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期末試験講評
全体に共通する点
「何でも持ち込み可だから」と思って準備をしなかった人はおそらくほとんど不合格だったのではないでしょうか。中間試験を見ていれば、「教科書やノートを見れば解ける」問題が出るはずのないことは分かったと思うのですが……。
点数に納得のいかない人は、早めにe-mailで連絡を取ってください。個別に面談して説明します。
・出発点 問題二つそれぞれ50点から出発する。
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講義で説明した立場(いわば「M本説」)を適切に批判している →10点加点 | |
先例と本件との比較が正確に行われている →10点加点 | |
ボーナス問題に適切な回答をした場合 →内容に応じて加点 |
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理由・根拠を示していない答案 | ||
論旨の根幹にかかる点で理由・根拠を全く示していない →20点減点。 | ||
←法律論は、結論よりもそれに至る論理が命。 | ||
理由・根拠を示そうと努力していれば、それに成功していなくても基本的に減点していない。ただし、講義でしつこく指摘した点や教科書を読めばすぐ分かる事柄に関しては、程度に応じて減点。 | ||
論旨の根幹にかからない箇所での理由・根拠の欠如は減点していない。 | ||
問われていないことに答えている答案 | ||
当然0点。教科書(判例集)丸写しの答案は、だいたいのところ「問われていないことに答えている答案」でした。 | ||
事実関係の誤認 | ||
論旨の根幹にかかる場合、10点減点。 | ||
←実務では、事実関係を正確に理解することが最も重要な仕事とさえ言える。"Get the facts, or the facts will get you". |
以下の基準を適用した上で、30点台〜50点台の答案については、いずれか一問について合格点に達しており、かつ、もう一問の得点が0点でない場合、60点に引き上げた。それに伴い、当初から60点以上の答案は適宜加点している。
問1
中間試験とほぼ同内容の問題なので、復習していれば容易に答えられたはずです。
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なぜ創設的効果説を採用するのか、根拠が示されていない →20点減点 | |||
ただし、「宣言的効果説によっても国家とは言えない」と回答している場合は、根拠を明示せず創設的効果説を主張したことをもって減点していない。 | |||
根拠が不十分である場合 | |||
「マケドン国はスラヴァ連邦とは緊張関係にあったので、その承認は創設的な役割を持つと考えられる」 | |||
なぜ「母国と緊張関係」にあれば創設的効果説になるのかの説明が欠けている →5点減点 | |||
「ヴァティカン市国のような例を考えると、創設的効果説の方が良い」 | |||
ヴァティカン市国のような極小国家の存在を根拠に創設的効果説の優位を説く立場の問題点は講義で指摘してある。 →10点減点。ただし、講義で述べた説明に反論を試みておれば、その成否に関わらず減点していない。 | |||
反批判がない | |||
強烈に批判されている説であることは十分承知のはず。 | |||
創設的効果説に対して一般になされる批判に反批判を加えていない場合、15点減点。 | |||
反批判を試みておれば、その成否にかかわらず減点していない。 |
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「マケドン国は自決権に違反して樹立されており、国家ではない」 | ||
どこがどう自決権に違反しているかの説明がない →20点減点 | ||
自決権侵害がなぜ国家性を否定するのかの説明がない →20点減点 | ||
「財産権の侵害などの人権侵害は自決権侵害である」 | ||
根拠が示されていない →10点減点 | ||
「アルバニー人優遇政策はアルバニー人以外の者(スラヴァ人)の自決権を害する」 | ||
「アルバニー人以外の者(スラヴァ人)」が自決権享有単位(人民)をなすことの説明がない →5点減点 | ||
なぜこの政策が自決権侵害になるのか、説明がない →10点減点 | ||
「アルバニー人から見ると自決権行使だが、スラヴァ連邦からすれば自決権の侵害」 | ||
なぜ「スラヴァ連邦の自決権」の方が優位するのか説明がない →5点減点 | ||
「スラヴァ連邦内では内的自決が満たされているので外的自決権は行使できない」 | ||
「分離は事実の問題であり、分離『権』は問題にならない」という通説的説明に批判を加えていない →10点減点 | ||
「内的自決が満たされている」根拠を示していない →10点減点 |
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「アルバニー議会には全人口の60%強の支持があるのみなので、実効的政治権力が確立しているとは言えない」 | ||
なぜ60%強の支持ではだめなのか、説明がない →20点減点 | ||
ただし、自決権享有単位(人民)と結びつけて論じている場合、減点していない。 |
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「強行規範に違反して樹立された実体は『国家』ではない」 | ||
根拠が示されていない →20点減点 |
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「人権侵害を行う『国』は国家でない」 | ||
なぜその場合国家でないのか、根拠が挙げられていない →20点減点 | ||
誤った根拠(自決権侵害の先例など)を挙げている場合 →15点減点。ただし、自決権侵害を理由とする国家性の否定を主張しておれば、ここでの減点はなし。 | ||
他に国家性否定の根拠が挙げられている場合 →減点せず。 |
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中間試験の際に説明したので繰り返さない。同じ間違いなので減点すべきところだが、していない。 |
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このガイドラインは「承認」に関するものである。 →20点減点。ただし、これ以外に国家性否定の根拠を挙げている場合、減点せず。 |
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自称「マケドン国」は、国家の積極的要件である住民・領域・政府を有しており、独立までの過程も民主的な手段をとっており、一見、国家としての要件を満たしているようにみえる。しかしながら、「マケドン国」の立法を見ると、アルバニー人以外の政治への参加の制限、信仰の自由の制限、補償なしの農地剥奪等、過度のアルバニー人優遇政策をとっている。これは、政治への参加の制限という形で、アルバニー人以外の人民の自決権が侵害されている。 自決権侵害を理由にいかなる国によっても独立国とはみなされなかった南ローデシアの場合と同様に、「マケドン国」は国際法上の国家ではないと考えるのが妥当である。 |
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コメント | |
・「政治参加の制限=自決権侵害」となる根拠は? ・「アルバニー人以外」が自決権享有主体となる根拠は? |
問2
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問題文に「いずれにせよ」とあるのを無視している。主権免除不適用の根拠がこれ以外に挙げられていなければこの問に関して0点。 |
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「法廷地国内に存在する不動産に関しては主権免除はない。よって農地没収に関しては主権免除はない」 | ||
法廷地国はどの国で農地が没収されたのはどの国? →10点減点。なお、これ以外に主権免除不適用の根拠が挙げられていなければ、この問につき0点。 |
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違法行為であれば主権免除が認められないとする根拠が挙げられていない →20点減点 |
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なぜ「非主権的行為」なのか、説明がない →20点減点 | |||
説明が不可解 | |||
「農地没収は私人でも行い得る行為なので、主権免除は認められない」 →15点減点 | |||
「公的目的を達成するものとしては強硬すぎる」 →15点減点 | |||
「スラヴァ人のみを差別的に扱い、補償もない」 →15点減点 | |||
「不法行為なので、主権免除は認められない」 | |||
根拠が挙げられていない →20点減点 | |||
本件で問題とされている行為が「主権免除が認められない不法行為」に該当することの説明がない →20点減点 | |||
「国際法違反なので不法行為」 →10点減点 | |||
「反訴をしているので、主権免除は認められない」 | |||
事実誤認。 →このほかに根拠が挙げられていなければ、この問につき0点。 |
コメント | |
この問題に正面から答えるのはきわめて困難です。主権免除の理論をきちんと理解しておれば、この問題にはほぼ回答不可能なことに気がつき、これを選択しなかったはずです。 まともに答えた答案はありませんでしたが、問題の難しさを考慮に入れて、「非主権的行為だから免除されない」という主張を何らかの形で根拠づけようと努力した答案には合格点を与えています。 |
問3
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問に答えていない(問2へのコメント参照)。→これ以外に根拠が挙げられていない場合、この問に関して0点。 | |||
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論外である。これ以外の根拠を挙げていない場合、この問に関して0点。 | |||
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根拠が示されていない →20点減点 | |||
「違法行為なので公務ではない」 | |||
これでは免除制度の意味がなくなってしまう →20点減点 | |||
「強行規範違反の行為は国家(元首)としての行為ではない」 | |||
これが論理的に難点を含むことは講義で説明しており、判例集にもその旨の解説が付いている。そういう批判に反批判を試みずに単にこれを主張するだけの答案 →10点減点 | |||
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なぜ国際犯罪であれば免除は否定されるのか説明なし →20点減点 | |||
ピノシェ事件だけを援用するにとどまる | |||
この事件だけで慣習法の存在を証明できるか? →ただし減点せず | |||
なぜウチェカの行為が「国際犯罪(強行規範違反)」であるのか説明なし →10点減点 | |||
説明を試みているが不十分 →減点せず | |||
例 「ジェノサイド条約などが締結されていることから」 | |||
「拷問と殺人とを区別するべきでない」 | |||
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イングランド裁判制度の特殊性から、この事件において「裁判所の」意見を語ることは困難だ、ということは講義で解説したとおり。 →ただし減点せず。 | |||
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判例集p. 329を写した? なぜイギリスの法律が本件に適用されるのか。 →10点減点。ただし、ほかに根拠が挙げられている場合は減点せず。 | |||
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本件と全く関係ない →ほかに根拠が挙げられていなければ、この問に関して0点。 | |||
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「ウチェカは訴追されなければならない」 →関係ない。ただし、減点はしていない。 | |||
ただし、「刑事裁判からの免除はない」というのみで、本件のような損害賠償訴訟について説明がない場合 →10点減点 | |||
「本件は民事裁判ではなく刑事裁判であり」 →10点減点 |
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国家元首については一般に裁判管轄権からの免除が認められているが、国際法違反が国家元首に帰責される場合には放棄されるとみなされた例も存在する。本件に関しては、ウチェカのスラヴァ人誘拐・殺害といった「民族浄化」的な措置が国際法違反として裁かれうるか、が問題である。 ここで、ピノシェ仮拘禁事件が参考になる。在職中の行為が元首の任務遂行行為に該当すれば免除を享受しうる、という基準のもと、裁判官の多数意見はピノシェが行った拷問が任務遂行行為ではないと論理構成をしたが、むしろ、ここでなされた免除の否定は、国際犯罪については、公務員の地位にかかわらず行為者を有責とするという国際刑事裁判所の管轄権の考え方に沿ったものだと思われる。 本件ウチェカの行為は、本人は「事実無根のでっち上げ」としているものの、実際にロストロのような犠牲者が存在する以上、殺害などの信憑性は高く、国際犯罪とみなされると考えられ、ピノシェ仮拘禁事件で示された国際犯罪についての見解に基づき、国家元首の免除は適用されない。 |
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コメント | |
・本件の「殺害」などが「国際犯罪」である根拠は? ・ピノシェ事件は刑事裁判、本件は民事裁判。この違いは影響する?しない? |
問4
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問に答えていない。答えるべき問は、「なぜアメリゴの裁判所が管轄権を持つのか」である。これ以外に根拠を挙げていない場合、この問について0点。 | ||
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どういう行為がどういう人権を侵害しているかの説明がない →10点減点 | ||
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本件で何が「国際犯罪」なのかの説明がない →10点減点 | ||
「『民族浄化』は国際法上の犯罪である」 | ||
本件で「民族浄化」が行われていると主張する根拠が挙げられていない →10点減点 | ||
「民族浄化」が「国際法上の犯罪」であることの根拠が挙げられていない →10点減点 | ||
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いかなる人権侵害であれば普遍主義が認められるのか、説明がない →10点減点 | ||
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全く証明になっていない →他に根拠が挙げられていなければこの問に関して0点 | ||
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これは「管轄権を行使しても違法にならない」という主張であり、「管轄権を持つ」ことについて何も証明していない。 →他に管轄権の根拠が挙げられていなければこの問に関して0点 | ||
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これは「アメリゴ国」国内法に関する議論である。問題とされているのは「国際法上の論点」であるので、回答すべき問は、「外国人不法行為法の要件を満たせば管轄権を認められるのはなぜか」である。これ以外に根拠を挙げていない場合、この問について0点。 | ||
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同上。フィラルティガ事件判決・カラジッチ事件判決が管轄権に関してどういう国際法規則に依拠していたかを説明していなければ、この問について0点。 |
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たしかに、国際法上一般的に許容されているのは、管轄権の属地主義・属人主義である。しかし、本件で争われているのは農地没収と殺人という人権に関する問題である。 国際社会全体にとって保護されるべき利益を侵害する行為を理由として、当該行為を行った者についてすべての国に管轄権を認めるという普遍主義的な管轄権が本件においても適用されると主張する。 人権問題に普遍主義が適用される根拠として、フィラルティーガ事件およびアイヒマン事件がある。前者では国際人権法がパラグアイ政府・パラグアイ国民に関する事件に対し第三国であるアメリカ合衆国内で適用されたことから、人権規定の普遍的効果が認められている。また後者において裁判所は戦争犯罪並びに集団殺害罪について普遍主義の適用を認めている。 本件では、ロストロ氏の訴えがマケドン共和国及び同国大統領ウチェカによる農地没収・兄弟殺害という人権侵害に関するものであるため、普遍的管轄権がアメリゴ国にもある。 |
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コメント | |
・あらゆる人権侵害に「普遍主義」が適用されるのか? |
問5
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その根拠が示されていない →20点減点 | |||
根拠は積極的に示していないものの、「国際的手続なければ個人の国際法主体性なし」という説の欠点を適切に指摘している →減点なし | |||
「『国際的手続なければ個人の法主体性なし』という説はおかしい」と根拠を挙げずに述べるだけ →10点減点 | |||
「国際的手続きなければ個人の法主体性なし」という説に触れていない →20点減点 | |||
不十分な根拠しか示されていない | |||
「人が法の究極の単位であるから」 →それ以上の説明がなければ10点減点 | |||
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その「一定の条件」が本件で満たされることの証明がない →20点減点。 | |||
「市民的及び政治的権利に関する国際規約第2条から」 | |||
教科書p. 132に依拠した? よく読めばこれが根拠にならないことは分かるはず。 →10点減点 | |||
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本件において何がその「国際的手続」なのか示していない →20点減点 | |||
「外国人不法行為法」がその「国際的手続」だと考えている →20点減点 | |||
国際人権規約(自由権・社会権)に加入していることがその「国際的手続」だと考えている →20点減点 | |||
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本件で人権侵害とされている行為は、法廷地国で行われていない。 →これ以外に管轄権の根拠が挙げられていなければこの問について0点。 | |||
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これは「人民」の権利 →ただし、減点せず | |||
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根拠が示されていない →ただし、減点せず |
コメント | |
残念ながら、答案のほとんどは、 @「条約が個人の権利を定めておれば個人は国際法主体となる」と述べるだけ または、 A「国際的手続があれば個人も国際法主体となる。本件国内訴訟がその国際的手続である」と主張する のいずれかだった。@については上記コメント参照。Aについては、なぜ「国内訴訟」が「国際的手続」たり得るのか説明がなければ、根拠のない「言いっぱなし」になってしまう。 |
成績分布
優 | 良 | 可 | 不可 |
3 | 30 | 14 | 56 |