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2002年度前期 国際法概論
試験講評
ねらい
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求められる法的議論に関係する事実と関係しない事実とを峻別する。 |
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複雑な制度内容を正確に理解する。 |
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規範内容をその存在理由を把握した上で理解する。 |
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「形式的には異なるものの実質的には同じ」ということを法的に説明する。 |
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国際法に特有の問題を理解する。 |
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問1
配点 50点
「他の船舶」の要件 | ||||
・ | 国連海洋法条約や公海条約は適用できない(関係国がそれら条約の当事国であるかどうかが問題文中に示されていない)。したがって、単純に「条約にそう書いてあるから」と言うことはできない。講義でも説明したように、これを要件とすることに疑問を提示する立場もないではない。 | |||
★なぜこれが要件であるのか、を説明する必要あり。 →海賊に関する国際法制度の存在理由 |
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「私的目的」の要件 | ||||
・ | 「他の船舶」の要件のみをもって回答することが可能であり、あえてこの要件に触れる必要はない。 | |||
・ | ただし、それでもなお触れる場合には、「他の船舶」の要件について指摘したことがここにも当てはまる。講義でベルギー・グリーンピース事件などを用いて説明したように、海賊に関する国際法制度の存在理由からして、今日なおこの要件を維持しなければならないかどうか、問題視されている。それでもなおあえてこの要件の維持を主張するのはなぜか。 | |||
「海上航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」 | ||||
関係諸国が当事国であるかどうか不明なので、適用できない。 | ||||
ヘムル国がフィリフヨンカ国に国家承認を与えていないこと。 | ||||
・ | フィリフヨンカ国が国連加盟国であることから、同国が国際法上の「国家」であることはほぼ確実であり、あえて論じる必要はない。 | |||
・ | 論じるとすれば、承認の宣言的性質を指摘した上で、同国が国連加盟国でることから国際法上の「国家」であることはほぼ間違いない、と述べれば十分。 | |||
拿捕したのはヘムル国であるところ、求められているのはヤンソン国に対する批判。 | ||||
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本来なら、 ・ヘムル国の違法行為をヤンソン国裁判所で主張することは可能 ・ヤンソン国の要請による行為なので当該拿捕はヤンソンに帰属する のいずれかを主張しなければならない。しかし、今回の試験ではそこまでは求めない。 |
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採点基準 | |||
○ | ヘムル国領海内でないので原則として船籍国たるフィリフヨンカ国が管轄権を持つこと、および、海賊を理由とする管轄権行使は「他の船舶」の要件を満たさないので違法、と指摘している答案 →30点 | |||
国連海洋法条約や公海条約が適用できないので慣習法で説明しなければならないことを理解している →+5点 | ||||
なぜ「他の船舶」要件が求められるのかにつき、制度趣旨を踏まえた説明ができている →さらに+5点 | ||||
その他見るべき点があれば加点。なお、誤りがあっても減点していない。 | ||||
△ | 「私的目的」の要件を満たさない、と主張している答案 | |||
これを要件とすることに批判があることを認識している →30点 | ||||
・その批判に反批判を加えている →+10点 | ||||
単にこの要件を援用しているだけ →20点 | ||||
「私的目的」であることを先例を用いて説明している →+10点 | ||||
注 | どんな先例でもいいというわけではありません。張振海事件を援用してこれを説いた答案がありますが、犯罪人引渡における犯罪の政治性と海賊における目的の私的・公的性質とがどう関連するのかの説明がなければ、この援用は無意味です。 | |||
その他見るべき点があれば加点(上記加点事項も参照)。この場合も、誤りがあっても減点していない。 | ||||
? | 「他の船舶」にも「私的目的」にも触れていない答案 | |||
0点から出発し、評価すべき点が少しでもあればそれに応じて加点。 |
合格答案例
以下の見事な答案に最高点を与えました。
本件人質行為――ヤンソン・ヘムル国いうところの海賊行為――は、一般国際法化している国連海洋法条約(以下、とくに条約名が書かれていない条文は当条約を指す)によると、ヘムル国の領海ではなく排他的経済水域で行われており(第37条、第57条より)、リトルミィ号の拿捕もまた排他的経済水域においてなされており、本件には経済活動ではないため、第58条から、公海と同様の規定が適用される。
公海においては、公海自由の原則から、旗国主義(管轄権行使は船籍国(=フィリフヨンカ国)にのみ限られる)が適用されるため、本件人質行為が、、普遍的管轄権が認められる国際法上の「海賊行為」にあたるかどうかが問題となってくる。国際法上の「海賊行為」とは、第101条から、(1)私有の船舶が、(2)「私的目的」のために行う不法な暴力・抑留等の行為であって、(3)「他の船舶」に対して行われる行為でなければならない。
本件において、(1)の要件は充たされているが、(2)の「私的目的」という点について、JRUFFの行為は「ヤンソン国王室典範の改正」と「フローレン(女子)による王位継承」という政治的目的のために行われたものであり、公的目的であって、(2)の要件を満たしておらず、よって、JRUFFの行為は「海賊行為」には当てはまらないものである。
また、仮に(2)の要件を充たしていたとしても、(3)に関して、JRUFFの行為は、同一船舶内において行われており、普遍的管轄権が、国際社会全体に対する罪の重大性と普遍的管轄権の濫用のおそれとの衡量によって認められることからいって、濫用のおそれの可能性の強い、(「他の船舶」に対してではなく)「同一船舶」での行為に対し普遍的管轄権は認めがたいものであり、(3)の要件を満たしていないことからも、JRUFFの行為は「海賊行為」ではないと言える。
とすると、旗国でないヘムル国による拿捕は、旗国主義の原則がとられることから、第87条の公海自由の原則に反する、国際法上違法な拿捕であったと言える。
なお、ヤンソン国がフィリフヨンカに国家承認を与えていない点について、国家承認は国家の要件ではない(このことによってフィリフヨンカ国が国であるか否かは影響されない)ことから、このことを根拠に、リトルミィ号が国籍を有していないとして、第101条(a)iiの「いずれの国の管轄権にも服さない」として、「海賊行為」と認めることは出来ないものである。
[M本注 誤字を修正し、句読点および仮名遣いを多少変更しています。]
先例に言及できていればもっと良かったのですが……。なお、同点答案が1枚あります。
問2-a
配点 25点
擬装(偽装)引渡 | |||
尹秀吉事件を参照すること。講義でしつこく説明した箇所である。 | |||
政治犯不引渡は個人の権利か。 | |||
本件では争われておらず、回答の必要はない。採点には影響させていない。 | |||
本件行為は政治犯罪に当たるかどうか。 | |||
この点を論じる必要はない、と問題文にわざわざ書いておいたにもかかわらず、それでもなおこの点を論じている答案が数多くある。しかし、採点には影響させていない。 | |||
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採点基準 | ||
○ | 擬装(偽装)引渡であるので犯罪人引渡の事例である、と主張している答案 →15点 | ||
・ | なぜ本件の行為が擬装引渡に相当するのかを先例(尹秀吉事件東京地裁判決など)を用いて具体的に説明している →+5点 | ||
・ | 単に「尹秀吉事件でも引渡と同一視された」と述べているだけ →加点なし | ||
その他見るべき点があれば加点。誤りがあっても減点していない。 | |||
○ | 「擬装引渡」という語は用いないものの、本件退去措置が引渡と法的に同一視されるべきことを根拠を挙げて説明している →15点 | ||
加点・減点については上に同じ。 | |||
△ | 単に「犯罪人引渡と同じこと」と指摘するにとどまる答案 →10点 | ||
どこがどう「同じ」なのかを指摘しなければならない。上のように「擬装引渡であるので」と書いている場合はその点をある程度把握していると思われるので、点差をつけている。 | |||
その他見るべき点があれば加点。誤りがあっても減点していない。 | |||
△ | 「これも政治犯の引渡にあたる」と論じている答案 | ||
「政治犯の」引渡かどうかはここでは問題になっていないことに注意すること。ただし、採点には影響させていない。 | |||
× | 「本件では犯罪人引渡が行われている」と述べ、擬装引渡の問題(「擬装引渡」という語を用いるかどうかはともかく)に言及しない答案 →0点 | ||
× | 政治的難民の本国への追放として違法、と主張する答案 →0点 | ||
問に答えていない。 |
合格答案例 この設問についての最高得点獲得答案です。
「犯罪人引渡は行われていない」というのには疑問がある。ヤンソン国の主張は、おそらく、JRUFFメンバーは犯罪人引渡によりヤンソン国に戻ってきたのではなく、ヘムル国の自主的な(強制)国外退去措置である、というものであろう。つまり、自らは引渡請求もなしておらず、犯罪人引渡の形式的要件に欠く、というものであると予想される。
しかし、今回の事件は一種の偽装引渡であったと思われる。つまりこのヘムル国の退去強制は主にJRUFFメンバーの犯罪引渡の動機でもってなされているようであるからだ。JRUFFメンバーはヤンソン国において相当の処罰を受ける客観的確実性があるにもかかわらず、ヘムル国はヤンソン国にメンバーを送還している。これはヤンソン国そしてヘムル国ほかの国々の締結している「ノルディック犯罪人引渡条約」を考えると、不引渡原則の適用されるべき者に対する引渡が行われているのである。
尹秀吉事件の例を考えると、(政治犯不引渡原則が慣習法となったか否かの問題はさておき)「少なくとも客観的にこれ(=政治犯)と同視すべき程度に処罰の確実性があると認められる事情があるなど本国における処罰が客観的に確実である場合」には、不引渡原則が適用されている。
実際、JRUFFメンバーが本国ヤンソン国で刑事的に処罰を受ける可能性は100%であり、よってこれ来場のことを考えると、犯罪人引渡は行われており、またそれは「ノルディック犯罪人引渡条約」に違反するのである。
[M本注 誤字を修正し、句読点および仮名遣いを多少変更しています。]
尹秀吉事件の判決文の読み方に誤解があります。「これ(=政治犯)」の「これ」は「政治犯」を指してはいません。また、これが「東京地裁判決」であることを明示しなければなりません。ともあれ、よく書けた答案です。
問2-b
配点 25点
条約の趣旨・目的と両立しない留保の効果 | ||||||||
留保を受諾しようが留保に異議を申し立てようが同じ効果が発生しかねない、ということを理解しているかどうか。条約法条約21条3項参照。 | ||||||||
留保が無効とされることの帰結 | ||||||||
判例集p. 349の「論点」3を参照してください。ケネディ事件などを用いて講義でも説明してあります。条約法条約20条4項cが「留保は……有効となる」ではなく「条約に拘束されることについての国の同意……は、……有効となる」と定めていることにも注意。 | ||||||||
条約に基づく規則と慣習法規則との関係 | ||||||||
条約上の政治犯罪人不引渡義務を援用できない場合であっても、慣習法上の同義務を援用することはできる。もちろん、そのような義務が慣習法上存在するとすれば、だが。 | ||||||||
留保に関する慣習法規則 | ||||||||
・ | 条約法条約を本件に適用することはできない(国連海洋法条約を適用できないのと同じ理由による)。したがって、慣習法規則に基づいて議論する必要がある。もっとも、今回はこの点については目をつぶった。 | |||||||
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採点基準 以下の基準を組み合わせて用いた。 | |||||||
○ | 条約でなく、慣習法上の政治犯不引渡原則が本件に適用される、と主張する答案 | |||||||
・ | 同原則が慣習法上個人の権利(ないし国家の義務)として確立していることを証明しようと試みる →15点 | |||||||
・ | 単に「慣習法上個人の権利(ないし国家の義務)となっている」と述べるのみ →5点 | |||||||
これが慣習法上個人の権利(ないし国家の義務)となっているかどうかに関する論争に決着がついていないことは、当然に理解しておくべき。 | ||||||||
その他見るべき点があれば加点。誤りがあっても減点していない。 | ||||||||
△ | 両立性規則(ないし14当事国の異議申立)に照らして本件留保は無効である、と主張する答案 | |||||||
・ | 条約法条約21条3項に定められた規則を無視する →5点 大多数の答案がこの内容。 |
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本来ならば0点だが、留保制度をある程度知っていることを評価する。 | |||||||
・ | 21条3項に定められた規則にもかかわらず、留保を付した条項にもヤンソン国は拘束される、と主張する答案 | |||||||
・ | 人権に関する規定だから、と主張する →10点 | |||||||
・ | 本件で関係する政治犯不引渡の規定が「人権に関する規定」であることを証明しようとしている →+5点 | |||||||
・ | 人権に関する規定の場合はなぜそうなるのかについて、Belilos事件などを用いて説明しようとしている →+5点 | |||||||
・ | 21条3項の壁には気がついているものの、乗り越えられないまま終わっている →15点 | |||||||
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留保制度の理解はできている点を評価する。 | |||||||
その他見るべき点があれば加点。誤り(20条4項cの無視など)があっても減点していない。 | ||||||||
△ | 条約法条約20条4項cにより留保は無効である、と主張する答案 →5点 | |||||||
これも本来ならば0点だが、21条3項に定められた規則を無視する答案に5点を与えることと均衡をとるために、同じく5点を与える。 | ||||||||
その他見るべき点があれば加点。誤りがあっても減点していない。 | ||||||||
△ | 問題の行為は「テロ行為」ではないので留保の対象外、と主張する答案 →5点 | |||||||
・ | なぜ「テロ行為」とは言えないかを根拠づけている →+10点 |
合格答案例 残念ながら、これは、という答案がありません。
条約法条約19条(c)では条約の趣旨および目的と両立しない留保は認められていない。条約法条約20条・21条でこうした留保に対する意義について規定されており、これらによると、別段に例えば「ヤンソン国とヘムル国間では条約効力なし」と表明すれば、この2国間に限り効力は発生しないものとなる。ところが、いずれの国もヤンソン国と条約関係に入らないとまでは表明しておらず、条約法条約21条3項が示すとおり、留保に対する意義申立国との関係は、結局のところ留保を受諾しようと異議を申し立てようと留保は成立することになってしまっている。これは非常に不可解な制度であり問題である。
条約法条約のこの留保の部分は、現在国連の国際法委員会でも再検討がなされているように、改訂の余地あるものである。条約の一体性よりも普遍性が重視されているわけだが、このシステムが人権についての条約では非常に不適切であり、ベリロス事件にも見られるように矛盾が生じる結果となってしまう。以上述べたように、ヤンソン国の留保により政治犯不引渡の原則が適用されない、というのには大いに疑問が残る。
[M本注 一部削除しました。]
「結局のところ……留保は成立する」というのは正確ではありません。21条3項が適用される場合は、留保が成立するのではなく、「留保が成立するのと同じ効果が生じる」のです。
そのほか、上の「採点基準」を参照してください。
救済策
「2」がやや難問であったことを考慮し、以下の措置を講じました。
A. | 「2」のa, bいずれか高い方の得点を2倍とする。つまり、「2」のa, bの片方は「ボーナス問題」となり、125点満点の試験となる。 |
B. | 「1」または「2a+b」の一方が合格点(30点)に達しており、かつ他方が0点でない答案を60点とする。 |
C. | 「2a」または「2b」の一方が合格点(15点)に達しており、かつその他方および「1」のいずれかが0点でない答案も60点とする。 |
D. | B.およびC.に鑑み、A.で合格点に達していた答案に5点加える。 |
成績分布
優 | 良 | 可 | 合格者計 | 不可 | 受験者数 (放棄者を除く) |
登録者数 | |||
8 | 9 | 30 | 47 | 31 | 78 | 179 |
救済策を講じたからかもしれませんが、昨年よりも合格率が高くなり、うれしく思います。とはいえ、合格者数は偶然ながら同じなので、最初からあきらめて受験しなかった人が増えただけなのかもしれません。
学年別成績分布
採点基準に差をつけてはいません。にもかかわらず、学年が下がるほど成績が良くなるのはどうしてでしょうか。
優 | 良 | 可 | 不可 | 合格率 | ||
2回生 | 4 | 2 | 8 | 5 | 73.7% | |
3回生 | 2 | 5 | 11 | 12 | 60.0% | |
4回生 | 2 | 0 | 8 | 8 | 55.6% | |
5回生以上 | 0 | 2 | 3 | 6 | 45.5% |
注意
自分の成績に納得のいかない人は、成績発表後速やかにe-mailで連絡してください。面談して説明します。ただし、9月23日から10月8日までは、出張のため連絡が取れません。返事するのはそれ以降になります。