2012年度前期 法科大学院・国際法特講 公共政策大学院 国際法(人と活動)

 

講義の概要
 

 

前期・2単位

 

講義の概要・目的

〔法科大学院生へ〕

 欧米の大規模法律事務所を見ると、国際法を業務内容としているところが少なくない。また、国連等様々な国際機構においても、法曹資格を有する人々が国際公務員として働いている。しかし、残念ながら、この分野において日本の法曹の進出は十分というにほど遠い状況にある。

 日弁連は、『自由と正義』誌において「国際法の理論と実務」(2009年2月号および2010年5月号)や「国際機関で働くということ」(2009年3月号)と題する特集を組み、さらに、2010年から年に1回「国際分野のスペシャリストを目指す法律家のためのセミナー」を法務省・外務省と共催している(後援:国際法学会・法科大学院協会)。これは、国際法分野において活躍する日本の実務法曹が今求められているという認識を、政府・学界のみならず実務界も共有していることを示す。そして、例年このセミナー(8月開催)には全国各地から多くの法科大学院学生が参加し、国際舞台での実務活動に関心を持つ学生が少なくないことも明らかになっている。

 本講義では、国際法を用いる法曹実務とはどのようなものかを体感するために、教員自身の実務活動も基礎にしつつ、仮想あるいは現実の問題を素材として、国際法を用いた問題解決を実践的に試みる。 当然ながら、国際法に関する法的問題といえども、国際法にのみ関するものはほぼ皆無と言って良い。これまでに身につけた国内法各分野についての理解を総動員して取り組むことになる。

 また、実務活動において「書く」能力は基礎中の基礎である。この講義では、「書く」練習を重ねることにより、その基礎的能力を涵養するとともに、国際法全体の理解を固め・深めることもねらいとする。


〔公共政策大学院生へ〕

 この講義では、国際法を「使う」ことを学ぶ。教科書に書かれている国際法を現場でどのように使うのか、そのためには何を知っておかねばならず、どのようなことに留意する必要があるのか、を体感する。

 法科大学院と共通の講義であるため、基本的には訴訟の場を想定している。公共政策の学生としては、自分が訴えられる側の企業の担当社員だったらどのように行動するか(第1部・第2部)、国側の担当官庁の公務員だったらどうするか(第3部)を考えるのも有益だろう。以下の仮想の例を見ても判るように、国内でしか活動しない企業に勤めても、外務省や経産省でない官庁に勤めても(地方公共団体でも!)、国際法に関する問題はいつでも生じ得る。その際、あなたはどのように対応すべきだろうか。

講義計画と内容

 以下のような概要の事例(実際のものもあれば、仮想のものもある)に取り組む。「何をどのように調べたらよいか」から始まり、主張を組み立て、議論し、簡潔な書面を作成する。一つの事件に2回の講義をあて、丁寧に考える。
導入(第1回) 簡単な例題を基にしたbrainstorming

1.外国人差別
(第2回・第3回)

Aさんは、日本人でないことを理由に、近所の居酒屋への入店を断られた。最近マナーの悪い外国人が頻繁にやってきて、客が減って困るのだという。何とかしてくれとAさんから頼まれたあなたは、どういう法的対応をアドヴァイスすべきだろうか。

2.難民
(第4回・第5回)

Bさんは、親族からの虐待により命の危険を感じて日本に逃れ、難民申請をしたところ、認定されなかった。Bさんの主張を裁判所に認めさせるためにはどういう議論をすればいいだろうか。

3.刑事法
(第6回・第7回)

内戦が続き、政府が崩壊状態にあるC国から、内戦の一方当事者の指導者で、相手グループの大量殺害を指揮したと疑われるPが日本に密入国していることが判明した。日本の司法当局はどのような対応をとるべきか。Pの弁護人はどうすべきか。
4.日本への投資
(第8回・第9回)
ある政令指定都市Pにおける首長選挙で、P市の発注する公共事業契約は同市に本拠を置く法人にのみ発注し、もって地元経済を活性化させるとする「公契約条例」を公約に掲げる候補が当選し、議会でも同条例が採択された。P市の発注する公共事業公募に応募しようとする外国企業Yは、何らかの法的対策を採ることができるだろうか。P市役所としては、Yの動きにどう対応すべきだろうか。
5.日本からの投資
(第10回・第11回)
日本企業SがT国からの熱烈な招聘を受け、同国に工場を建設し、生産を開始した。ところが、T国で革命が生じ、新政権は同工場に対して様々な業務妨害をするようになった。どのような法的対応が可能だろうか。

6.原発事故
(第12回・第13回・第14回)

2011年3月以降続く福島第一原発事故がどのような国際法問題を生ぜしめるかを考える。これまでに日本政府は他国との関係においてどのような対応をしてきたか、他国はどのような反応をしたかを調べ、日本政府の対応に問題はなかったかを考える。その上で、今後生じ得る問題を考え、日本政府の立場および相手方の立場に立って、それぞれどのような法的議論をすべきか考える。

履修要件
 受講生は国際法関連科目を履修済である(もしくは同程度の理解を有している)との前提で講義を行う。
成績評価の方法・基準
 筆記試験および平常点による。
教科書・参考書
 

【教科書】酒井啓亘ほか『国際法』(有斐閣、2011年)

  講義の中で本書を読むわけではないが、講義では、本書の関連部分(毎回指示する)を予習済であることを前提に行う。

  その他、必要な資料(英語を含む)を配付またはダウンロードを指示する。

【参考書】松井芳郎(編集代表)『判例国際法[第2版]』(東信堂、2006年)

その他

〔法科大学院生・公共政策大学院生へ〕

 「国際」法なので、必然的に英語による資料も少なからず利用することになる。国際舞台で活躍するために必要な英語力を涵養する場としても活用されたい。もちろん、それぞれの英語力に応じた範囲で対応すれば十分である。当然ながら一定の予復習が求められるが、他の講義と両立する範囲で間に合うように配慮する。


〔公共政策大学院学生へ〕

 この講義は法科大学院の学年暦に従って開講される。公共政策大学院の学年暦とは多少のずれがあり得ることに留意されたい。