法科大学院・公共政策大学院 2016年度前期 国際人権法

講義概要

2015年度からの国際法関連科目の変更について(法科大学院・公共政策大学院)

講義の記録

科目

国際人権法
担当教員 M本正太郎
曜日・時限 金・1限
講義の概要・目的

 [法科大学院]

国際人権法は、日本における実務活動においても日常的に用いられるようになってきた国際法分野である。憲法で学んだ人権論を基礎としつつ、それと異なる人権保障制度がどのような背景の下でどのような内容を伴って成立しており、それが実務の場でどのように用いられるのかを学ぶ。

本講義では、国際法を用いる法曹実務とはどのようなものかを体感するために、教員自身の実務活動も基礎にしつつ、仮想あるいは現実の問題を素材として、国際法を用いた問題解決を実践的に試みる。【授業内容】に記す各分野につき、当該分野の全体を把握した上で、事例研究に取り組む。

欧米の大規模法律事務所を見ると、国際法を業務内容としているところが少なくない。また、国連等様々な国際機構においても、法曹資格を有する人々が国際公務員として働いている。しかし、日本においては、「国際法は実務とは関係ない」という迷信が根強く残っている。この分野における実務法曹の仕事は世界中に山ほどあるにもかかわらず、日本の実務法曹はみすみす仕事を逃しているのである。

日弁連は、『自由と正義』誌において「弁護士の国際業務の広がりと今後の展望」(2015年7月)、「国際司法裁判所の実像」(2013年12月)、「ハーグ条約実施法の施行に向けて」(2013年11月)、「国際法の理論と実務」(2009年2月号および2010年5月号)や「国際機関で働くということ」(2009年3月号)と題する特集を組み、さらに、年に1回「国際分野で活躍するための法律家キャリアセミナー」を法務省・外務省と共催し(後援:国際法学会・法科大学院協会)、さらに、日弁連サイト上に「国際機関就職支援」というページを設けている。これは、国際法分野において活躍する日本の実務法曹が今求められているという認識を、政府・学界のみならず実務界も共有していることを示す。この講義は、そのような要請に応えられる実務法曹を要請することを狙いとする。

そのような講義であるため、一定程度英語の資料も用いる。過大な負担とならないように配慮はするが、専門的内容の英文を読解する訓練としても活用されたい。


[公共政策大学院]

国際人権法は、日本における実務活動においても日常的に用いられるようになってきた国際法分野である。憲法で学んだ人権論を基礎としつつ、それと異なる人権保障制度がどのような背景の下でどのような内容を伴って成立しており、それが実務の場でどのように用いられるのかを学ぶ。

この講義では、国際法を「使う」ことを学ぶ。教科書に書かれている国際法を現場でどのように使うのか、そのためには何を知っておかねばならず、どのようなことに留意する必要があるのか、を体感する。

法科大学院と共通の講義であるため、基本的には訴訟の場を想定している。公共政策の学生としては、自分が企業の担当社員だったらどのように行動するか、国側の担当官庁の公務員だったらどうするかを考えるのも有益だろう。国内でしか活動しない企業に勤めても、外務省や経産省でない官庁に勤めても(地方公共団体でも!)、国際人権法に関する問題はいつでも生じ得る。その際、あなたはどのように対応すべきだろうか。

「国際」人権法の講義であるため、一定程度英語の資料も用いる。過大な負担とならないように配慮はするが、専門的内容の英文を読解する訓練としても活用されたい。

到達目標
  • 憲法における人権論との比較において、国際人権法の特質を理解する。
  • 国際人権法の主たる実体的規定内容を把握する。
  • 国内裁判手続において国際人権法を使えるようになる。
  • 人権条約に基づく手続の基礎を理解する。
授業形式 毎回の範囲について、基礎的な理解を確認する簡単な課題と、具体的な事例問題を予習課題とする。受講生は、このうち事例問題について自分なりの簡潔な「答案」を作成し(A4、1〜2枚)、講義ではそれを基に議論を行う。
計画と内容
  1. 国際人権法の成立経緯:なぜ「国際」人権法か
  2. 人権条約機関の機能(1):国家報告制度
  3. 人権条約機関の機能(2):個人通報制度
  4. 人権条約機関の機能(3):一般的意見
  5. 国際労働機関(ILO)の機能
  6. 女性差別:夫婦同姓事件
  7. 人種・国籍による差別:小樽公衆浴場事件・千葉ゴルフクラブ事件
  8. 表現の自由とヘイトスピーチ:京都ヘイトスピーチ事件
  9. 少数者の権利:高槻教育権事件
  10. 先住民の権利:二風谷ダム事件
  11. 社会権の特質?:外国人年金受給事件・二つの大阪高裁判決
  12. 緊急事態における人権:「テロとの戦い」と人権
  13. 難民認定基準・手続:「迫害」の認定基準
  14. 退去強制:子どもの権利と家族の一体性
履修要件

[法科大学院]

形式的な履修要件はない。「国際法1」「国際法2」を履修済みであるか、学部において国際法科目を履修済みであることを前提として講義を行う。


[公共政策大学院]

形式的な履修要件はない。「国際法」を履修済みであるか、学部において国際法科目を履修済みであることを前提として講義を行う。

成績評価の方法・基準

期末試験(70%)、平常点(30%)。

平常点は、毎回課す予習課題への対応状況および講義での議論への参加により評価する。

教科書

使用しない。

講義で用いる文献資料は下記ウェブサイトにおいて指示する。資料には英語も含まれる。

参考書
  • 酒井啓亘ほか『国際法』(有斐閣、2011年)第5編第5章
  • 芹田健太郎ほか『講座国際人権法1〜4』(信山社、2006-2011年)
  • 大谷美紀子ほか『国際人権法実践ハンドブック』(現代人文社、2007年)
  • de Schutter, International human rights law, 2nd ed., Cambridge University Press.
  • Moeckli, International human rights law, 2nd ed., Oxford University Press.
  • Smith, Textbook on International Human Rights, 6th ed., Oxford University Press.
  • Shelton, Advanced introduction to international human rights law, Elgar.
  • Thornberry, The International Convention on the All Forms of Racial Discrimination, Oxford University Press.
  • Islam, An introduction to international refugee law, Brill.

(リンクのないものも間もなく図書館で利用できるようになります。)

その他の特記事項

受講者間で徹底的な討議を行う講義である。議論への参加の強い意思を持って受講されたい。