Philippa Watson 『Steiner & Woods EU Law, 12th ed., 2014』 (Oxford University Press, 2014) ISBN:9780199685677
  • P.S.R.F. Mathijsen & Peter Dyrberg 『A Guide to European Union Law, 11th ed.』 (Sweet & Maxwell, 2013) ISBN:9780414027701

参考リンク

授業外学習(予習・復習)等 開講時までに、EUに関する本(新書程度でよい)を何か1冊読んでおくこと。 例えば、中村民雄『EUとは何か―国家ではない未来の形―』(信山社、2015)、庄司克宏『欧州連合―統治の論理とゆくえ―』(岩波新書、2007)。【←追記(9月4日):赤字部分は公共政策大学院のシラバスには記載されていない。】
その他の特記事項

特になし