国際機構法 2010年度後期
期末試験
試験 2011年2月15日(火) 11:20-13:10
持込 六法貸与(六法には国連憲章が含まれている)
試験問題 (PDF)
添付資料 なし
講評
全体的コメント
試験の答案は、自分の言いたいことを言う場ではなく、個人的な熱い思いをぶちまける場でもない。問われていることに回答する場である。すなわち、「問われている」ことに答えていない答案は評価の対象とならない。「問われていない」ことについて延々と論じたところで、それがいかに優れた内容であったとしても、試験の答案としては無価値である。今回の試験においては、「可能な限り具体的事実に基礎づけつつ」(問1)、「可能な限り具体例に触れつつ」(問2)、回答すべきことが求められていたことに留意されたい。
試験の答案は、長ければいいというものではない。同じ情報量であれば、短い方が良いのはもちろんである。しかし、「可能な限り具体的事実に基礎づけつつ」(問1)、「可能な限り具体例に触れつつ」(問2)という注記があるにも拘わらず4頁ある答案用紙を埋め尽くさずに答案作成をしようとするならば、驚異的な文才が必要である。もちろん、試験時に口頭で注意喚起したように、情報量の多さは十分条件ではなく、全体の論旨・構造と具体的事実への言及とが有意に関連づけられていることが必須である。
問1 (50点)
1. ねらい
2. 答案に求められること
「可能な限り具体的事実に基礎づけ」ることが問題に明示されている。 意外なことに、それが一切試みられていない答案も散見された。当然、不可である。
では、どのような具体的事実を指摘すべきか。高校の教科書にも、以下の程度のことは載っている。
したがって、これらの事実に言及したとしても、それらに触れるのみで詳細に説明・分析することなく結論に達するだけでは、評価の対象にならない。残念ながら、そのような高校レヴェルの答案が散見された。
「予想される反論にあらかじめ対応」することも明示的に求められていた。これをしていない答案もまた、不可である。
3. 答案に期待されていないこと
今回の試験では、国際連盟規約を配付していない。したがって、国際連盟規約の関連条文番号への言及や、規約の文言の詳細な解釈論を展開することは期待していない。
4. 「賛成」とする答案の場合
(1) 具体例の検討
上に指摘したように、これらの事実に触れるだけでは足りない。たとえば、対イタリア制裁失敗であれば、単に「失敗した」と述べるだけでは足りない。説明を試みる答案も、以下のような記述にとどまるものが大半だった。なお、以下引用する答案例は全て部分的抜粋であり、かつ、誤字脱字の訂正を含め、文章表現に多少手を加えている。
【答案例1】 イタリアがエティオピアを侵略したことで経済制裁がなされたときには、イタリアと経済的に密接な関係にある国が貿易制限をあまり行わないなど、あまり効果を発揮できなかった。 |
ここで止まってしまっては、なぜそれが国際連盟の欠陥であるのかがまだ判然としない。「貿易制限をあまり行わない」国に対して国際連盟が何をなすべきであったか、それをなしえなかったのはなぜか、の説明が必要となる。残念ながら、そこまで説明しようとした答案はほぼ皆無だった。
(2) 予想される反論への対応
「賛成」の立場に立つ答案の多くは、以下のような主張をしていた。
【答案例2】 連盟規約16条は、武力制裁を義務づけていなかった。そのため、イタリアのエティオピア侵攻の場合にも、日本による満州事変の際にも、既成事実を排除することができなかった。 |
これに対して予想される反論としては、たとえば、次のようなものがある。
その他、よく見られる主張については、それぞれ以下のような反論が予想される。
そもそも、「国際連盟に欠点があるというのなら、では、どのような制度を作れば良かったというのか? 実現可能な、よりましな制度としてどのようなものがあり得たのか?」という根本的な反論がなされ得る。 これは、講義でも議論したところである。
(3) 答案にしばしば見られる欠陥
以下のような欠陥を抱える答案が散見された。いずれも、減点対象とはしていないが、これだけでは加点できない。
【答案例3】 国際連盟は国際平和のために設立されたのであるから、成立から大して年月が経たないうちに第二次世界大戦が発生してしまった以上、国際連盟は失敗であったと評価するほかない。 |
ここで終わってしまうならば、「国際連盟が」第二次世界体制を阻止できなかったことの説明にはなっていない。第二次世界大戦を阻止できなかった原因のうち、重要なものの少なくとも一つが国際連盟にある、ということを何らかの手段で説明しなければならない。そこで、上記具体例の活用が求められる。幸い、多くの答案はそれを試みていたが、中には【答案例3】のように書いてそれで終わってしまうものもあった。
【答案例4】 国連憲章では、安全保障理事会による軍事措置が可能となっている。 |
もちろん、それは正しい。しかし、国連憲章第7章の運営の実際に触れないのであればほとんど意味がない。国際連盟の場合も、それが連盟規約の規定通りに機能すればかなりのことができたはずなのである。
5. 「反対」とする答案の場合
(1) 具体例の検討
「賛成」とする答案の場合に同じ。
(2) 予想される反論への対応
上記「具体例」から見れば失敗としか評価できないのではないか、との反論が予想される。これに対して、「反対」の立場に立つ答案の多くは、次のように述べて再反論を試みている。
【答案例5】 仮にこの時代に現在の国際連合のような集団安全保障体制が整っていたとしても、戦争を防ぎ得たかはわからない以上、国際連盟は失敗したと評価することはできず、また戦争発生の責任を国際連盟だけに負わせることにも疑問が残る。 |
しかし、「戦争を防ぎ得たかはわからない」と言うだけでは再反論にならない。一歩進んで、「防ぎ得なかった」とまで主張する必要がある。満州事変の際の日本、エティオピア戦争の際のイタリア、対フィンランド戦争の際のソ連を例に議論を展開することができるだろう。また、「国際連盟だけに」責任があるわけではないと言っても再反論にはならない。「国際連盟にも」責任があると言われればそれまでである。
(3) 答案にしばしば見られる欠陥
これも、減点対象ではないが、これだけでは加点できない。
【答案例6】 国際連盟は、国際連合設立に当たって参考とされるなど、後の発展の基礎を作った。したがって、失敗とは言えない。 |
この程度のことは一般常識に属する。ここで終わってしまうのであれば、専門科目の答案としては不十分である。ここで終わらずに、
ことまで論じている答案については、内容に応じて加点している。
6. 両方の答案に共通する問題
(1) 多く見られた誤解
以下のような誤解が頻繁に見られた。
(2) 不適切表現・誤表現
同じ間違いをしないようにするため、例を挙げておこう。
問2 (50点)
1. ねらい
2. 答案に求められること
法制度の観点からの異同について議論することが明示的に求められている。したがって、それについて議論をしていない(議論を試みていない)答案は、評価の対象とならない。
「可能な限り具体例に触れつつ説明」することも明示的に求められている。答案の論旨を多くの具体例に基礎づけることが期待されている。
3. 答案に期待されていないこと
法制度以外の観点からの両者の異同についての説明は、それが法制度に関する議論と関連しない限り、無意味である。今回、不可とされた答案の多くはこれである。「法制度の観点から見た場合」と明記しておいたにも拘わらず、政治経済的観点からの説明に終始した答案が頻出したのは意外だった。
4. 類似点
以下の要素が考えられる。もちろん、これ以外にもたくさんあるだろう。
5. 相違点
これも、以下に限られるものではない。
6. 散見される問題
(1) 多く見られる誤解
最も不可解だったのが、EUについて力説する答案が相当数に上ったことである。もちろん、グローバル化の文脈にEUを位置づけることは可能だが、答案の全体の論旨との関連性を明確にしないままに、とにかくEUについて論じる答案が実に多かった。一体どういう訳だろうか。昨年度の問2がEUに関するものだったから?
(2) 不適切表現・誤表現
以上