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神戸大学法学部 2004年度前期

国際法概論

期末試験
2004年7月23日(金) 3時限
持ち込み 全て可


 試験問題 (PDF)

 

解説

問題の趣旨

 「Casseseの教科書では、『伝統的国際法』と『新しい国際法』との対比が非常に重視されている。講義でもそこに力点を置いて議論を進めてきた。したがって、期末試験の準備にあたっては、『伝統的国際法』と『新しい国際法』とはどのように違うのか、および、その違いが各分野で具体的にどのように現れているか、というところに注意するように。そこを書かせる試験問題を出す」。7月9日の講義でこのように述べ、13日の補講時にも繰り返し確認しておいた。それを受けて準備しておれば、少なくとも各問の(a)は、拍子抜けするほど平易な問題だったはずである。

 対話部分の趣旨は、「『伝統的国際法』と『新しい国際法』との違いは、単に時代が古いか新しいかという問題ではない」ということである。時代の新旧ではなく、規範の内容においてどのような違いがあるのかを理解する必要がある、ということを強調した。

 

 

問1

 1-(a)については、例えば、次のような構成が考えられる。

もとより、このような構成をとる必然性はない。

★採点基準★ 

◎優秀答案◎
 国連憲章2条4項における武力行使の禁止原則は、2度に及ぶ世界大戦で人類が経験した参加から得た教訓である。19世紀、国家の主権がもっとも重視された時代においては、「正しい戦争」とは何か判断することができないという理論から、消極的な意味で武力行使の合法性が認められていたが、第2次大戦後には、「正しいかどうか判断できないのなら、戦争は違法である」という論理構成へと変容した。国連憲章33条以下において紛争の平和的解決の義務が定められているのも、この武力行使禁止原則によるものである。
 しかしながら、国連憲章2条4項には例外規定が設けられており、42条の想定する国連軍による軍事行動、51条の定める自衛権行使、39条による国連安全保障理事会による武力行使の許可である。
 このうち、国連軍については冷戦により創設されず、そのまま現在に至っているので存在しないが、このことが国連体制下における武力行使の弱点の一端をなしている。これに関連して、安保理システムの欠陥を4つ挙げると、
  1. 常任理事国5ヵ国の同意に基づくため、一国でも拒否権を発動すれば全く機能しなくなる。
  2. 国連憲章では派兵国が自国軍の指揮を執ることができると考えられていないが、安保理の指令と本国の指令とに対する二元的忠誠が起こる可能性があり、それによって派遣軍が無力化されるおそれがある。
  3. 国内での反乱者に対しては武力行使が許されている。
  4. 国連憲章は、政治的緊張が武力衝突につながらないようにするための裁判等の提唱を行うという「積極的平和」よりも、単に戦争をなくすという「消極的平和」を是認する傾向にある。
という点がある。
 また、51条の自衛権についても、各国が自衛を叫んで実質は侵略戦争を仕掛ける事例や、先制攻撃によって将来生じうる侵害に対する自衛権行使の理論などの問題を抱えている。また、侵略・自衛のための戦争ではなく、「平和のための戦争」つまり人道的介入の正当化が、国連憲章によってなされていないが、それに対する必要性は高まってきている。
★コメント★
 問題の理解および説明の進め方において、非常に優れている。
 改善すべきは、以下の諸点についての説明が必ずしも十分ではないところか。
  • 「『正しいかどうか判断できないのなら、戦争は違法である』という論理構成へと変容した」
  • 「自衛を叫んで実質は侵略戦争を仕掛ける事例」
  • 「先制攻撃によって……自衛権行使の理論」
  • 「人道的介入の正当化……に対する必要性は高まってきている」
とはいえ、これだけ書ければ「国際法概論」の答案としては十分である。

 

1-(b)は、超難問であり、回答に挑戦した者も少なかった。

 この種の議論に対しては、「あなたの言うことには問題がある」と反論するだけでは意味がない。少なくとも、「私の言うことにも問題があるのは確かだけれど、あなたの主張よりはまだましだ」というところまではこぎ着けなければならない。それを主張しようとした答案として、例えば次のようなものがあった。

 「組成員間の紛争を社会の手によって解決する制度」は国際社会においては現実的でなく、不可能と言わざるを得ない。しかし、ただちに強制的手段による紛争解決を認めるのは性急である。確かに1-(a)のような弱点はあるものの、国連憲章2条4項が機能していることは、武力行使を行った国が「自国は国際法を遵守している」と主張し、そのための状況を整えようとすることで武力行使の少なくとも時期・規模・方法が抑制されていることから明らかであるからだ。

 講義でも述べたように、田岡の指摘は容易に回答できない難問であり、かつ国際法の根幹を問うものである。今後とも考えていってほしい。

 

 

問2

 2-(a)も、講義で予告した通りの問題であり、試験勉強をしておれば難なくクリアできただろう。例えば、次のような構成が考えられる。

★採点基準★

◎優秀答案◎
 伝統的な国際法においては、法に階層構造は存在しなかった。しかし、1960年代後半に、社会主義諸国と発展途上国とが、ある種の規範に、他の条約や慣習法で定められた規則よりも強い力を与えるべきだ、と主張した。これがjus cogens(強行規範)である。
 Jus cogensとは、ある一定の契約関係において当事者の意思にかかわらず適用される法規で、条約や慣習に由来する法規よりも高い地位を与えられているものを言う。Jus cogensは、1969年に条約法条約53条で「いかなる逸脱も許されない規範として国際社会全体が受け入れ、かつ認める規範」と定められた。通常の条約に定められた規則がjus cogensから逸脱する場合、その条約は無効となる。
 何がjus cogensに当たるのかは条約法条約にも明確な規定がない。国連憲章の定める武力行使禁止、ジェノサイド禁止、海賊行為禁止、奴隷売買禁止等が該当するについてはほぼ異論がない。といっても、これを否定するような条約が締結されることは実際には考えにくく、実際に条約を無効とする機能よりも、国家の意思を越えた規範があることを示す象徴的機能にこそ意味があると考えられている。
 Jus cogensがcommunity obligationsの一種であると言うことができるのは、この規範が個々の国の個別的利益に優越する国際社会の一般的利益の存在を認め、現にそれに抵触する条約は無効であることを定めることによって、明確に、国際社会の一般的利益を各国が遵守することを義務づけているからである。また、その義務的性格を一層明確化しているのは、「国際社会全体」という表現であり、これは、ある規範の強行性は全ての国によって認められる必要はなく、大多数の国が認めれば十分であり、どの一国もこの点について拒否権を持たないと解されている。
 条約法条約の66条(a)では、jus cogensの適用に関して国家間で争いが起きた場合には、国際司法裁判所が下す判断に当事国が従うことを定めている。ある条約がjus cogensに反し無効であるという訴えは、条約法条約によれば、その条約の当事国で、かつ条約法条約の当事国でもなければなし得ない。しかし、これはjus cogensのcommunity obligationsとしての性質と両立するものではなく、慣習法規則によればそれ以外の第三国も主張することができる、とする立場もある。
★コメント★
 講義時に予告した通りの問題だったにもかかわらず、あまり出来が良くなかったので驚いている。予告したのは、手を抜いていいという意味ではなく、試験勉強というmotivationの高い機会にこの重要な箇所を徹底的に勉強してほしい、という趣旨だったのだが、その趣旨をうまく伝えられなかったことを反省している。
 上記の「優秀答案」は、3名の答案を接ぎ木したものである。この3名は、それぞれ、書いていることは優れているものの、書き落とした箇所が少なからずあり、それが惜しまれてならない。単純に考えて答案用紙の2頁弱を使うことができるのだから、与えられたスペースを最大限活用しつつ必要十分なことを述べるように努力してほしい。

 

2-(b)については、問題の趣旨を取り違えた答案がほとんどだった。

 典型的なのは、「その他には、人権の保護や国際人道法などがある」という答案である。しかし、ここで質問されているのは規範内容(その規範が保護しようとしているもの)ではなく、その規範の持つ性質である。

 講義時に、「伝統的国際法」と異なる「新しい国際法」の特徴を問う、と予告しておいたのだから、教科書第一章を特に丁寧に読み直しておいてほしかった。そうすれば、aggravated responsibilityやrules governing criminal behaviourやthe norms of public lawやなどの表現が目につき、aggravated responsibilityの箇所(9.5)をさらに読み返すことでinterdependent or integral obligationsという表現に出会ったはずである。これらは、いずれも講義時に力点を置いて論じた箇所でもある。

 残念ながら、この項につき優秀答案を挙げることはできない。

 

 

成績評価

 掲示板関連の加点や、(3回生以上については)レポートの成績を加味しない、期末試験だけの成績は以下の通り。これに、掲示板関連の加点や、(3回生以上については)レポートの成績を加えたものが、最終的な成績となる。

不可 合計
4 8 10 6 28

 なお、成績評価について不満・疑問のある者は、成績交付直後、遅くとも10月10日頃までに、e-mailで連絡を取ること。面談して説明する。