法学部 2019年度後期 国際法第一部

講義関連の質問と回答

講義の概要 

講義の記録

 

講義内容について質問がある場合、特に個別の回答を要するものでない限り、こちらに掲載します。

 

第1部

3. 東アジア2

質問1

 日本が幕末に締結した日米修好通商条約においては、日本側に関税自主権がないことを確認する内容が含まれており、しかしながらそれは、日本側にはアメリカに輸出を行う意思がなかったから当然であるという説明についてですが、条約締結後には実際に日本と列強国との間で貿易が行われ、日本からは主に生糸が輸出された、ということを記憶しています。これはつまり、日本側としては正式に貿易を行う意思はなかったが、商人レベルでの交易は行われていた、ということでしょうか。それとも、当初は貿易の意思がなかった日本側も、結局は貿易の必要性に駆られて当初の意思を翻意した、ということでしょうか。それともまた別の理解をするべきでしょうか。

回答1

 まず、講義でも議論したように、「関税については、輸出税の賦課にはこだわったものの、関税自主権を確保することには関心を示さなかった。そして、日本人が……輸出によって利益を得ることを想定・期待していない段階では、[協定関税]の片務性はほとんど問題にならなかった」(五百旗頭薫『条約改正』(有斐閣、2011年)7頁)という理解が一般的です。輸出によって利益を想定・期待することが全くなかったかというと、必ずしもそうでもないようではありますが(参照、西川武臣『幕末・明治の国際市場と日本』(雄山閣、1997年)第1章)、輸出で稼ぐという発想が基本的になかったのはたしかなようです。

 ところが、「当初は[横浜港への]入港船もわずかで、欧米からも期待されていなかったにもかかわらず、その後は予想をしのぐ大発展を遂げる」(井上勝生『日本の歴史 第18巻 開国と幕末変革』(講談社、2002年)292頁)ことになりました。生糸の輸出が激増したことについては、この時期、ヨーロッパで蚕病が流行したため当地の生糸産業が壊滅的被害を受けたことがその要因の一つとされています(高橋亀吉『日本蚕糸業発達史 上巻』(生活社、1941年)63頁)

 なお、片務的協定関税(片務的関税自主権の欠如)については、それが実際には日本側に有利な効果をもたらしたという指摘があります(杉山伸也「条約体制と居留地貿易」東アジア近代史13号(2010年)143頁)。一読を勧めます。

第3部 国際法の形成2

質問2

 ニカラグア軍事活動事件のICJ本案判決において示された、「一般的規則に対する例外として主張する行動は、むしろ当該一般的規則の承認・強化になる」という理論は、おおよそ同事件のような武力行使に関する文脈で認められてきたものなのでしょうか。教科書P149には、そのような例外主張がされなかった例が挙げられていますが、例外主張が積極的に認められた例は、現在のところは少ないのでしょうか。

回答2

 武力行使(自衛)がおそらく一番わかりやすい例だと思いますが、もちろんそれに限定されるものではありません。

 たとえば、国家の裁判権免除事件(判例集26)で、イタリアは様々な理由をつけて本件に関する限りドイツに免除が認められないことを主張しています。これは、特段の理由がない限りは国家免除(主権免除)が認められることをイタリア自身認めているからであり、国家免除(主権免除)の一般論を強化する主張といえます。

質問2-2

教科書p.146下から二行目「法的信念とは……」とありますが、これと、p.147の真ん中「他方、法認識説に対しては……法的信念が当該慣習法規範の存在認識を内容とする……」との関係がよくわかりません。

 法認識説は、「私は、現に妥当している法規範に従っている」という認識こそが法的信念である、と説明します。しかし、実行+法的信念=慣習法規範という考え方を前提にすると、法的信念が成立した後(あるいはそれと同時)に慣習法規範が生じるはずであって、法的信念が成立するまで慣習法規範も成立しないはずなのだから、「現に妥当している法規範に従っている」という認識を法的信念とするのは、論理的にも時間的にも矛盾している、との批判が可能です。

第5部 国際法による空間秩序規律3

質問3

「もっとも、この規定と、条約がEEZにおける権利・管轄権を沿岸国またはその他の国に帰していない場合に、これらの国家間で利害対立が生じた場合には、衝平原則に基づき関連するすべての事情に照らして解決するとした59条との関係をどう理解すればよいかについては議論がありうる。」(教科書217頁)

 以上の記述において、「条約がEEZにおける権利・管轄権を沿岸国またはその他の国に帰していない場合」という部分がよくわかりませんでした。国連海洋法条約以外の条約において、国連海洋法条約58条2項で認められるはずの、EEZへの「沿岸国の主権的権利・管轄権」が特に定められていなかった場合ということなのでしょうか。

回答3

 58条2項にいう"this Part"すなわち排他的経済水域に関する第五部(Part V)には、沿岸国の主権的権利・管轄権に関する規定が数多くありますし、沿岸国以外の国の権利についての規定(例えば62条2項はそう理解できます)もありますが、そこに書かれていない(と解釈される)ことについては58条2項と59条との関係が問題になり得ます。

 58条2項によれば、第五部に明示されていないことについては公海に関する規則が適用されることになるでしょうが、59条によれば、まずは「衡平な」解決策が探られるべき、となります。もっとも、59条がshallではなくshouldを用いていることも一因なのか、59条が援用される例は余り知られていません。